拙著『小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉』を2年前に出版した筆者は、まだ閣僚経験も無い若い政治家が「総理になってほしい政治家No.1」に祭り上げられる状況を疑問視し、小泉進次郎氏の実像と実績を紹介することで「その資格があるか」世に問うた。

そして昨年、一転して始まったバッシングの嵐。

昨年8月の結婚、そして初入閣の頃から小泉氏に対する“世間”の風向きは変わり、官邸での結婚発表や、環境大臣として初外遊先だったニューヨークでの「セクシー発言」、そして週刊誌の政治資金報道は多くの批判を受け、また揶揄された。

まさにかつて小泉氏自身が言っていた、「よく報じてもらえるときは、叩き潰されるスタート」通りの展開だった。

しかしこの喧噪の中、小泉氏は環境大臣としての職務を粛々とこなし、時間が経つにつれマスコミ・世間からの批判も徐々に減っていった。

インタビューでみえた小泉進次郎の現在地とは

こうした状況を見ながら筆者は、小泉氏がいま何を考え、どう行動しているのかを知りたくなり取材を申し込んだ。

そして今回のインタビューで対面した小泉氏から発せられる言葉を聞きながら、筆者は「小泉進次郎は復活し、さらなる高みに向けて発進した」ことを確信した。

40分のインタビューには、小泉氏の現在地と目指す未来が現れている。

――いま、39歳になったんですね。初めて(著者と)会った時は、コロンビア大学院の留学生で、当時は24歳ですか。

小泉氏:
はい。ニューヨークですね。

――24歳と39歳だと1世代巡って、いま小泉大臣は完全にこっち側ですね。

小泉氏:
いまの時代ではもう3世代は違うと思いますよ。24歳と39歳だったら、携帯でいえばガラ携とスマホ、4Gと5Gくらい違うじゃないですか(笑)。この加速する時代の流れに、環境省がもっと追いついていかないといけないですね。

24歳と39歳、ガラ携とスマホくらい違うじゃないですか
24歳と39歳、ガラ携とスマホくらい違うじゃないですか
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日本の若い世代の声を届けた「気候危機」宣言

――環境省は今年初めて「環境白書」で「気候危機」という言葉をつかいましたね。「気候変動」ではなく「気候危機」と、いまの状況をより深刻に受け止めたこの言葉を使ったのはなぜですか。

小泉氏:
そうですね。まず僕が大臣のうちに、若い人達の声をできる限り取り入れたいと思っていたんです。世界各国を見ていると気候変動アクションをリードし、政府に対して訴えているのは、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんを代表とする若い世代です。ただ日本の中では、比較的その動きが弱い。それは気候変動に限りませんが、若い人達は自分たちが声を上げても、政治が本当に聞いてかたちにしてくれるのか、すごく疑問に思っているんです。だから僕は、それはちゃんと政治に届くことを見せたかったんですね。

――「気候危機」は若い人達から生まれた言葉だったのですか。

小泉氏:
まず去年(2019年)9月に環境大臣として初めてニューヨークに行ったとき、「CYJ=Climate Youth Japan」という若者グループから提言を受け取ったんですね。その提言の中に、「クリーン・エアー・イニシアチブ」という大気汚染防止の世界的な枠組みに日本も参加するべきだとありました。

それを見て環境省の事務方に検討してもらったら、これなら参加しても大丈夫だとわかったので「よし、すぐ入ろう」とニューヨークで即決して、宣言しました。そして「皆の声を国際的なアクションとしてかたちにしたよ」と会っていいました。

若い世代の声が政治に届くことを見せたかった
若い世代の声が政治に届くことを見せたかった

羽交い締めまではないが、片手で押さえるのはあった

――これが「気候危機」の第一歩になったわけですか。

小泉氏:
その後も継続的に若い人達の団体とも意見交換をしている中で、気候危機宣言をして欲しいといわれたんです。そして閣議決定する環境白書をきっかけに気候危機宣言をしようと決めたのですが、若い人達の声を無にしないという想いからですね。

ただ裏話でいうと、環境省が独自に気候危機宣言をすることに対しても、すんなりいかなかったですね。羽交い締めとはいかないまでも、片手で押さえるくらいはありました。

――省内外からですか。

小泉氏:
省内にもこの影響を気にするところがあって。ただ僕は「そこは全く気にするな」といいました。環境省が気候危機宣言をするのに、何を憚られる必要があるのかと。僕が求めているのは、他の省にやってくれということではなくて自前でやるのだから。

