老舗醤油メーカーの「白壁倉庫」を住民らがロープでゆっくりと引っ張っていく。建物を解体せずにそのままの状態で動かす伝統工法「曳家」による引っ越しは、祭りのような熱気と地元愛に包まれていた。
「白壁倉庫」は地元のシンボル
「曳家(ひきや)」という伝統工法を使って引っ越しが行われたのは、佐賀・唐津市の老舗醤油メーカー「宮島醤油」の白壁倉庫。1930年に建てられた宮島醤油のシンボルともいえる存在で地元の住民にも親しまれている。
この記事の画像(13枚)宮島醤油では2023年8月、新たな工場が完成。このため「白壁倉庫」を他の場所に移設し、その跡地を、商品を運搬するトラックなどが作業する場所として活用することになったのだ。
“壊さず”移動 伝統工法「曳家」
そして引っ越しのために使われることになったのが、「曳家」という建物を壊さずにそのままの状態で移動させる伝統の工法だ。
引っ越し先は、道路を挟んだ反対側。距離は約20m。
約3週間の準備期間を経て2024年6月30日、「曳家」による引っ越しが行われた。
くんちの囃子も…まるで祭りの熱気
引っ越し作業は、佐賀・武雄市の建設会社が協力して行われた。また、宮島醤油の従業員だけでなく、地域の住民も参加。
続々と人が集まり、大勢の人が伝統工法「曳家」による引っ越し作業が始まるのを待つ。「唐津くんち」の囃子を奏でる子供たちの姿も。
大勢の人が見守る中、まるで祭りのような熱気に包まれながら「白壁倉庫」の“引っ越し”が始まった。
150トンの倉庫をゆっくりと
「白壁倉庫」は推定150トン。
下に敷いたレールに倉庫を乗せ、ロープでゆっくり引っ張っていく。地元住民たちがロープを引く姿が「唐津くんち」の光景に重なる。
もちろん人の力だけでは簡単には動かない。倉庫の背後からは職人たちが声をかけ合い専用の機器で文字通り”後押し”する。
伝統工法「難しいがおもしろい」
数センチずつ動かしては各レーンの進み具合を確認し調整する職人たちの技も見事だ。協力した佐賀・武雄市の建設会社の社長は、「重量がすごくある。ちょっと傾きがあったり、下が壊れていたり、腐っていたり、最近の建物と違う」と伝統工法の難しさを語る。
その一方で、「今まで向こうにあった建物が今度こっちに来る。おもしろい」と笑顔を見せていた。
力いっぱい引っ張る子供たち
ロープを引っ張る地元の住民の中には子供たちの姿も数多く見られた。
倉庫の重さをどう感じたかきいたところ「ゾウ1頭分」と答えたユーモアあふれる男の子も。地元の皆が楽しみながら伝統の引っ越し作業が進んでいく。
約4時間で予定位置に移動
開始から1時間半が経過し、倉庫は道路の真ん中くらいに到達。
3回に分けて引っ張った結果、何とか予定位置まで運ぶことができた。準備に3週間、当日は4時間あまりの作業。人々の思い出に残る引っ越しだった。
“地元愛”深めた倉庫の引っ越し
老舗醤油メーカーの「白壁倉庫」はまさに地域の「シンボル」。地元に親しまれてきた建物を壊さず、伝統工法を用いた引っ越しは、住民の地元愛をより一層深めたようだ。
地元住民:
子供の時から見ていた倉庫がそのまま残って、それを動かしてお手伝いできたことはとてもいい思い出です。孫・ひ孫におばあちゃんが曳いたよって言えると思います
また、宮島醤油の宮島治社長は、「長い間、町の風景としてみなさんに親しんでもらったので、地域の皆さんに参加してもらったのは本当に意義があることだと思っている」と感慨深げに語った。従業員も住民の地元愛を改めて感じたようだ。
宮島醤油の従業員:
地元に愛されているんだなと従業員一同ありがたく思っています
“引っ越し”した地域のシンボル「白壁倉庫」。今後、倉庫としてだけでなく、博物館など地元での多目的な活用も検討しているという。
(サガテレビ)