てっちゃん野川のローカル魂、略して「てつたま」。今回は“隠れSLファン”という加藤雅也キャスターと2人で山口県へ。お目当ては2年ぶりに運行を再開する「SLやまぐち号」。その復活の時が迫っていた。

憧れの「デゴイチ」に会いに山口へ

2024年5月3日、「SLやまぐち号」が2年ぶりに運行を再開した。その前日、SL専用の車庫がある山口市の下関総合車両所・新山口支所にはテレビ新広島のてっちゃん・野川諭生キャスターの姿が。

「SLが出てくるとなれば、あの人を呼ばないわけにはいきません。どうぞ!」
「山口までやって来ました。加藤です」

テレビ新広島の野川キャスター(左)と加藤キャスター(右)
テレビ新広島の野川キャスター(左)と加藤キャスター(右)
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テレビ新広島の加藤雅也キャスター、実は小さい時の夢は「蒸気機関車の運転士」だったというSL限定の鉄道ファンなのだ。

SL大好き少年だった加藤キャスター(当時6歳)
SL大好き少年だった加藤キャスター(当時6歳)

バラエティ色の強い「てつたま」のロケに初めて参加した。
「ここに僕のテンションが上がるD51がいるということで、普段は報道のニュースが多いですが、すごく楽しみにしてきました。おじさん2人で大丈夫ですか?」

D51形蒸気機関車は国内最大の生産数を誇り、「デゴイチ」の愛称で親しまれてきた。2人は「出発進行!ポッポッポッ」と腕をくるくるさせ、SL専用の車庫(SL庫)へと向かった。

SLの心臓部へ火をともす

ドキドキしながらSL庫へ足を踏み入れた加藤キャスター。
「すごい!まずはD51の“おしり”からということで。迫力というか、存在感がすごいですね。興奮します。早く“お顔”が見たい」

この日は、翌日に控えたSLやまぐち号の運行再開に向けて、SLの心臓部・ボイラーへ火をともす「火入れ」が報道陣に公開された。蒸気機関車は石炭を燃やした熱で水を沸騰させ、その時に発生した蒸気の力を利用して車輪を動かす。石炭をくべながら、約4時間かけてボイラーの圧力を高めていった。

「火入れ」の後、4時間かけてボイラーの圧力を高める
「火入れ」の後、4時間かけてボイラーの圧力を高める

「火入れが行われて、D51に再び命が吹き込まれたってことですよね」
広い庫内に石炭と油のにおいが立ちこめていた。シューッと煙が噴き出す音も聞こえる。
「この音はD51の鼓動ですよ。SLファンとしてどうですか?」
「感無量ですよ。配管もなんか血管のような…。細かいパーツが一つ一つ役割を持って動くんだなって思うとワクワクします」

突然、加藤キャスターのテンションが急上昇した。何やら黒い車体の一部が赤く光っている。
「あ!ちょっと待って。すごい!炎が反射している。D51が再び目を覚ましたというのをあの赤い炎から感じますね」
「ちょっとー。『命を吹き込む』とか『目を覚ました』とか名台詞を連発ですね」
「いやいやいや、恥ずかしいな。おじさん2人で何をはしゃいでるんだっていう」
「いや、はしゃぐでしょ。ここではしゃがなくて、いつはしゃぐの?」

運転台を体験!情熱がメラメラと…

さらに2人をプレミアムな体験が待っていた。特別に許可を得て、SLの心臓部・ボイラーが燃える運転室へ。

「おじゃまします。うわぁ、熱い!熱気がすごいですね!」

ボイラーの中で炎が渦巻いている。強烈な熱気だ。2人の顔も赤く照らされた。まわりには年季の入った鉄のバルブや管があり、両側に運転台が2つ。
「すごい!ここと、ここが運転台?」
「やっぱり蒸気機関車の運転台は味がある」
「先ほど広報の方から座っていいよと言っていただいたのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