そして気候危機宣言をしたことは、とくに若い人達に伝わったんです。その1つがこの感謝状なんですよ。これ、僕はすごく嬉しかったんです。

気候危機宣言がとくに若い人たちに伝わって、その1つがこの感謝状なんです
気候危機宣言がとくに若い人たちに伝わって、その1つがこの感謝状なんです

気候マーチで誹謗中傷された中高生からの感謝状

――さっきから、なぜ大臣室に学校の表彰状があるのかなと思っていました。

小泉氏:
静岡県の浜松開誠館中学校・高等学校の生徒一同から届いた感謝状です。
鈴木さんは「グローバル気候マーチ」というデモ、知っていますか?若い人達が世界中で気候変動対策に取り組もうと街中をデモするのですが、日本は参加者がとても少ないんです。その中でこの学校の生徒約400人が、静岡で気候マーチをやったんですね。だけど生徒達には「何をやっているんだ」と心無い誹謗中傷もあったそうです。

――気候変動に真剣に取り組む若い世代に、そんなことをいう大人がいるんですね。

小泉氏:
そんな中、環境白書でこの学校の取り組みを紹介しました。そうしたら、それを見た学校の皆さんが凄く嬉しかったと、なんとこの感謝状だけでなく生徒1人1人から手紙がきて。僕が読みながらうるっときたのは、校長先生が「去年のCOP25の発言をみて、こういう人もいるんだと嬉しくなりました」と書いてくれていたことです。

――この表彰状、小泉大臣をターザンって書いていますよ。

小泉氏:
凄いですよね、これ。「私たちが見上げる国会はまるでジャングルのようです。そのジャングルに未来環境の扉を開こうという小泉先生はターザンと重なる勇士です」と。よくある「あなたは多大なる功績によりここに表します」みたいな定型文じゃ無いんです。これすごく嬉しかったです。この後ネットフリックスで「ターザン・リボーン」観ちゃいましたよ(笑)。忘れられない感謝状ですね。

よくある定型文じゃ無いんです。忘れられない感謝状ですね
よくある定型文じゃ無いんです。忘れられない感謝状ですね

グリーンリカバリーに向けた日本のアクションは

――一方でいまの大人社会、日本企業の取り組みをどう見ていますか?ヨーロッパはグリーンリカバリー、ESG投資など進めていて、日本の遅れが目立ちますが。

小泉氏:
日本も間違いなく前より進んでいると思います。先日経団連と朝食会をして、各企業の環境への取り組みを説明して頂きました。かつて経済界には、環境省を「経済や雇用を気にせずに、環境のことばかりいっている環境至上主義」とか、「あいつらには経済や雇用が分からん」という認識があったかもしれません。

しかし会合では、まるで「こちらもやっているんだから、環境省はもっと頑張れ」というふうな、前向きな関係性に変わったと思いました。この流れをしっかり加速させないといけないなと思います。

――政府全体でアクションを起こさないといけませんね。

小泉氏:
環境省だけでは限りがあるので、グリーンリカバリーのような動きを政府全体の政策の柱にすえていかなきゃいけない。そこでまずイノベーション担当の竹本直一大臣と異例のコラボレーションをして、「統合イノベーション戦略」にこれまで以上に環境問題を盛り込んで閣議決定してもらいました。

そして昨日(7月30日)官邸で行われた「未来投資会議」で議論が開始されたウィズ・コロナ、ポストコロナ社会の基本理念の4つのうちの1つに、脱炭素社会と循環経済を位置づけたわけです。未来投資会議は政権の推進する政策の中心的なものを議論する場ですが、これまで環境大臣はほとんど参加していなかったんですね。

ポストコロナ社会の基本理念に、脱炭素社会と循環経済を位置付けたわけです
ポストコロナ社会の基本理念に、脱炭素社会と循環経済を位置付けたわけです

毎年の災害が「ニューノーマル」の現実に向き合う

――脱炭素と循環経済社会については、BSフジのプライムニュースで先日伺いましたが、もう1つポストコロナの中で分散型社会という目標がありますね。

小泉氏:
いま九州や山形、秋田が水害に襲われている最中です。これらを見てもいまの日本では、災害が起きることが常態化したのがわかります。コロナの中で「ニューノーマル(新たな日常)」という言葉がありますけど、日本では毎年の災害がニューノーマルになったのです。こうした中、去年千葉県で台風による大停電が続いたのに、ほとんど影響を受けなかった地域が睦沢町にありました。ここは地域分散型のエネルギーシステムを、確立していた地域だったんです。

――地域社会もエネルギーで自立して、災害リスクを減らそうという取り組みですね。

小泉氏:
これから環境省が全国に拡げていきたいのが、よりレジリエント(※)で持続可能な社会です。リスクに備えるのと同時に、再生可能エネルギーを利用することになり、これまでだったら域外に出ていた経済を域内で循環する。

例えば、北海道の石狩で京セラが、ゼロ・エミッションのデータセンターをつくります。環境省が支援していますが、デジタル化社会と自立分散、そして再生可能エネルギー導入の新たなモデルになると思います。

(※)自然災害に対する社会の回復力や弾力性

地域社会もエネルギーの自立で災害リスクを減らす取り組みですね
地域社会もエネルギーの自立で災害リスクを減らす取り組みですね

リモワ、ペーパレス、ポストコロナで変わる働き方

――人々の働き方やライフスタイルも、ポストコロナにむけた分散化が進んでいますね。小泉大臣は外出自粛中リモートワークをしていましたか?

