鹿児島県警の元幹部による“内部告発”が大きな波紋を広げている。渦中の文書を受け取った福岡市のウェブメディアによると、その発端には、県警による強制性交事件のもみ消しにつながる不当捜査疑惑があるという。さらに県警内では、捜査資料の廃棄を促す文書も作成されていた。

「ほっとけないという思いがあった」

「逮捕された警察官には、組織の不正、腐敗、それを正さなきゃいけない。ほっとけないという思いがあった」と話すのは、福岡市に本社を置くウェブメディア「ハンター」の中願寺純則代表だ。

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ハンターに寄稿する北海道在住の記者から、渦中の内部文書を受け取ったという。その1ページ目には「闇をあばいてください」との文言が記されてあった。「公益通報、内部告発だ」と中願寺代表は訴える。

鹿児島県警の前の生活安全部長だった本田尚志容疑者が、在職中に入手した内部情報を第三者に郵送した疑いで逮捕された事件。本田容疑者は「野川本部長が、鹿児島県警の不祥事を隠ぺいしようとしたため、情報を記者に送った」と主張した。

これに対して2024年6月7日、野川明輝本部長は記者会見で「私が隠ぺいの意図を持って指示を行ったということは、一切ございません」と真っ向から否定した。

発端は強制性交事件の“不当捜査”か

大きな波紋を広げる元幹部の内部告発。しかし、この問題の発端として、ハンターの中願寺代表は「2021年に起きた強制性交事件。事実上のもみ消しにつながる不当な捜査指揮を県警が行ったことにある」と主張する。

今から3年前の2021年に鹿児島市内の新型コロナ宿泊療養施設で女性看護師に性的暴行をした疑いで、鹿児島県医師会の元男性職員が2023年6月に書類送検された事件。鹿児島地検は、男性を不起訴処分とした。

これに対し女性側は、訴えられた男性の父親が捜査を担当する警察署に勤務していたことなどから、不適切な捜査だったと訴え、2024年1月、処分を不服とし検察審査会に審査を申し立てた。

2024年2月29日、女性看護師の弁護士は記者会見で「女性が告訴に訪れた際に対応した警察官は挨拶もなく、告訴状を受け取ろうとも事情を聞こうともせず、散々消極的なこと、『事件にならない』という趣旨のことを言われた」と述べた。

その疑惑を報じ続けていたのが、ウェブメディアのハンターだった。

「報道の自由と公権力巡る問題」と憤り

さなかの2023年秋以降、ハンターは2度にわたって鹿児島県警の「告訴、告発事件の処理簿一覧表」を入手した。

捜査の処理過程が記録されたもので、この資料から分かった情報をもとに、「事件捜査が歪(ゆが)められた」と批判的な記事をハンターは掲載した。

すると、鹿児島県警が異例の行動に出る。ハンターの事務所を家宅捜索したのだ。

中願寺代表は「令状には、地方公務員法違反、被疑者、藤井光樹と書いてありました」と話す。

この日、鹿児島県警は、処理簿一覧表を外部に漏らした疑いで、巡査長の藤井光樹被告を逮捕した(その後、懲戒免職)。

さらに、県警はハンターの事務所で押収したパソコンから別の告発文を発見。この告発文こそ、「本部長の隠ぺい指示を明らかにしたい」と元幹部の本田容疑者が外部に送ったとされる内部文書だったのだ。

本田容疑者は、この内部文書をハンターに寄稿する北海道の記者に送り、そのデータを中願寺代表が2024年4月初旬に受け取ったとされる。

中願寺代表は、「藤井巡査長の行動に、本田前生安部長が触発されたのではないか」と話す。ジャーナリストの鈴木哲夫さんは、「メディア、ジャーナリズムに対して、家宅捜索なんて絶対やってはいけない。我々は権力の向こう側に入って情報を取りに行く。報道の自由と公権力を巡る大きな問題」と憤りを隠さない。

資料廃棄促す“前代未聞”の隠ぺい指示

さらにハンターが入手した内部文書はもう1つ。鹿児島県警が2023年10月に発行した「刑事企画課だより」だ。

そこには「事件記録の写しについても保管の理由が説明できず、不要と判断されるものは速やかに廃棄しましょう」「再審や国賠請求等において廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」と記されてあった。

捜査書類の廃棄を促す内部文書を作成していたのだ。鹿児島県警は2003年の鹿児島県議選を巡り、全員の無罪が確定した「志布志事件」でずさんな捜査を非難された過去があり、12人の冤罪犠牲者を生んでいる。

文書は志布志事件の反省を受け、「適正な捜査徹底を目指して指導や支援を行う部署」として2007年に発足した刑事企画課が作成したもの。ハンターでは、前代未聞の隠ぺい指示と報じ、鹿児島県警は文書を訂正している。

中願寺代表に鹿児島県警の実情を尋ねると「全部、ウミを出すのは無理だと思います。ウミを出し切るかって言ったら出せないですよ、この体質では。無理」と最後まで否定的だった。

刑事訴訟法239条は、秘密に値しない不正や違法行為に関する情報なら、むしろ公務員に告発義務を課している。今後の展開に注目だ。

(テレビ西日本)

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