結党から5年を迎えた国民民主党は今、岐路に立たされている。躍進した7月の参院選について、「薄氷の勝利」として党内を引き締める総括を取りまとめた。また、支援を受ける労働組合に対する過度な依存への自戒も訴えている。党として抱える危機感、そして同じく連合から支援を受ける野党第1党の立憲民主党との今後の向き合い方などについて、取材を通じて迫った。
参院選総括「薄氷の勝利」党内引き締め 衆院選へ全国キャラバン開始
「『荒波に漕ぎ出していく小舟ではあるが、時代を切り拓かんとする変革の旗を高らかに掲げ、一切の私情と打算を捨て、仲間と共に船出する。』 この思いは全く変わっていない」
11日、自らのSNSにこう投稿したのは国民民主党の玉木代表だ。投稿の中で、玉木氏は「5年前の9月11日は、旧国民民主党を解党し、立憲民主党と合併する政党と、今の国民民主党につながる新・国民民主党に『分党』した日だ。ここから全てが始まった」と振り返った。
この投稿に先立つ6日、玉木氏の姿は福岡市博多区にあった。次の衆院選に向けて、全国キャラバンをスタートさせた玉木氏は、記者団の取材に次のように語った。
「参院選の総括でも、今までの前提が変わってきたという認識は示した。単に旧民主系をまとめれば勝てるという単純な構図でもなくなってきている」
国民民主党は、改選議席の4倍を超える17議席を獲得し、比例代表では前回3年前の約316万票から約762万票に上積みし、得票数では自民党に続く野党第1党に躍進した。
8月27日に取りまとめられた選挙総括では、「実態としては『薄氷の勝利』である」とした上で、次のように引き締めを図っている。
「衆院選以来の『風』を何とか維持できた結果であり、地力がついた結果と過信してはならない」
さらに、「自民党が当初の劣勢をある程度挽回し、地力を見せた側面もある」と指摘し、「地域のリアルなつながりが依然として重要であることに変わりなく、リアルとネット双方の『ドブ板』を展開していく必要がある」と訴えた。
そして、次の衆院選については、今秋にも行われる可能性があるとの見方を示した上で、予算を伴う法案や内閣不信任決議案を単独で提出できる51議席を目指し、積極的に候補者を擁立していく方針を盛り込んだ。
また、総括の中では、「今後の候補者擁立における他党との関係については、今回の選挙結果を踏まえた見直しが必要である」とも明記した。
立憲との候補者調整に応じない可能性に言及 参政党と「切磋琢磨したい」
「参政党が出てきたということも踏まえて、前提条件が大きく変わった。その中で判断をしていかなければいけない。とにかくまとめればなんとかなるということには、もうなっていない。我々はもうそういう戦略は取らない」

玉木氏は12日夜、BSフジの「プライムニュース」に出演し、こう強調した。
これまで国民民主党は、共に連合の支援を受ける立憲民主党とは共倒れにならないよう水面下で調整し、可能な限り候補者の一本化を図ってきた。
しかし、番組の中で、玉木氏は参院選で立憲民主党に一本化したにもかかわらず、自民党に加え、参政党にも負けた選挙区があったと指摘。そして、今後は選挙区によっては立憲民主党との候補者調整には応じない可能性に言及した。

こうした国民民主党の姿勢の背景には、勢いを増す参政党の存在がある。
FNNが8月23・24両日に実施した世論調査では、政党支持率について、国民民主党が9.3パーセント、立憲民主党は5.2パーセントだったのに対し、参政党は9.9パーセントで、初めて野党のトップに立った。

