滋賀県米原市で7月、3度の土石流が住宅を襲った。

現場を取材すると被害のメカニズムと、この場所だけではない、私たちの近くにも潜んでいる危険が見えてきた。

■米原市長が土石流が発生した現場を視察

米原市 平尾道雄市長
米原市 平尾道雄市長
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8月2日、米原市の伊吹山を訪れた平尾道雄市長。今年に入って3度、土石流が発生した現場の状況を視察した。

■1カ月に『3度』の土石流 異例の事態の原因は

大量の土砂が複数の家屋や道路に流れ込んだ
大量の土砂が複数の家屋や道路に流れ込んだ

7月1日、米原市伊吹地区で大雨が降り、土石流が発生。

大量の土砂が複数の家屋や道路に流れ込み、災害発生の危険度レベル5の「緊急安全確保」が発令された。

その後、土石流は15日、25日と立て続けに3度も発生。

のべ7軒の浸水被害が確認され、8月2日午後5時現在も26世帯、66人に「緊急安全確保」が発令されている。

(※8月2日午後5時30分に「この先の天候が比較的安定し、えん堤の浚渫の進捗や監視・警戒態勢が整った」として、レベル3「高齢者等避難」に警戒レベルが変更された。)

短期間に3度の土石流という、異例の事態を引き起こした要因を探ると、意外な事実が明らかになってきた。

■原因は「シカの食害」 温暖化によって伊吹山で冬を越せるように

「裸地化」が進む
「裸地化」が進む

なんと原因は「シカの食害」。

米原市によると伊吹山は、10年ほど前からシカが増えはじめた。温暖化により、伊吹山で冬を越せるようになったことが原因と見られている。

そのシカが山に生えていた植物を食べ尽くすことで、土がむき出しになる「裸地化(らちか)」が進んでいる。

9年前と比較してみると、地表の土の部分が露出しているのが分かる。

この「裸地化」が進むと、山が水を蓄える力が弱まり、水が流れやすくなって土砂崩れが発生しやすくなるのだ。

むき出しになった地表に大きな岩や水が勢いよく流れる様子
むき出しになった地表に大きな岩や水が勢いよく流れる様子

伊吹山で撮影された映像には、むき出しになった地表に大きな岩や水が勢いよく流れる様子が映し出されている。

山の頂上付近で起きた、こうした水の流れが、最終的に土石流となって今回の地域に流れ込んだと見られている。

■伊吹山に起きている深刻な異変 「山がもたらすものは恵みよりも災害」

米原市 平尾道雄市長
米原市 平尾道雄市長

2日の現地調査では、伊吹山に起きている深刻な異変が明らかになった。

視察に同行した市職員:(Q.地面がえぐれてしまっている?)えぐれてしまって、水路ができている。

米原市 平尾道雄市長:僕の身長を超えるほど、(地面が)掘られている。

視察に同行した市職員:ここが一番ひどい。

そこには水が流れたことによって、深いところで4メートル近くも削られた谷のような場所があった。 多くの岩も転がっている。

米原市 平尾道雄市長:伊吹の集落を襲っているのは、こういう石が家に入り込んでいる。山が大きく崩れ始めている。この延長に何があるかというと、あってはならないですけど、もっと広範囲に山麓が崩壊するという前兆すら感じる。

これからの台風シーズンなど、より大きな災害が起きる危険を感じる状況だった。

調査と並行して対策も行われた
調査と並行して対策も行われた

さらに山の上部へ進むと…。

米原市 平尾道雄市長:(Q.前は草木が生い茂ってた?)そのあたりにシカがずらーっといた。今もいますけど。シカが全部食べ尽くして、こういうふうになって、斜面崩壊が起きた。ここが元々の災害の現場です。

2日は調査と並行して、シカが入ってこないように、ネットを設置するなどの対策も行われた。

ユウスゲと貴重植物を守り育てる会 高橋滝治郎さん
ユウスゲと貴重植物を守り育てる会 高橋滝治郎さん

長年、伊吹山の環境を守る活動をしてきた高橋さんも危機感を持っている。

ユウスゲと貴重植物を守り育てる会 高橋滝治郎さん:われわれは伊吹山から、色んな恩恵を受けて生活してきました。(以前は)雨を山がいったん受け止めてくれて、山の中を浸透して、ふもとで流れ出して、生活用水とか農業用水として利用してきた。今は保水量がないせいで、雨が一気に流れ落ちて、恵みというよりも災害という形で私たちに影響がある。

「全部、泥につかってしまった」
「全部、泥につかってしまった」

最初の土石流から1カ月がたった伊吹地区の住民は、今も復旧作業に追われている。

被災した男性:ここ全部、泥につかってしまったんです。この中、全部に土砂が流れ込んで。

被災した男性:地形図を見ると、ちょうど流れてくる川がありますから。あれがこれから、もっとひどくなるのかなと。こればかりは、わからないですね。私たちも、安心して暮らせるようになってくれたらなと思っています。

思わぬ形で引き起こされた今回の土石流。 こういった危険をはらんだ場所は全国各地にあるということだ。

■山の「裸地化」は日本各地でも確認されている

山の「裸地化」は日本各地にある
山の「裸地化」は日本各地にある

米原市の土砂災害の原因の一つとして、シカの食害による山の「裸地化」が指摘されている。

この裸地化は、日本各地でも起こっている。 例えば福井県の嶺南地域、高知県の三嶺周辺、そして長崎県の対馬の写真だが、山肌の表土がむき出しになっていることがよく分かる。

兵庫県立大学の服部保名誉教授は「大阪・北摂地域や奈良、和歌山などでも、“裸地化”がある。今後、土砂災害のリスクが増える恐れも」と話した。

京都大学大学院 藤井聡教授
京都大学大学院 藤井聡教授

シカの食害も含め、山の荒廃による災害の危険度が高まっている。

京都大学大学院 藤井聡教授:地球温暖化が最終的にこういう被害をもたらす原因になってると。自然状況が変わってしまって、シカと人間の共存の形が変わりつつあるわけです。対策を何とか探らないといけないわけで、その時にわれわれが持っている武器は何かというと、1つは基本的な砂防対策です。土砂災害を防ぐための砂防ダムなどの、色んな治山事業がありますから、それをしっかりとやっていくこと。
 シカとの共存の中で、ジビエ文化というものがありますから、食として命をいただくことも組み合わせながら、琵琶湖のブラックバスの対策は食文化と組み合わせてやっていますから、そういった、いわゆる駆除を食文化と組み合わせてやっていくところまで含めて、総合的に考えていくしかないですね。

関西テレビ 神崎博報道デスク:どのようにシカの数を減らすかですが、実はシカはすごく繁殖力が高くて、年率で言うと20%増える。だから単純計算すると5年で2倍に増えます。なので今、政府としても手を打っていますが、とても追いついてない状態です。ここからマンパワーもかかるし、予算もかかるので、どうやって数を減らしていくのは知恵を絞らないと、すぐに解決しないと思います。

野生動物との共存の難しさというのを改めて感じた。

(関西テレビ「newsランナー」2024年8月2日放送)

関西テレビ
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