派閥の功罪とは何か。「BSフジLIVEプライムニュース」では石破茂氏と先﨑彰容氏を迎え、自民党内における派閥の成り立ち、そして自民党、日本の政治の今後について議論した。

小泉元首相が石破氏に説いた「義理と人情」

長野美郷キャスター:
派閥の話の前に、6月7日に石破さんと小泉元環境相が官邸を訪れ、漁業や観光などで地域経済を活性化する「海業(うみぎょう)」の推進に向けた提言を岸田総理に行った話題。

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石破茂自民党元幹事長(VTR):
漁港・漁村をどうするか。水産資源の確保を一生懸命やっているが、それだけでは雇用も所得も維持できない。

小泉進次郎元環境相(VTR):
もはや港町は漁業だけでは食べていけない。農業と商工業、観光業がひとつになって港の利活用を考えなければ。海を活用する「海業」は海の地方創生。

岸田文雄首相(VTR):
国民のニーズに漁村・地域の振興を結びつける発想で取り組みが進んでいると承知している。骨太の方針には間違いなく明記する。

反町理キャスター:
「次の首相にふさわしい人」のFNN世論調査では1位が石破さんで2位が進次郎さん。2人に総理が挟まれた構図だが。 

石破茂自民党元幹事長:
勘繰りすぎです。

反町理キャスター:
失礼しました。ところで先日、進次郎さんのお父さんである小泉純一郎元総理との一席があり、石破さんに「義理と人情だ」と言ったとの話。

石破茂自民党元幹事長:
才能、努力は必要だが、運も必要だと4回おっしゃったと思う。その後に「義理と人情」。小泉総理も何度も(総裁選に)チャレンジしている。「1回出て惨敗、2回目で惨敗。もうやめようかと思ったが、推薦人が集まったから出てくれと言われたら出なきゃいかん」という話。独特の身振り手振り、久しぶりに見ました。

反町理キャスター:
都知事選の話は伺っておきたい。小池都知事が出馬すれば、蓮舫さんとの間ですごいレベルの戦いになるか。

石破茂自民党元幹事長:
見たことがない構図。小池さんが初めて守りに回るか。蓮舫さんは立憲の中ではずっと保守の野田佳彦さんのグループにいて、価値観の底流には保守的なものがあるだろうと私は思っている。また小池さんとはずいぶん一緒に仕事したが、人々の共感を呼ぶ上で天才だと思ったことは何度もある。都民にわかる形で政策論争が行われればいい。

自民党の派閥はなぜ生まれ、どう変容してきたか

長野美郷キャスター:
岸田総理が自ら岸田派の解散を表明して以降、自民党5派閥が解散を決定。かつて宏池会の会長を務めた古賀誠自民党元幹事長は共同通信のインタビューで「『派閥の全てが悪だ』と解散するだけなら一時的なごまかし。集団を形作るのは人間の本能で、その意味で派閥はなくならない」と述べている。

先﨑彰容日本大学危機管理学部教授:
派閥解消の話は、自民党ができて以来何回も起きてきた。表面上は正しく見えるが、小さな派閥などから権力を取り上げることにもなる。ときに派閥解消は権力を握るための道具になる。

石破茂自民党元幹事長:
派閥のあるなしより、その在り方が問われる。人口、経済、安全保障など各テーマについて集団による議論が戦わされることは大事。政策で争う総裁選をやるべき。

長野美郷キャスター:
自民党は大きく6派閥に分かれていた。最大派閥の安倍元総理が会長を務めた清和政策研究会(安倍派)、自民党で最も古い派閥が宏池会(岸田派)、そして志公会(麻生派)、平成研究会(茂木派)、近未来研究会(森山派)、志帥会(二階派)。そもそも、なぜ自民党に派閥が生まれたのか。

先﨑彰容日本大学危機管理学部教授:
当時の国際情勢が重要。朝鮮戦争後、アメリカが急速にフィリピン、日本、韓国、台湾と条約を結んだ。日本が撤退し権力の空白地帯になった台湾、韓国をアメリカが押さえた背景には、アジア地域で共産主義的な勢力が極めて強かったことがある。このアメリカの危機意識の中で、日本国内では日本社会党の統一が起き、対抗して自民党ができた。このときハト派としてのグループと憲法改正含め強いイデオロギーのあるグループがあり、さらにグループが分かれて後に五大派閥といわれるものになる。

反町理キャスター:
冷戦の対立構造はもうない。今は歴史の要請としての派閥の存続理由はないか。

先﨑彰容日本大学危機管理学部教授:
僕は全く派閥自体を否定はしない。派閥の功罪の「功」をどう生かすか。だが、例えば60年安保などかつてはアメリカとの緊張関係があった。そして1970年以降、三島由紀夫が対米従属に反対して憲法改正を唱え、大阪万博が開催されて皆が豊かさに雪崩をうっていき、アメリカは資本主義の豊かさを与えてくれる存在に変わった。対米・対中関係についての理念で派閥が切磋琢磨しなくなり、権力維持装置になった。それが80年代、「三角大福中」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)後だと思う。