これに対し、玉木氏は26日の記者会見で、参政党について「議員というよりも党員の方、地域で支えている方がしっかり活動している」と指摘し、「組織運営、SNS、TikTokやインスタグラムを中心とした取り組みや発信は非常に学ぶべきところも多い」と語った。
そして、玉木氏は「選挙や政治のあり方も日進月歩だ。変化に対して自らを変えることができない組織は滅びていく」と述べた上で、次のように強調した。
「いかに新しい変化に我々自身もアップデートできるか。自分たちも日々古くなっているという認識のもとで、新しい変化に対応することが必要だと教えていただいている存在でもある。切磋琢磨していきたい」
国民民主党の関係者は「参政党の勢いがいつまで続くか。このまま続けばお株を奪われてしまう」と危機感を示す。こうした危機感が「連合離れ」とも言える言動につながってきている。
成田3原則で「労組依存」自戒 幹部「候補者調整迫られ応援団足かせに」
選挙総括では、「連合は最大の支援組織であり、引き続き緊密な連携を図っていくべきである」とした上で、次のように訴えている。
「過度に組合に依存して『地力』をつけることを怠ってはならない。個人後援会の設立、拡充など取り組みを強化し、支援に広がりを持たせていかなければ当選は覚束ない」
国民民主党に対しては、連合傘下の産業別労働組合(産別)のうち、UAゼンセン、電力総連、自動車総連、電機連合が比例代表に組織内候補を送り出している。ただ、最近はその集票力に陰りも見られる。
先述の番組の中で、玉木氏は先の参院選での組織内候補の得票について、次のように指摘した。
「この6年間で国民民主党の比例票は2.2倍になっている。個人の名前を書くのはだいたい2割から2割5分ぐらいみんな減らしている」
そして、玉木氏は「これからも労働組合は我々を支えてくれる大変大事な存在である」とした上で、自戒の念も込めて次のように語った。
「おんぶに、だっこに、肩車で、過度に依存してしまうと、本当に向き合わなければいけないそれ以外の多数の有権者、国民に向き合うことを怠ってしまう。若い議員には、そこばかり見ていると、本当に広げていかなければいけない多くの国民の声が聞けないし、届かなくなるので、そこはきちんと考えてやろうと言っている」

さらに、玉木氏は約60年前のある政党の機関紙について言及した。
「1963年に総選挙があって、当時、池田勇人内閣で所得倍増計画の陰りが見えていた。物価高で、そのままいったら当時の社会党が大勝するだろうと言われていた選挙だったが、1議席減だった。その翌年1964年の1月1日の『社会新報』に、当時の書記長だった成田知巳さんが党の組織的欠陥と言って書いた」
成田知巳氏は玉木氏と同じ香川県出身の政治家で、1947年の衆院選で初当選を果たし、日本社会党で委員長や政策審議会長などを歴任した。
成田氏は当時の社会党の組織的欠陥として、「日常活動の不足」、「議員党的体質」、「労組依存」の3つを指摘し、「成田3原則」としても知られている。
番組の中で、玉木氏は「面白いのは、日常活動が足りない、国会議員の政党になってしまっている、3番目が労組依存」と述べた上で、次のように話を続けた。
「55年体制になってから、10年経っていない時の野党第1党だった社会党の成田知巳さんが、党の組織的欠陥だと言って3番目に労組依存を書いている。組織は常にいっときの成功で安住していると、その成功によって滅びていく」
国民民主党の関係者は「次の衆院選で一本化して立憲民主党に任せたら自民党にも参政党にも勝てない。しかし、国民民主党が候補者を擁立すれば勝てる」と鼻息を荒くする。一方、幹部は苦しい胸の内を次のように吐露する。
「参政党が参院選で躍進したのは全ての選挙区に候補者を擁立したからだ。我々も参政党の姿勢を見習うべきだ。ただ、連合からは衆院選でも立憲民主党との候補者調整を迫られるだろう。連合に依存すればするほど、それを断れず、さらなる躍進にも限界が出てくる。最大の応援団が逆に足かせになっている」
選挙総括が取りまとめられた日の夜、玉木氏は自らのSNSに次のように投稿した。
「この総括を実行に移すため、9月15日の結党5周年の日をめどに、人事と組織見直しを行う。 国民民主党は、現状に安住せず、進化し続ける」
国民民主党は16日にも新たな執行部人事を決定する見通しだ。支援を受ける連合との関係を重視するのか、それともさらなる党勢拡大を目指し、“連合・立憲離れ”を進めるのか。今後、党としてどのように進むのか、まずは人事と見直される組織がその試金石となる。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)