愛媛・松山市にある道後温泉本館が、7月11日に5年半ぶりに全館での営業を再開した。明治時代から愛され続けてきたこの温泉施設が、最新の技術と職人の技によって生まれ変わり、歴史的な価値を保ちながら、現代の要求に応える姿を紹介する。
温故知新の技術で威風堂々よみがえる
再開初日から、多くの人が道後温泉本館を訪れていて、海外からの来客も多い。
現地を取材したテレビ愛媛・堀本直克アナウンサーは「道後温泉本館にかつての風景が戻ってきました。威風堂々ですよね」と興奮気味に語った。

東側に戻された玄関から入り、すぐ右手にある売店では、休憩室で食べられるお菓子を購入できる。また、道後温泉改築130周年を記念した赤と青の2種類の限定バスタオルが注目を集めている。
一見すると変わらない外観だが、建物の中には最新の技術が詰め込まれている。

廊下に出てみると、今までの壁に重なるように、もう1枚壁がある。10cmほど厚いこの壁の中には、建物を支える鉄骨が入っている。この保存修理工事は、今の姿を将来につなげるために行われたものだという。まさに“温故知新”と言える取り組みだ。

廊下を奥に進み、左手にある階段を上がる。手すりは昔のままだ。
2階へ上がると、広々とした神の湯の二階席(休憩室)がある。畳はすべて張り替えられ、いぐさの香りが漂う。
湯上がりでくつろいでいる愛知県から来た女性客は、「思ったよりきれいだった。温泉はあまり行かないですけど、きれいで広い」と感想を語った。
気品が漂う特別な貸切部屋
今回の全館営業再開で注目を集めているのが、3階にある貸し切りで利用できる2つの特別な部屋だ。
1つ目は「飛翔の間」と呼ばれる12畳半の部屋。

1日5組限定の完全予約制で利用でき、定員は10人、利用時間は90分。
料金は3000円プラス大人1人につき1300円、子ども1人につき650円だ。利用料には入浴券、貸し浴衣やタオル、お茶とお菓子も含まれる。
この部屋、かつては皇室専用浴室「又新殿」を利用する皇族方の御付の人の控え室として使われていたこともあり、ふすまの建具が漆塗りになっているなど、どこか気品が漂う空間となっている。

2つ目は「しらさぎの間」と呼ばれる19畳の部屋だ。
広々としたこちらの部屋は1日5組限定の完全予約制で定員18人、利用時間は90分。料金は6000円プラス大人1人につき1300円、子ども1人につき650円だ。

特徴的なのは印象的な丸窓。窓を開けてみると、振鷺閣の上に立つ白鷺(しらさぎ)の姿を間近に見ることができる。道後温泉本館は、明治時代から増築を重ね、4つの建物が合わさった複雑な構造をしている。
匠の技・職人の魂が光る瓦の世界
今回の保存修理工事では、この瓦も一枚一枚、菊間(きくま)瓦で吹き替えられた。

瓦の製作を担当したオチ新瓦産業の越智浩一社長によると、約3万2000枚の瓦を全て取り外し、使えるかどうかを検査した。「悪いものは取り除き、使えるものは水洗いして元に戻した」という。

「黒っぽいのが古い瓦、ハイトーンのものが新しく作った瓦」と越智社長が新旧の瓦の見分け方を説明する。
道後温泉本館の瓦は、現代のものと比べてみると、古い方が厚く、ずっしりと重いのが特徴だ。

「古い瓦と一緒に使うので、寸法や厚みは忠実に再現しなければならず、特に寸法をあわせるのが大変だった」と振り返った。越智社長は「これから何年も先に、またこういう大工事が行われると思いますが、その1ページを刻めたことは、非常に光栄に思っております」と言い、満足げだ。
匠(たくみ)の技・職人の魂がこもった瓦にも注目してみてほしい。
お客さんも関係者も待ちに待った、道後温泉本館の全館営業再開。この100年以上続く景色をつなげていきたいという思いがあちこちに詰まっている。
(テレビ愛媛)