環境省の職員が水俣病被害者団体側の発言を制止した、いわゆる「マイクオフ問題」を受け、伊藤環境相と団体側との再懇談が7月8日から始まった。伊藤環境相は団体側が求めている不知火海沿岸の健康調査について「2年以内をめどに開始」などと実施時期に初めて言及。その一方で、「司法も認定基準は否定していない」と従来の主張を繰り返し、団体側からは厳しい声が上がった。

認定制度は『ゼロ回答』で厳しい声も

この問題は5月1日、水俣市で開かれた水俣病被害者団体と環境相との懇談の席で、環境省の職員が発言時間の「3分」を超えた団体側のマイクをオフにして、発言を制止したものだ。

この記事の画像(16枚)

7月8日と10日、それに11日の3日間の日程で団体側と環境相との懇談が改めて設定され、初日は、6つの団体が懇談し、伊藤環境相は冒頭、「マイクオフ問題」について改めて謝罪した上で、「皆さまに寄り添って対応できるよう、環境省をあげて取り組みたい」と述べた。

そのうえで8年前から団体側が回答を求めていた共同要求書について初めて文書で回答。伊藤環境相は不知火海沿岸の健康調査について「遅くとも2年以内をめどに開始できるよう必要な検討・準備を進める」と初めて具体的な時期を明言した。

その一方で、患者の認定制度の見直しについては「司法も認定基準は否定していない」と従来の主張を繰り返していて、団体側からは「ゼロ回答と同じだ」と厳しい声が上がった。

会の中で水俣病被害者互助会の谷洋一事務局長が「私どもは今の認定制度は誤っていると思っている。要求書の回答は撤回を求めたいが、今後の宿題として専門家の意見や検証が必要だと思うので一緒に議論するということでよろしいか」と聞くと、伊藤環境相は「議論を続けていきたいと思う」と答え、認定制度の見直しについて今後も団体側と議論を続ける考えを示した。

水俣病不知火患者会の副会長で熊本訴訟原告の森正直団長は「解決に向けての話はまだないが一歩前に進んだと思う」と話したが、水俣病被害者互助会の佐藤英樹会長は「今まで通りのやり方で(認定制度を)やると言っているから、ゼロ(回答)だと思う」と述べた。

環境行政トップと田中実子さんが面会

伊藤環境相はその後、水俣病の公式確認のきっかけとなった、小児性患者の田中実子さんと面会。実子さんはヘルパーによる24時間態勢での介護が必要で、立ち会った関係者が支援の拡充を求めたということだ。

なお、田中実子さんに環境行政のトップが会うのは1972年、当時の大石武一環境庁長官が面会して以来、実に52年ぶりだ。

また、伊藤環境相は水俣病互助会のメンバーとも個別に面会。小児性患者の岩本昭則会長は水俣病を理由に学校や職場などで差別やいじめを受けたことを明かした。

胎児性患者の坂本しのぶさんは「何十年も水俣病で苦しんできました」と話し、「水俣病に認定されていない人がたくさんいる。ちゃんとしてほしい」と国に未認定患者の救済を迫った。

また、田中実子さんを支えてきた義理の兄で認定患者の下田良雄さんも「制度を見直して苦しんでいる人を救ってほしい」と訴えた。

これに対し伊藤環境相は「しっかり受け止めた。共に進めていきたい」と述べた。

切実な胸の内に環境相が涙ぐむ様子も

つづいて伊藤環境相が訪ねたのは患者団体の一つである「水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会」。自身も胎児性患者で代表を務める松永幸一郎さんなど7人と約1時間に渡って意見交換した。

八代市で生まれ、両親が不知火海でとれた魚の行商をしていたという藤枝静香さんは、水俣病の症状に苦しみながらも「公健法」に基づく患者認定申請は棄却され、現在、不服申し立てをしている。

藤枝静香さんは「母は『自分たちが売っていた魚を食べて他に水俣病に罹患している人がいるなら大変ばい。自分たち家族は村八分になるばい』とも言っていました」と話し、同じく、症状を抱えながらも水俣病と認められることなく亡くなった母親の話をしながら、「目の前の患者にしっかり向き合ってほしい。寄り添って、私たちを見てください」と切実な胸の内を環境相に訴えた。

また、認定患者についても「進行していく症状に合わせて『補償ランク』を変更してほしい」などの声が上がり、伊藤環境相が涙ぐむような様子も見られた。

水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会の松永幸一郎代表は「環境相は毎年代わっているが、ちゃんとこのことを引き継いでもらい、まだまだ解決していない水俣病を、これを機に解決してほしい」と要望した。

「一筋縄では解決できない課題」

午後からもそれぞれの団体と意見交換をした伊藤環境相は、受け止めについて尋ねられ「苦しんでいるみなさんの現状をつぶさに聞いて、呼吸ができなくなると言えば大げさだが、胸が締め付けられる思い。一筋縄では解決できない課題がたくさんあると思うが、顔を合わせて話をすることで理解を深めて、そのことが水俣病問題を前進させるエネルギーと信頼関係の構築に繋がると思う」と述べた。

伊藤環境相との再懇談は10日は水俣市で、最終日の11日は天草市の御所浦島や鹿児島県の獅子島へ船で渡り、計2つの団体と意見交換が行われる。

(テレビ熊本)

テレビ熊本
テレビ熊本

熊本の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。