進行方向に向かって左側の運転台に野川キャスター、右側の運転台に加藤キャスターが座った。
「はははは。すごい!野川さんの手元にあるのが、ブレーキかな」

運転台にテンションが上がる加藤キャスター
運転台にテンションが上がる加藤キャスター

小さい頃の夢が蒸気機関車の運転士だった加藤キャスター。運転台に目を輝かせ、感慨深そうに言った。
「いやぁ、同じSLの運転台に野川さんとペアで座っていると、“番組”を一緒に運転していくんだっていう、そういうモチベーションにもかられました。同じ方向を見てね」
「われわれが運転台に座っているとして、誰が石炭をくべるんでしょうね?」
「それは番組スタッフの皆さんということで…。この燃えたぎる石炭のように、番組作りの情熱がわいてきますね」

「漆黒のボディがたまらない」

夢の運転台を満喫し、2人は車体の先頭へじわじわと近づいていった。そして、いよいよD51の“お顔”を拝見。車体に背を向けたまま「せーの!」で振り返った。

「うわぁ、やっぱりカッコいいですね。この黒々としたお顔!」

先頭には「D51200」というゴールドの文字がきらめている。これは、国内で1115両が作られたD51形蒸気機関車の第200号機であることを示す数字だ。
「ちょうど光が当たって、神々しさすら感じます」

そして「やまぐち号」のシンボルであるヘッドマークが掲げられている。
「漆黒のボディによく合う黄色のヘッドマークですね」
「たまらないですね…」
2人はその場にしゃがみ込み、まるで神様を拝むようにしばらく見上げていた。

黒光りするSLやまぐち号を日々、メンテナンスしている人たちがいる。その一人、JR西日本・下関総合車両所・新山口支所の藤井昭光さんに話を聞いた。

ーーいよいよ明日、5月3日に復活となりますが、今、どんなお気持ちですか?
「最終運行日まで走りきるためのサポートが、私らの使命なので。やりきりたい」

ーー楽しみにしているファンの方が多くいると感じますか?
「いろんなところから『楽しみにしている』という声が入ってきます。観光列車すべてに言えることですが、一両しかないので、これが走らないとすぐ運休になる。楽しみにしてくれる人がいるのに運休という判断にならないようにしっかり整備したいです。過去には、運行できるように朝方まで整備したこともあって」

汽笛の“おかわり”いただきます

運行に携わる職員の思いが詰まったSLやまぐち号。その“復活の雄叫び”とも聞こえる汽笛が上がった。

「ボゥー、ボ、ボゥー」

深く鈍い音がSL庫内に鳴り響く。そのすさまじい音量に2人は思わず耳をふさいだ。

「これは…すごい」と感嘆する野川キャスター。気持ちが高ぶるあまり、加藤キャスターの発言も冴えまくっている。
「もう、D51自身が走るのを待ちきれないって言ってますよ」

「胸とお腹にガッてくる感じがありましたね。この音は蒸気機関車じゃないと出せない音ですね」
「もう1回お願いできますか?」
「もう1回!おかわりきますよ。ぜいたく~」

汽笛の“おかわり”に続いて、張りめぐらされ管から勢いよく蒸気が放出されると、2人のテンションは絶頂に。
「おおー!うわー!えー、かっこいい」
「10秒くらい、『うわー』と『えー』しか言ってないですよね」
「アナウンサー失格ですね」

SLやまぐち号のレアチケット没収?

「念願のSL・D51とのご対面でございました」
「いやー、もう大満足。ボイラーに火をつけて、汽笛を鳴らしてもらって、見所満載でした」

まだ客車の取材が残っているが、加藤キャスターは夕方の報道番組に出演のため広島へ。その思いは野川キャスターへ受け継がれた。
「ここからは私1人になりましたが、明日のSLやまぐち号運行初便にも乗る予定です。早朝6時にネット予約したチケットもありますから」

そこへ、ディレクターからお知らせが…。
「アナウンス部長から、翌日が野球実況のためSLやまぐち号には乗れないと」

アナウンス部長の指示に戸惑う野川キャスター
アナウンス部長の指示に戸惑う野川キャスター

「え?野球実況はその次の日なのに?」
「準備に専念しろと…」
「この切符は?」
「没収です」

楽しみにしていた運行初便のレアチケットは没収されてしまった。

昭和初期のレトロな客車を再現

復活の瞬間に立ち会えないのは残念だが、続いてSLにけん引される「客車」の取材へ。客車は2017年製で、昭和初期に製造された車内を再現し、レトロに仕上げられている。製作に携わったJR西日本下関総合車両所・新山口支所の森川泰登さんに、まずは5号車から案内してもらった。

