田植えしたばかりなのに…稲の苗を食い荒らす「ジャンボタニシ」が大量発生。農家に打撃を与えている。佐賀県では例年の3倍に激増し、初めて注意報が発表された。冬の気温が高く越冬したのが原因とみられている。
田んぼに石のようなものが大量に
佐賀市東与賀町のコメづくりを営む農家、古川茂利さん(75)の田んぼ。
この記事の画像(13枚)のぞいてみると田んぼの中に石のようなものが数多く見える。これが稲の苗を食い荒らす「ジャンボタニシ」だ。
田植えの時期を迎えた2024年6月下旬、そのジャンボタニシが大量に発生し古川さんは頭を抱えている。ジャンボタニシは田んぼ全体で発生。古川さんの田んぼでは1000匹を超えるとみられている。
通称「ジャンボタニシ」と呼ばれるこの貝は、南米原産の巻貝「スクミリンゴガイ」。2センチほどから大きなものはこぶし大まで成長するという。
田植えの翌日 苗を食いちぎる
ジャンボタニシが好んで食べるのが田植えしたばかりのやわらかい苗。
田んぼには緑色のちぎれた葉が散らばっている。ジャンボタニシが苗の根本を食い荒らした跡だ。
この日はなんと田植えの翌日。「苗を植えたあと水を張ると、ジャンボタニシが全体に広がってくる。最終的にほとんど食べられてしまう」と語る古川さん。今季のコメ作りへの不安を隠せない。
冬の高い気温で“越冬”し激増か
このジャンボタニシが例年の3倍確認されたとして、佐賀県は2024年6月5日、「ジャンボタニシ注意報」を発表した。注意や防除を呼びかけるもので、佐賀県内で発表されるのは初めてだ。
なぜジャンボタニシは大量発生したのか?その原因にはジャンボタニシの習性が関係しているという。
ジャンボタニシは南米原産のため寒さに弱く、気温が低すぎると死んでしまう。しかし、今季は(2023年~2024年)、観測史上2番目に冬の平均気温が高かったことから、多くのジャンボタニシが一時休眠して冬を越え、気温が高くなった時期に活動を再開しているとみられているのだ。
県全体では少なくとも1億匹
越冬して大量発生したジャンボタニシ。その数はどのくらいに上るのか。
地域によって発生数にバラツキがあるため正確な数を把握するのは難しいが、5月の早植えの田んぼでの調査では1平方メートルあたり約6.8匹。早植えの田んぼ佐賀県全体の10分の1以下だが、それでも約1億匹に上る計算になる。
古川さんの田んぼでは、田植え後の水位を低くして、水たまりにジャンボタニシが集まったところで薬剤を撒き駆除していた。広さは約6.5ヘクタール。1日がかりの大変な駆除作業だ。
駆除装置の開発も
ジャンボタニシを駆除する装置を開発しているメーカーもある。佐賀・みやき町の大栄工業では、プラスチック製造技術を活用して捕獲機を開発した。
この装置は、真ん中に臭いの強いエサを入れて田んぼに置き、臭いに引き寄せられたジャンボタニシを中に誘い込み捕獲するという仕掛け。薬剤を使わないのが特徴で特許を取得している。
スッポン放流による駆除の試みも
またスッポンの放流による対策を試みている地域もある。
スッポンにジャンボタニシを食べてもらい、数を減らそうという狙いだ。
佐賀・白石町では、2012年と2021年にスッポンを放流した。しかし、その後、減少が確認されたというデータはなく、生態系への影響を懸念し放流には慎重であるべきとの意見もある。
多くの農家が取り組む薬剤の散布も、雨で流されてしまうと効果が薄れてしまうため、ジャンボタニシ駆除の特効薬はないのが現状だ。
農家の費用負担は増える一方
そして、近年農家を悩ませているのが物価や燃料費の高騰だ。
古川さんの所有する田んぼ約6.5ha全てに薬剤を散布すると、約30万円の費用がかかる。すでに燃料価格の上昇や猛暑による収量減少に苦しめられている中、負担は増える一方だ。
ジャンボタニシの大量発生で稲作農家が悲鳴を上げている。
(サガテレビ)