愛媛から2028年のロサンゼルス・パラリンピックを目指す一人の女性がいる。その競技は自転車。生まれつき右足がなく、片足でペダルを回すという、想像を超えた挑戦を続ける中道穂香さんの姿を追った。
松山競輪場での出会いが転機に
2024年5月に松山競輪場で行われた障がい者向け自転車イベント。
この記事の画像(24枚)ゲストで招かれたのは、生まれつき右足がないパラアスリートの中道穂香さんだ。このイベントは障がい者らにタンデム自転車を体験してもらうもので、中道さんは障がいがあってもスポーツに挑戦できる姿を披露した。
中道さんは2023年、このイベントで愛媛を代表する元競輪選手の伊藤豊明さんと出会った。伊藤さんは半年前から中道さんに自転車トレーニングのアドバイスをしている。
伊藤さんは「半年近くみっちりやってるんで、その成果を見られるかなと。びっくりしますよ」と期待を寄せる。中道さんも「師匠の下でばっちりしごいてもらってるんで、自分でもいい感じだなと思います」と手応えを感じている。
水泳から自転車へ 新たな挑戦
中道さんは2000年に愛媛・愛南町で「先天性右下肢欠損」という障がいを持って生まれた。小学生の頃から水泳を始め、愛媛で開催された全国障害者スポーツ大会でも優勝。国際大会でメダルを取るレベルにまで成長した。
大学進学後、水泳で東京パラリンピックを目指すも出場はかなわず、新たな挑戦として自転車に取り組むようになった。
中道さんは「ひとつ目標がなくなって、ぼう然としたというのが正直なところで、何か新しいことがしたいなと選考会が終わった時くらいに感じて、その時に義肢装具師からパラサイクリングにいかせるんじゃないかということで」と当時を振り返った。
現在、中道さんは伊藤さんの自宅にある“道場”で厳しいトレーニングを積んでいる。中道さんが左足だけで持ち上げるバーベルの重さは、なんと80kg。
中道さんは「ここに来始めた時は50kg上がらなかったんですけど、今は80kgとか90kgとか上がるようになりました」と語り、成長を実感している。
片足で自転車に乗るには「体幹」が重要だ。右足がない分、どうしても体のバランスがとりにくくなり、それを補う体幹を鍛えることが大切になる。また、足の筋力も重要だ。中道さんは「(左足でペダルを回す練習で)止めて負荷をかけて、引き上げだけの練習をします」と説明する。
中道さんの目標は、2028年のロサンゼルス・パラリンピック出場だ。それに向けて国内大会で実績を残し、日本パラサイクリング連盟の指定強化選手を目指している。
伊藤さんは「びっくりしましたね。えーって。知り合って目指すところを聞いたので、パラリンピック目指すと聞いたので、それなら補助しようかなと、自分の教えられる範ちゅうで」と中道さんとの出会いを振り返り、語った。
中道さんは「陸上の運動って足を使うので大変という理由で水泳を始めたので、こんなに自分の足を使う競技をやることになるとは思わなかった」と語った。
全日本選手権での快挙と未来への展望
6月に静岡県で開かれた自転車ロードレースの全日本選手権。中道さんは1人で車を運転して愛媛から静岡にやってきた。
中道さんは「今回のコースは、アップダウンの多いコースで半分上り半分下りで平坦がほぼないコースなので、絶対に落車しないようにそこだけしっかり気を付けたい」と意気込みを語った。
この大会に出場する女子のパラサイクリストは中道さんを含めわずか2人。競技選手が少ない自転車への挑戦に関係者も期待を込める。
日本パラサイクリング連盟ヘッドコーチは「彼女みたいに他種目から挑戦してくれるっていう選手が活躍してくれると、私たちとしても競技のアピールにもつながるので、中道さんにも頑張ってほしい」とエールを送った。
競技は当初、10kmのタイムトライアルの予定だったが、悪天候のため1周5kmにコース短縮された。最大斜度12度という急な坂を、強い風に吹きつけられながら、必死にペダルを回す。
タイムは17分02秒59。厳しいコンディションの中、目標を上回るタイムでフィニッシュし、障がいのクラス別(WC2)で優勝を果たした。
レース後、中道さんは「タイム的には思ってたくらいか、それより速いくらいで帰ってこられたので、去年より間違いなく速いのでそこはよかったかなと思ってます」と手応えを語った。
そして7月に長野県で開催された全日本トラックレース。中道さんが出場した500m(51秒730)と3km(5分22秒151)の2種目で自己記録を更新。2028年のロサンゼルスに向けて、一歩ずつ前に踏み出している。
中道さんは「4年後のロサンゼルス・パラリンピックを目指して、それまでに日本代表に入って世界選手権に出てというプロセスを踏めるように目標を掲げてがんばってます」と意気込みを語った。
(テレビ愛媛)