小泉氏:
リモートワークをしていたどころの話じゃ無いです。実は株式会社ワークライフバランスが、「霞が関のどの省庁が、コロナ中にリモートワークやペーパレス化を進めたか」アンケート調査をしました。その結果、環境省が1位でした。

リモートワークとペーパレスという2つの大きな項目で1位だったのは、まるで箱根駅伝の総合優勝みたいな感じで嬉しかったですね(笑)。

もともと僕は自民党内でずっとペーパレス化を進めたり、厚労省のレクをオンラインで受けたり働き方改革を進めてきました。その理由は、国家公務員が無駄なところで汗をかく状況を変えて、本当に国民にとって必要なところで汗をかいてほしいと思ったからです。

――それを環境省でも実践したわけですね。

小泉氏:
僕が大臣になる前から、環境省職員有志が働き方改革に取り組んでいたんです。だけどそれがなかなか組織の中でかたちにつながっていなかった。そこで僕がいる間に徹底的にやろうと思って、その有志の仲間を組織内で正式に位置づけました。

たまたま僕の育休の話もあって、そのメンバーの中から「やっぱり働き方改革はボトムアップだけじゃ無く、トップダウンも無いと進まないから大臣にも取ってもらいたい」という声がでました。自分たちがやってきたことが、今回1位になったのははげみになります。メンバーが喜んでいて僕も嬉しかったですね。

――去年厚労省の若手が働き方改革を訴えていましたが、環境省が羨ましいでしょうね。

小泉氏:
同じ建物なのに(※)一体何が違うのかを議論できるようになりますね。厚労省と環境省の職員で様々な意見交換を通じて、いいところを連携できたらなと思います。

(※)厚労省と環境省は霞が関の同じビルに入っている

国家公務員が本当に国民にとって必要なところで汗をかいてほしい
国家公務員が本当に国民にとって必要なところで汗をかいてほしい

息子の爪を切ったり、おむつを替えたり、お風呂に・・

プライベートでは、去年8月7日にフリーアナウンサーの滝川クリステルさんとの結婚を発表してからもう1年。発表当日は筆者の携帯が鳴り止まなかった。

ーー結婚発表の際は、「おまえが2人を紹介したの?」と言われましたよ。クリステルさん、元フジテレビでしたから。

小泉氏:
あ、そういう噂が出ていたんだ(笑)。

――いまクリステルさん、J-WAVEで「サウジ!サウダージ」という音楽番組のパーソナリティをやっていますね。コロナ中は自宅から出演していますが、そのときはやはり子どもの世話(だっこする仕草)は、小泉大臣がやっているんですか?

小泉氏:
コロナの中、うちの妻は家の中で番組を収録していたんですよ。その時は僕が子どもを面倒みたり、また僕が家でテレワークをやっているときは、家にいる妻がみたりですね。息子の爪を切ったり、おむつを替えたり、お風呂に入れたり、ゴミ出しをやったり・・

――食事も作ったり?

小泉氏:
料理もやりますね。最近ある人に「お祝いに何が欲しいですか」といわれたので、「いま欲しいものは、取っ手の外れるフライパンです」と。わかります?

取っ手が外れるか外れないかで、収納の便利さが全然違うんですよ。家の中で出来ることはやるということが、僕の中で当たり前になりました。

妻が家の中で番組収録しているときは、僕が子どもを面倒みます
妻が家の中で番組収録しているときは、僕が子どもを面倒みます

子育ての時間を当たり前にとれる社会に変えたい

――私は普通かなと思いますけど、一般的には大臣がそんなことをいったら驚くでしょうね。

小泉氏:
「本当におむつを替えているんですか?」と、驚かれることもあるけど、驚かれることにびっくりします。結構衝撃的だったのは、環境省内で育児の話をしていたら、僕よりも上の世代の職員が「おむつを替えたことが無いから分かりません」と。

「赤ちゃんの爪を切るのってこわいんだよね。」といったら、「子どもの爪を切ったことがないのでその感覚は分かりません」と言われることもありました。

――我々より上の世代は、特にそうだったかもしれませんね。

小泉氏:
「あー、そういうことが当たり前の世代が、いままでは世の中の過半数だったんだろうなあ」って思うと、やっぱり社会って相当変わったし、こういう時間を多くの人が当たり前に取れる、そういう社会に変えたいと思いますよね。

だから環境省の中で、より家庭で時間を取りやすい環境に近づいたというのは、環境大臣としては当然のことだけど良かったなと思いますね。

子育ての時間を当たり前に取れる社会に変えたいと思いますね
子育ての時間を当たり前に取れる社会に変えたいと思いますね

――後編に続く。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【撮影:山田大輔】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。