7月5日、高知市の中学校のプールで水泳の授業中に小学生が溺れ死亡した。当時、小学校のプールは設備の故障で使用できず、近隣の中学校のプールで授業が行われていた。なぜ事故が起きたのか、専門家の意見を聞いた。
“泳ぎが苦手”な児童が…
7月5日、高知市立長浜小学校に通う小学4年生の男子児童が、水泳の授業中に溺れ死亡した。長浜小学校のプールは、ろ過ポンプが故障しているため使用できず、4年生から6年生は近隣の南海中学校のプールで水泳の授業を行っていた。

5日午後7時、高知市教育委員会が会見を行い、松下整教育長が、高知市立学校において小学生の水泳授業中にプール事故が発生したことを明らかにした。
事故があった日は、南海中のプールで4年生の児童36人が、3つのグループに分かれて3人の教師が監視する中、水泳の授業を行っていた。

死亡した男子児童は「泳ぎが苦手なグループ」に入っていたといい、バタ足の練習をしていた際に溺れ、近くにいた同級生2人に引き上げられた。中学校のプールは、小学校のプールと比べて最大14cm深かったという。
教育委員会は「個人の特定につながる」として、この時点で学校名や学年、児童の性別や名前などを公表しなかった。
しかし6日午前10時、児童の死亡を受け、学校名や学年が公表された。

児童について学校は、泳ぐのが苦手だったことを事前に把握していて、授業では教師に抱きかかえられる場面もあったという。

「学校から小柄な子であったというふうに聞いています」と語った松下教育長。児童が溺れた場所は水深約130cm、児童の身長は130cm未満だった。
一方、長浜小学校では、6日午後に保護者説明会が開かれる予定だった。保護者86人が集まっていたが、遺族からの抗議を受け説明会は急遽中止になった。

中村仁也校長は、「保護者会の予定を組んでしまった。そこが今回順番が違う、申し訳なかった(と思う)」「大切な子供の命が亡くなったということ。そのお子さんと保護者の方々とご遺族の方、ご親戚の方、本当に申し訳ございませんでした。心からおわびを申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」と謝罪した。
中学校のプールで水泳の授業
今回の事故はなぜ起きてしまったのか?記者会見で松下教育長は、「このような事故を起こしてしまった原因の1つは、小学生を中学校のプールで泳がせたことにあると思います」と述べている。

南海中学校のプールを利用することについては、長浜小学校と市教委が検討。長浜小の校長などがプールの視察を行い、最終的に市教委が決定した。南海中のプールの水深は、最も深いところで長浜小より10cm以上深い、132.5cmだった。
小学生が授業で中学校のプールを使うのは高知市では初めてだったが、市教委は、監視の数を増やすなどの対応を取り決めていなかった。

松下教育長は、「全体を注視することができず、水の中で沈んでいた子供さんを教師が見つけることができなかった。これは、管理体制の不備を問われても仕方ないと私は思います」と述べた。
事故が起きた日は、児童36人を教師2人がプールの中で指導し、教頭がプールサイドから見ていた。

監視の人数に関して、水難学会の斎藤秀俊理事は「36人のお子さんを3人で見るという、人数割りで言えば適切な監視の人数だったということになりますね。(水深が)深いから事故が起こりやすいというようなことは、一般論としてはそうかもしれないけれども、今回の事故でそれが当てはまるかというのは、また別の次元の話だと思う」と指摘する。
小学校プールの老朽化問題も影響?
一方で、中学校で授業を行うきっかけとなったのが、小学校プールの老朽化問題だ。
長浜小学校のプールが設置されたのは1991年。ろ過装置の耐用年数は約20年だが、長浜小学校では30年以上使い続けていた。2024年度に入って故障が判明し、7月18日に改修工事が完了するまで他の施設を利用せざるを得なくなっていた。

高知市教育委員会によると、市内にある小中学校59校のプールのうち、64%が築30年以上と老朽化が進んでいる。改修には平均1億円かかる上に、30年間で3億円以上の維持費が必要となる。
水難学会の斎藤理事は、「地方の自治体だけではうまくいかないということであれば、国レベルで考えていくこともありなのでは」と語る。

また斎藤理事によると、全国的に小中学校のプールの老朽化が進み、代替プールで授業を行う事例が増えているといい、「プールが変わったら、今まで小学校で行っていた安全管理の仕方が、そのまま使えるかというと使えないので、安全管理の仕方を一から構築し直すという、それぐらいの慎重さは欲しいと思います」と語った。
業務上過失致死の疑いも視野に捜査
高知市の松下教育長は「第三者の方から見ていただいた検証が必要」として、第三者検証委員会を設置するという。

さらに警察は7日午前、児童が死亡した南海中のプールを実況見分し、指導にあたった教師に当時の状況を確認したとみられていて、業務上過失致死の疑いも視野に入れて捜査している。
亡くなった児童が通っていた長浜小学校では8日朝、校内放送で全学年に向けて中村校長から事故の説明などが行われた。カウンセラーや心理士を普段よりも多く設置し、少しでも不安な児童は相談するよう呼びかけている。
(高知さんさんテレビ)