良い政策が通ることを目指す権力闘争がベスト

長野美郷キャスター:
派閥には権力闘争集団と政策集団という二側面があり、前者は党のポスト獲得と選挙資金分配の役割、後者は政策立案、新人発掘・人材育成の役割を果たしてきたとされる。

石破茂自民党元幹事長:
自民党のような大きい党では細かく面倒を見られず、派閥が機能してきた。今後は、党がそれを担うべきという考え方か、きちんと政策を掲げる前提で派閥的なもので争っていく考え方か。まだ党として方向を見出せているとは思えないが。

先﨑彰容日本大学危機管理学部教授:
どの価値観を掲げるかで政党にも派閥にも緊張関係が出て、国家像をちゃんと掲げた政治家が出て、従う人たちがいて派閥になるのがいいと思う。だが、派閥とは自民党内、つまり立法府の最大政党の中のこと。行政府の長である総理大臣がこれを自由にコントロールできてしまえば、行政府と立法府両方の権力を握ることになる。派閥の「功」は、少数の派閥であっても、総理はある程度権力維持のために目配りしなければいけなかった点。独裁化しないシステムとして機能していた。

石破茂自民党元幹事長:
言うことを聞かないとポストをやらないよと言われ総理にひれ伏せば、どんな派閥があってもチェック機能は果たされない。それぞれの議員の志の持ち方。

先﨑彰容日本大学危機管理学部教授:
派閥は複数ある方がいい。3つの派閥がくっつけば主流派を倒せるとか、主流派は一番小さな反主流派を味方にすれば政策を進められるといった力学が大事。疑似政権交代までいかなくても、無視できない緊張関係があれば小さなポジションからも権力に関与できる。結果、良い政策が通ることを目指して権力闘争が行われるのが我々にとってベスト。

反町理キャスター:
田中政権が掲げたのは「日中国交正常化」「日本列島改造論」、大平政権は「田園都市国家構想」などそれぞれ異なるカラー。小泉政権後の安倍・福田・麻生政権、安倍政権後の菅政・岸田政権の状況とは違うか。

先﨑彰容日本大学危機管理学部教授:
例えば、田中内閣の列島改造論は高度経済成長期の発想。だが、大平内閣の田園都市国家構想は高度経済成長期が終わったことのある種の宣言。それぞれの派閥から出てきた内閣が日本の歴史の転換点を掴んで言葉にしている。だが岸田さんも菅さんも結局、安倍内閣のレガシーの継承で、国民を引っ張る国家像をぶち上げられていない。

逆風の自民党に今求められるリーダー像

長野美郷キャスター:
石破さんは1986年の衆院選初当選後に中曽根派に所属。1993年に自民党を離党し新生党・新進党に参加。1997年に復党し平成研究会(小淵派)に所属。2008年と2012年に自民党総裁選に出馬し敗北。2015年に自ら派閥「水月会」を旗揚げ。2018年と2020年に自民党総裁選に出馬し敗北。2020年に水月会会長を辞任し現在に至る。

石破茂自民党元幹事長:
私は宮沢内閣の不信任に賛成しながら自民党に残った。中から変えようと思ったが、当時の河野総裁は憲法改正を棚上げし、これは自民党じゃないと思った。小沢一郎さんは憲法改正、集団的自衛権は容認、消費税はきちんとやると言っており、これこそ自民党が失った真の保守だと思い、本当の自民党を外でもう一度作り直そうと思った。でもそれはやがて、小沢さんと羽田孜さんの権力闘争に。復党したときは一番の挫折感を味わった。

長野美郷キャスター:
政治とカネを巡る問題で先頭に立つ岸田総理は、自身の派閥の解散、自ら政倫審で弁明、また派閥幹部の処分を主導し、政治資金規正法の改正において公明党と維新の案を丸呑み。官邸と党はどういうバランスで機能しているか。自民党に近年稀に見る逆風が吹く中、秋の総裁選ではどういうリーダーが求められるか。

石破茂自民党元幹事長:
私は中にいるわけではないが、官邸と党の齟齬は感じる。だから岸田さんは自ら動かざるを得なかったのでは。だが、今回のいろんな政治改革を国民はあまり評価していない。人口構成、安全保障、社会保障という先送りが許されないことについて、国民一人ひとりに向かって訴えること。

反町理キャスター:
兵庫県の男性からのメール。「派閥解散は表向きだけに見えるが、次の総裁選は派閥にとらわれずフリーの投票になるか」。

石破茂自民党元幹事長:
そうあるべき。誰がどういう理由でどう行動をしたか、それぞれの選挙区の方によく見ていただくのは大事。もう一つはどう地方票を大事にしていくか。自民党は国会議員のための党ではなく、国家国民、また党員のための党。それが明確に伝わるやり方を執行部は目指すのでは。
(「BSフジLIVEプライムニュース」6月7日放送)