「現職の小池都知事の当選は堅いと思ったが、石丸氏の支持がここまで広がるとは思っていなかった」
FNNの取材に対し東京都知事選挙についてこう振り返るのは、労働組合の中央組織「連合」前会長の神津里季生氏だ。選挙後初めてメディアの取材に応じた。神津氏は連合会長を2015年10月から3期6年間にわたって務め、2017年には連合が支持していた民進党(旧民主党)が希望の党との合流騒動を経て立憲民主党と国民民主党への分裂に至る過程も支持団体のトップとして経験している。

7月7日に投開票された都知事選では、現職の小池知事が3回目の当選を果たし、立憲民主党が支援した蓮舫氏は、無党派層からの得票を伸ばした石丸伸二氏にも及ばず、3位に終わった。連合東京は国民民主党の東京都連と共に小池知事の支援に回り、立憲とは対応が分かれる結果になった。
神津氏は、今回の蓮舫氏の選挙戦について共産党の支援が目立ったと指摘した上で、自らが連合会長だった時代には立憲側に対し、再三にわたって共産との関係について注意を促してきたと明らかにした。
「連合にとって共産党は相いれない存在だ。共産党の関係者が選挙カーに乗ったり、選挙事務所で手伝うと、一生懸命応援している連合の関係者の意欲をそいでしまう。これまで様々な選挙でそういう状況を作らないように各候補者の陣営に伝えてきた」
蓮舫氏3位で連合が指摘する共産党敗因論
こうした連合のスタンスが象徴的に表れた場面がある。都知事選から4日後の7月11日、立憲と連合の執行部が対面で臨んだ会合だ。立憲側は泉代表や岡田幹事長、連合側は芳野会長らが出席し、蓮舫氏の敗因などをめぐり意見を交わした。会合後に泉氏と並んで報道陣の取材に応じた連合の芳野会長の口から出たのは「共産党敗因論」だった。

「(蓮舫氏が)共産党さんからの候補者のように見えてしまっていた。少し共産党さんが前面に出過ぎていたということで逃げてしまった票もあったのではないかということを申し上げた」
連合側は共産との連携で無党派層が離れたのではないかとの懸念を伝えると共に、支援する立憲と国民民主について、「現与党に代わって政権を担い得る政治勢力の結集の核となることを期待している」と述べ、次の衆議院選挙に向けて連合も含めた3者の連携強化を求めた。国民民主も共産との連携には否定的であり、改めて立憲に対して共産との連携路線を見直すよう迫った形だ。これに対し、立憲側は選挙結果を「分析して総括をまとめる」と応じた。
都知事選総括をめぐる立憲と連合の温度差
立憲内では、「共産党敗因論」をめぐって様々な見方が出ている。ある幹部は「蓮舫氏の応援演説の際に、共産党の関係者とみられる人たちが周りを取り囲んでいたケースが見られた。共産党の応援が前面に出すぎたため、無党派層が逃げたのではないか」と話し、連合側の見方に同調している。

これに対し、岡田幹事長は「戦略面での間違いや失敗、あるいは戦術のレベルで徹底していないところや間違ったところがあったのではないか」と述べる一方、共産党について、「何か足を引っ張ったとは思っていない。真ん中、無党派層を取りに行くのは我々がしなければいけない努力だ。共産党さんがしっかりやっていただいたことは全然関係ない話だ」と共産党を悪玉とする見方に反論した。また、立憲の都連会長も務める長妻政調会長は、共産との連携に対する評価が都連内でも分かれていると明らかにした上で、「我々としては分析を深める必要がある」と語った。
では立憲は今回の選挙結果をどう総括すべきなのか。2年前の2022年の参院選東京選挙区では、投票率は56.55%で、立憲の蓮舫氏が約67万票を獲得。これに別の立憲の候補者と共産党で当選を果たした山添拓政策委員長の3人を合わせると約173万票に上る。今回の都知事選挙では、投票率が60・62%と参院選よりも高かったにもかかわらず、蓮舫氏の得票は約128万票に終わり、伸び悩んだことが見て取れる。

連合は、7月19日に行われた定例会見でこうした事実を指摘し、「立憲を支持してきた方たちからの得票が減ったと分析してしかるべきだ」と危機感を示した。さらに、立憲側に対し、「連合としては極めて深刻ではないかと受け止めている。厳しい総括が必要だ」と伝えたことも明らかにした。
こうした懸念の背景には何があるのか。それは全国に与える影響に他ならない。先述の立憲と連合の会合でも、連合側は「東京の取り組みが全国に与える影響」について懸念を示している。ある関係者はFNNの取材に対し、この時の両者の温度差がうかがえる一幕を明かした。立憲側の出席者の1人があくまでも都知事選は地方選挙だという趣旨の発言をしたのに対し、連合側からは「東京の動きは全国に影響を与える」などと異論が相次いだという。こうした懸念について、神津氏も次のように同調する。

「共産党は東京では強い。その特殊事情で共産党との連携を進めたと思う。しかし、全国的に共産党と一緒にやっているようなイメージを国民に持たせた。その罪は極めて重い。今すぐに衆院選になった場合マイナスに働くのではないか」
神津氏から立憲民主党への叱咤激励
筆者は2007年夏から当時野党だった民主党の担当記者を務め、2009年に実現した民主党による政権交代の際には、間近で関係者の取材を重ねてきた。当時は小沢一郎議員が民主党代表などを務め、選挙を取り仕切り、候補者の擁立見送りなど共産との事実上の候補者調整については水面下で人知れず行われたという印象がある。ある連合の関係者はFNNの取材に対し、「政治の世界なので共産党とは水面下で候補者調整をすることもあるだろう。しかしそれを目に見える形でやってもらっては困る。それが政治というものだ」と本音を漏らす。
自民党派閥の裏金事件などを受け、世論調査では、次の衆院選後の政権について自公政権の継続よりも野党による政権交代を求める声が上回っている。そうした中、政権交代を目指し、野党連携の構築に悩む立憲に対して、神津氏は叱咤激励とも言える言葉をかける。

「立憲民主党が主体的に考えるべきことだが、真ん中の無党派層を取っていかなければ政権政党にはなれない。国民は自民党に代わりうる政党を望んでいる。その期待にこたえることができるのは野党第一党である立憲民主党しかない」
立憲では、泉代表の任期満了に伴い9月に行われる代表選挙に向けた駆け引きが活発化している。ここでも今後の共産党との関係が焦点の1つになることは必至であり、各候補者の主張や動向に注目が集まりそうだ。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)