なかなか減らない高齢ドライバーによる事故。

その一方で、運転免許を自主返納する人は5年前まで増加していたものの、その後、減少している。「なかなか返納できない…」というのが高齢ドライバーの本音のようだ。

【動画】進まない免許返納「80代までは乗りたい」過疎地ほど不便感じる割合高く 自主返納は低迷

■全国で多発する高齢ドライバーによる事故

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高齢ドライバーによる事故は全国で多発している。警察庁によると、去年発生した75歳以上の高齢ドライバーの死亡事故は384件と3年前より50件以上増加。 ブレーキをアクセルと間違えたことによる事故が多いという。

■免許更新に必要な「高齢者講習」

「こういった交通事故は、どうしても高齢ドライバーさん大きな事故に発展しがちです…」

大阪府の門真運転免許試験場ではこの日、15人が「高齢者講習」にのぞんでいた。 70歳以上のドライバーは、免許を更新する場合、受講が必須になっている。

車に乗ることは趣味でもあるという男性。

-Q.おいくつですか?
受講者(75):75歳です。そろそろこの年齢でもあるし、返納のことも考えながら。自分で『これで限界』と、何かで気が付けばいいんだけど、その判断は難しいですよね。

通常の視力検査に続き、夜間の視力や視野の広さ、動体視力なども調べる。視力に問題はなかった。

受講者(75):こういう検査も必要なんやね。暗闇の中に入ったときに、見える時間が遅れてきているというのはやむを得んので、とりあえずスピードは控えめにというところかな。

指導員:夜間の視力、かなり低下されてます。どうしても加齢に伴うものです。

■実技の講習で標識の「見落とし」や「逆走」も

毎日車に乗るという75歳の男性。

受講者(75):(Q.車はどういう時に使う?)通勤に使うのと、あと仕事でトラックに乗っています。
(Q.車の運転で心配なことは?)心配ないけどね。毎日乗っているから。

視力検査などを終え、実際に車に乗っての実技へ。

指導員:出発しましょう。
受講者(75):はい。

乗り慣れていない車のため慎重に走り出すも、さすがのハンドルさばきだ。しかし、T字路を右折しようとした時…

指導員:標識見てました?そこに標識ある『一時停止』の標識。こんだけ過ぎちゃってる
受講者(75):ああ~、ほんまやね。

標識を見落としてしまった。少し緊張が高まる。

指導員:その先のT字路を左に曲がってください。この先をね、どんつきを左に曲がる。
受講者(75):はい。
指導員:“逆走”してますよ。逆走してる。
受講者(75):は?
指導員:こっち側。これ反対車線。
受講者(75):この白か。
指導員:この白の実線がね、これがセンターライン。

焦りや、慣れない環境から、逆走という”まさか”の運転もありましたが、それ以外の課題はクリア。無事、講習を終えた。

指導員:お疲れさまでした。なかなか緊張するでしょう?隣におったらね。ちょっと視野狭くなってます。それも加齢に伴って。見えてると思ってるところが、実は見えてないこともある。きっちり目視確認、特に後方の確認は、きっちり体ひねって見てください。
受講者(75):ゆっくり見てからね。はい、分かりました。

こうした講習で、認知機能や身体機能の低下に気づく人もいるという。

大阪府警交通部 橋本鎮彦警視:若いころに比べて体が動きにくいとか、物忘れが多くなったということがあると思いますので、それが運転に影響があるということに、気付いていただけたらと思います。

■免許証返納件数は2019年の35万件がピークで年々減少

認知機能が低下し、事故のリスクも高まることから、年齢ともに免許の返納を考える人も多くいる。しかし、75歳以上の運転免許返納件数は、2019年のおよそ35万件をピークに年々減少している。

九州大学大学院 志堂寺和則教授:年齢が上がってくると、運転が下手になったかなという思いは多少ある。自分でもなかなか認めたくないですし、特に地方に行くと、公共交通機関が不便なところはいっぱいある。そういうところを中心に、免許返納はなかなかいかない。

内閣府が自主返納した高齢者を対象に行った調査では、「自主返納などで不便を感じているか」という質問に対し、都市部は25パーセントの人が不便と答えた一方、過疎地では60.5パーセントの人が不便と回答。 都心部と地方では、免許を返納した後の交通手段に大きな差がある。

■生活を維持するために免許の返納が進まない…70代の夫婦の実情

大阪府島本町に住む70代の夫婦。日々の生活に車は欠かせない。この日も車で近くのスーパーへ。

島本町在住 70代の夫:この坂が結構きついんですよ。歩いていると。

車で片道5分ほどの距離だが、徒歩だと坂道を20分近く歩かなければならない。妻は3年前に免許を返納したが、夫の運転で週に1、2回ほど買い物などに出かけていて、夫の免許返納には、まだためらいがあるという。

