日本時間12日未明に、パリ郊外のスタッド・ド・フランス行われた閉会式。
五輪旗が次期開催都市のロサンゼルス市長に手渡されると、会場が暗転。
すると、スタジアムの屋根に登場した、俳優のトム・クルーズさんが空中を舞って、フィールドに降り立った。
五輪旗を受け取ったトム・クルーズさんは、バイクで選手の間を駆け抜け、その後飛行機でアメリカに到着、ミッションを成功させた。
まさに、バトンがパリからロスにつながった瞬間だった。
テロの脅威と隣り合わせだった“パリ2024”
テロへの警戒を最高レベルに引き上げたまま、開催されたパリ五輪は、大きな混乱もなく17日間の日程を終えた。
大会前には警察官が刃物で襲われ、開会式当日には、高速鉄道TGVの複数の路線でケーブルが放火される事件が発生した。
期間中には、イスラム組織ハマスの最高指導者がイランで殺害されたことで、中東情勢が緊迫、テロの懸念が高まったが、フランスの治安当局は1日3万人の警察や憲兵を警備にあて、大きな混乱はなかった。
開会式も当初の予定通り、夏の大会としては初めてスタジアムの外、セーヌ川で開催された。
開会式の演出に批判噴出も…市長「ほら見ろ」
開会式の内容をめぐっては、イエス・キリストと使徒たちを描いたレオナルド・ダ・ビンチの「最後の晩餐」を揶揄する演出があったとして物議を醸し、ローマ教皇庁が不快感を示す事態にまで発展した。
一方で、全般的に演出は華やかで斬新だったとする評価も上がった。
パリ市民からは、五輪の開催を批判する声が当初から上がっていた。厳しい警備や地下鉄と道路の混雑を嫌い、多くの市民が期間中パリから避難した。
しかし、開会式や競技の熱狂を目の当たりにし、「やはりこのイベントに参加しよう」と、一部の市民がパリに戻ってくる現象が見られた。
イダルゴ・パリ市長は、大会の運営が「国内外からほぼ満場一致で称賛された」と振り返り、批判の声を「ほらみろ」という言葉で一蹴してみせた。
現に、競技のチケットは毎日4万枚売れ、「値段が高すぎる」との不満の一方で、販売総数は五輪史上最も多かった、1996年アトランタ大会の830万枚を大幅に上回る、950万枚超にのぼった。
セーヌ川で競技強行…選手ファーストは? 運営側は体調不良「報告なし」
「二酸化炭素排出量50%削減」を目指した今大会はインフラの95%を既存あるいは仮設の施設で賄った。
エッフェル塔やコンコルド広場、ベルサイユ宮殿などの観光名所を利用した競技会場は観客を楽しませ、花の都パリの魅力を世界に向けて発信したことに加え、サステナビリティーの面でも競技の新たな見せ方を提示した。
一方、「セーヌ川を泳げるようにする」を大会のレガシーにすることにこだわり、水質の最新のデータを確認しないままトライアスロンなどの競技が強行実施されたことに疑問の声が上がった。
詳しい因果関係はわかっていないものの、複数の選手の体調不良が報じられても、IOC=国際オリンピック委員会と大会組織委員会は、体調不良の報告自体がないと主張し続けた。
名ばかりの“ペットボトル禁止”
一方、選手村ではフードロスの削減にこだわるあまり、当初、食堂で食材が不足する事態が発生。
また、室内に部屋にエアコンがないことで選手から不満が噴出した。
また大会を通じて、「ペットボトルの禁止」をうたっていたが、客に提供されるリサイクルコップにはペットボトルから飲料が注がれ、売店のごみ箱には使用済みのペットボトルが山積みになっていて、環境配慮への本気度が問われた。
ジェンダー平等・公平な競技のあり方とは
今大会はジェンダー平等の理念のもと、出場選手の男女の比率を50%ずつにする目標を掲げてきた。
バッハIOC会長は閉会式で、「男女のジェンダー平等が完全に実現した初めてのオリンピックだ」と、胸を張った。
様々な性のあり方を受け入れながら、いかに差別なく公平な競技を運営するかを考えるきっかけとなった。
“ロサンゼルス2028”へ…
海外で開催された五輪として最多のメダルを獲得した選手たちの活躍に沸いた日本列島。
一方で、SNS上には日本選手のみならず、審判や、性別をめぐる騒動に巻き込まれた選手たちに対する誹謗中傷があふれた。故に「炎上五輪」とも称され、各国の選手団が対応に追われた。
オリンピックを取り巻く環境が、時代とともに変わりゆく中で、今大会の教訓と課題は、4年後のロサンゼルス大会に引き継がれる。
【FNNパリ支局長 山岸直人】