音楽を聴く手段が多様化する中、再び注目されているのが“レコード”だ。デジタルの時代に、あえてアナログの音楽を楽しむ理由、それは音楽を通じて人とつながり、特別な時間を共有できる喜びだった。

懐かしの曲を夜な夜な…

鹿児島市のJR九州鹿児島中央駅に近い、飲食店が入るテナント。その一角のバーを訪ねた。

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店を照らすのはネオンサインやミラーボール。「じゅんこ」と名付けられた、昭和の雰囲気漂うお店で流れるのは、レコードの音楽だ。

盤面の溝を伝う針。均一な速さでターンテーブルが回ると極上の音色に包まれる。時折、「パチパチ」というスクラッチノイズが混ざるのもレコードならではだ。レコードの良さを知ってもらいたいと、2023年にオープンしたこのレコードバー。店には、夜な夜な懐かしの曲を楽しみたいと、客が訪れる。

50代の男性客は、「アバとマイケルジャクソン、鈴木雅之、浜田省吾を聴いた」とご満悦だった。

コロナ禍や通販をきっかけにレコードが再燃

78回転のSP盤からドーナツ盤やLP盤まで、音楽を聴くという文化の発展に貢献してきたレコード。しかし、CDの時代を経て、今や音楽を聴く手段はデジタル配信が主流に。

街の人に聞いても、LINE MUSICやSpotifyなどのサブスクで音楽を聴くという人が多かった。
そんな中、実は今レコードが再び注目されている。

大手レコード会社のソニー・ミュージックでレコードを担当する村井英樹さんによると、20代、30代でレコードをたくさん買っている人が増えているという。コロナ禍で家にいる時間が増えたこと、通販でレコードを買えるようになったことが背景にあるようだ。

過去10年間の国内のレコードの生産数を見ると、2013年に26万8000枚だったのが、次第に上昇傾向となっている。コロナ禍の2020年以降の伸びは顕著で、2023年には実に269万枚を超えている。

若い世代にもはまるレコードの“良さ”とは

レコードの良さはどこにあるのだろうか?

村井さんは「レコードには、音楽とちゃんと向き合っているという『お作法』的な動きがある」と見る。
レコードを聴くには、プレーヤーのふたを開け、袋からレコードを出し、針をおろす。アプリを開き、再生ボタンをタップするのとは違う一連の“作業”が必要なのだ。

レコードの魅力にはまったという若い世代も。

大学院で建築を学ぶ沼口佳代さん(23)は、鹿児島市の自宅に小型のレコードプレーヤーを置いている。慣れた手つきで袋からレコード盤を出し、溝に手を触れないよう、そっとプレーヤーにセットし聴かせてくれたのは「YMO」の「テクノポリス」。サブスクでも音楽を楽しむという沼口さんは、1年ほど前からレコードを聴き始めた。

1級建築士の1次試験を突破し、久しぶりに訪れたレコード店のおじさんがお祝いにくれたもので、沼口さん一番のお気に入りの曲だ。

アナログなものに対する憧れがずっとあったという沼口さんは、レコードによって、「体で音の波を感じ取っている気がなんとなくしている」という。

貸し借りで新しい世界が広がる

レコードは、友だちと貸し借りすることで世界が広がるのも楽しみ。沼口さんは、友だちおすすめのアーティスト「カネコアヤノ」さんのLPをかけてくれた。

レコードを通じて他の人と音楽を共有できる良さもあるようだ。ちなみに沼口さんのレコードプレーヤー、音はBluetoothのスピーカーから出ている。アナログとデジタルが見事にコラボしているのだ。

年代問わずレコードを通じて音楽を楽しむ

鹿児島市にある、中古レコードショップ「モッキンバード」で開かれたのは、レコードを楽しむイベント。

「カントリーと言って一番に思いつく曲は何ですか」という、代表・鹿倉得蔵さんの質問にお客さんは「カントリーロードしかわからない」と苦笑した。

すると「そうでしょう、という訳でカントリーロードをかけます」と鹿倉さん。かけたレコードは、往年のカントリーウエスタン歌手、故・ジミー時田さんが歌うレアものだ。

集まった様々な年代の人が、レコードを通じた音楽談義に花を咲かせた。

「初めて買ったレコードは?」「(小泉今日子の)『渚のはいから人魚』、ご存じですか?」という具合。

これまでレコードを聴いたことがなかったという30代の女性は、「人のぬくもりがある感じがして、すごい古いものにひかれる」と満足そうにレコードの魅力を語った。

「自分の方が楽しんでいた」という鹿倉さん。「自分にとって、ちょっとした驚きの曲があった時や、それを誰かに伝えたい時に、共有する場があるということがうれしい」と振り返った。

レコードを通じて誰かとのつながりが生まれ、流れる音楽を共有して充実した時間を過ごす。
デジタルの時代に、人々がアナログのレコードを求める理由がそこに詰まっているのかもしれない。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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