富士山の山頂で、6月24日に登山者とみられる心肺停止状態の3人が見つかり、いずれも死亡が確認された。3人はそれぞれ数メートルから数十メートル離れた場所で見つかっていることから、同一グループではないと見られている。
富士山で3人の遺体…1人の身元判明
6月23日午前6時頃、静岡県警に富士山における遭難情報が寄せられた。
この時、行方がわからなくなっていたのは東京都日野市に住む会社員の男性(53)で、21日午後8時頃、家族に「富士山へ登山に行く」と告げて外出。
翌22日には山頂で撮影したとみられる写真が家族に送られて来たが、これを最後に連絡が取れなくなり、また、帰宅予定だった22日のうちに家に戻らないことから家族が届け出た。
通報を受け、県警の山岳遭難救助隊が捜索を実施。
すると、24日に山頂の火口の中で登山者とみられる3人が心肺停止の状態で見つかり、その後、死亡が確認された。
県警によれば、3人はそれぞれ数メートルから数十メートル離れた場所で見つかっていることから、いずれも単独で登山をしていたと見られていて、このうち、1人は救助隊が捜索していた日野市の男性と判明し、26日に遺体を収容。ただ、残る2人については、天候などを考慮し、28日以降に遺体を搬送するという。
この記事の画像(6枚)富士山をめぐっては、2024年1月に東京都稲城市の会社役員の男性(当時53)が「富士山へ登山に行く」と告げて外出して以降、家に戻らないことから、家族が県警に行方不明者届を提出し受理されているほか、2023年12月には山梨県在住の男性(当時35)が吉田口馬返し駐車場に車を停めて入山して以降、会社に出勤しないため家族が山梨県警に行方不明を届け出ている。
閉山期間に潜むリスク
まだ全員の身元が判明していないため、警察が把握していた3人以外の可能性もあるが、行方がわからなくなっていた3人に共通しているのはいずれも“閉山中”の遭難という点だ。
富士山は例年、山梨側が7月1日に、静岡側が7月10日に山開きを迎え、開山期間は9月10日までとなっているほか、融雪の状況によっては開山が遅れることもある。
閉山期の富士山、殊に積雪期の富士山について、以前、静岡県警に尋ねたところ、山岳遭難救助隊の隊員は「遠目から一見するとやわらかい雪が積もっているように見えるが、すべて氷のようなもの。なので、スキー場のように“ふかふか”とした雪を歩いていく感じではない」と教えてくれた。
また、厳冬期における山頂の平均気温は氷点下20℃近くで、このため「凍りついた斜面には休むところがない。さらに突風や高度、気温の低さなどの危険な要因があり、技術や体力を超えた危険がある」という。
地上では6月にも関わらず猛暑日を記録する日もあるが、日野市の男性が登頂した22日であっても頂上の最高気温は5.5℃、最低気温は1.4℃と真冬並みの寒さで、もちろん雪も少なからず残っている。
県警のまとめによれば、2023年に富士山・静岡側で起きた遭難事故の発生状況は開山期が70人に対して閉山期は15人。
しかし、死者は開山期が2人、閉山期は3人となっているほか、ケガなく救助された人も開山期が50人に対して閉山期がわずか6人と、閉山期にひとたび遭難すれば大惨事につながりやすいことは一目瞭然だろう。
ハードル高い規制…救助有料化は?
こうした中、静岡県富士山世界遺産課の大石正幸 課長は、閉山期の富士山は山小屋や衛生センター(診療所)が閉まっていることから、「上の方で何かあった時に、助けを求めたり、受け入れたりという体制がなく、本当に危険が大きい」と警鐘を鳴らす。
ただ、「山なので(県道である)登山道以外からも入れるため、入山の規制について法令上の制度が今のところはない」と話し、閉山期における登山自粛はモラルに訴えるしかないのが現状だ。
山岳遭難をめぐっては、活動中にヘリコプターが墜落し隊員が死亡した事故を受け、埼玉県が2017年に全国で初めて条例により救助の有料化に踏み切った。県が指定する山や地域において防災ヘリで救助を受けた場合、燃料費に相当する手数料としてフライト時間5分につき8000円を徴収する。
一方で、静岡県にはこうした条例はなく、今回のように民間業者に依頼してブルドーザーで遺体を搬送したり、救助者を下山させたりした場合でも費用は県が税金から支出している。
2024年11月に発足から52年を迎える静岡県警の山岳遭難救助隊は、卓越した登山技術と専門的な知識により、これまで救助活動中に命を落とした隊員はいないが、その任務は常に危険と隣り合わせだ。隊員に何かあってからでは遅い。
(テレビ静岡)