島本町在住 70代の夫:いつかは(運転を)やめないと、いけないんだろうなというので、そうなったときに、どういう生活ができるのかは、すごい心配です。今は。

百貨店に行こうと高槻市の中心部へ。車で行くと20分ほどだが、免許を返納すれば使える手段はバスと電車。自宅と最寄りの駅をつなぐバスは20分おきに1本、さらに電車に乗って移動すると、待ち時間なども含め片道1時間ほどかかるという。

子どもは大阪府外に住んでいて、すぐに来られる距離でないこともあり、免許を返納してもこれまでと同じ生活を送れるのか、不安は大きいという。

島本町在住 70代の夫:バスが本数減っているのもあるし、(返納すると)出歩くのが難しくなってしまう。家の中にこもってしまうようになると、どんどん老化が進むことになっても困る。できたらあと10年ぐらいは乗りたいなと思っていますけどね。

今の生活を維持するため免許の返納が進まない現状。今後さらに高齢者が増える中、事故を減らすためにも必要な支援を考えなければならない。

■運転をやめると要介護状態になりやすい

高齢者の運転事故を防ぐためにも免許返納が大きな一手なのだが、課題もある。

まず免許返納後、外出が減ったという人は都市部で23.6%で、過疎地では55.8%にもなる。

さらに免許返納して運転をやめることで、要介護状態になりやすいというデータもある。運転を中止した人は、運転を継続していた高齢者に比べて、時間が経つにつれ、要介護状態の危険度がおよそ8倍になったそうだ。

そして返納後の「不便さを感じるか」という調査では、地域によって差がある。 「感じる」「どちらかと言えば感じる」と答えた方の割合は、都市部では25%にとどまったが、地方都市、過疎地と増えていき、過疎地では60%以上の方が不便だと感じている。 都市部から離れて行くにしたがって、不便と感じる人の割合が増えている。

関西テレビ 神崎博報道デスク:同じ調査で、実は自主返納で不便を感じている理由も聞いてるのですが、その中で当然、買い物や病院に行きにくくなったと。それ以外に、出かけたいと思った時にいつでも出かけたり、出先でそこにいたい時間までいたいと思っても、いられなくなったという点で、すごく不便を感じている人が多くいます。あとは趣味で外出しにくくなったということも理由に挙げてる方もいらっしゃいます。生活の範囲や幅も狭くなり、色々やりたいことができなくなってしまうということもあります。

そんな中で、自治体としても支援はしている。

大阪府豊中市では電気自動車「モビとよ」というものがある。どういうものかというと週2回1日4便(午前、午後)、無料で街を周遊しています。スーパーや駅、公園や小学校に行ってくれるそうです。ボランティアの方が運転してくれるそうだ。支援を考えている自治体もあるが、予算がかかる部分もある。

前尼崎市長 稲村和美さん:地域によってかなり状況が異なると思います。都市部と地方都市でも違うと思うので、それぞれの工夫なんですけれども、もちろんコミュニティバスなどの取り組みも、当然、いろいろなチャレンジがなされています。
 あともう1つは、移動店舗です。例えば高齢化が進んでいる団地に、お店が行って、買い物していただけるようにするなどの発想もあります。なるべく出やすいエリアに、同じ趣味の人達と集まるコミュニティがあるかどうかとか、両面で取り組んでいく必要があるのかな。また地域の特性に応じた取り組みが求められていると思います。

安全対策はどのようにしていけばいいのだろうか。

関西テレビ 神崎博報道デスク:高齢者ドライバーで一番問題になっているのは、アクセルとブレーキの踏み違いです。そこは、実は車の技術の進歩で、衝突の防止装置がついている車もかなり多くなってますし、あとは自動運転技術をどんどん進めていこうとしてるので、自動運転技術がちゃんと完成されれば、当然、踏み間違いなんかないわけですから、そういう意味においては、技術の進歩がもうちょっと進めば、高齢者ドライバーの問題もだいぶ解決すると思います。

前尼崎市長 稲村和美さん:防止装置の購入に対する補助制度も、結構できてるんですけど、つけられない車があったりするみたいなので、やっぱり技術が進歩すると、少し進む面もあると思います。

ただ自主返納を促すのではなく、自主返納しやすいような環境の整備が必要だ。

(関西テレビ「newsランナー」2024年6月18日放送)

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