「非常に天井が高いのが特徴です。モデルになったオハ31という車両も天井の高さが特徴だったんですね。開放感や広さを感じてもらうために、凸型の形状を踏襲した形になっています」

「オハ31」とは、1927年(昭和2年)に製造された国鉄の客車のこと。
「百年前の雰囲気を味わいながら、冷房が効いていて現代の快適さもあるわけですね。座席のモケットがグリーン。色もモデルの客車にそっているのですか?」
「そうですね。緑色は、昔の客車でいうと3等車相当、一般のお客様が座る座席だったんです」

「オハ31」を忠実に再現した5号車の座席は背もたれまで木製。現代のリクライニングとは違って“まっすぐ”である。
「車両を製作した時、『本当に木材で大丈夫なのか』という議論もありましたが、津和野まで約2時間10分の旅ですので、その間であれば木の背ずりでも大丈夫じゃないかっていうことで」

野川キャスターが実際に座ってみると…
「あ、背筋が伸びますね。“コン”という木の感触はありますけど、固めの座席と相まって非常に体が揺れにくいというか安定感があります」

木製の座席に座り、「背筋が伸びる」と野川キャスター
木製の座席に座り、「背筋が伸びる」と野川キャスター

そして2号車から4号車は、「オハ31」よりも少し新しい「オハ35」をイメージして製作された。特徴的なのは丸い屋根と、鮮明な青色の座席。5号車とは異なり、背もたれにも青いビロード状の布が張られている。
「レトロなのに“コンセント”があって、快適に過ごせるように配慮されていますね」

レトロな雰囲気を損なわないための工夫もある。
「車内をパッと見てもらうと、音の出るスピーカーが見当たらないと思います。前例がないのですが、実はスピーカーを天井の灯部に埋め混んでいます」
「照明の中にスピーカーが内蔵されているとはわからないですね」

右はJR西日本下関総合車両所・新山口支所の森川泰登さん
右はJR西日本下関総合車両所・新山口支所の森川泰登さん

ぜいたくすぎる…展望室付きグリーン車

最後は1号車、なかなかチケットが取れないグリーン車だ。
「ほほほほほ。いや、すごい空間ですね」

グリーン車の扉が開くと、高貴な「えんじ色」が目に飛び込んできた。真っ白なリネンも取り付けられ、清潔感と高級感が漂っている。
「今まで見た車両と明らかに雰囲気が違いますね。特別な空間に来たんだぞっていう」

チケット入手困難なグリーン車
チケット入手困難なグリーン車

モデルとなったのは「マイテ49形客車」。1938年に製造された展望デッキのある1等展望車で、特急富士・つばめなどに使われた。

「現代の基準でグリーン車相当の座席にするにはどうしようって考えた時に、金沢の方で走っているサンダーバードなどのグリーン車の座席を旧型客車ふうに作り替えまして」
「だから一席一席の幅やひじかけに充分な広さがあるんですね。折りたたみのテーブルがない分、足元の空間も広い。私の足は短いですから、伸ばしても前の座席に届かないぐらいの広さですよ」と野川キャスター。

空間をぜいたくに使ったグリーン車。チケットを獲得するのは至難の技だと森川さんは言う。
「グリーン車からまずチケットがはけてしまうので、本当に早いもの勝ちといいますか、なかなか取ることができない」
実際、野川キャスターがチケットを予約しようと検索した時点でグリーン車はすでに完売だった。驚くべき人気ぶりである。

そして、列車の最後尾にはグリーン車の乗客のみが使える展望室が!
「はっはっは。これはぜいたくすぎますね」
思わず笑いが出る野川キャスター。窓の景色を眺めるため、椅子がゆったりと置かれている。

グリーン車の乗客のみが使える展望室
グリーン車の乗客のみが使える展望室

その椅子に腰を下ろすと、ふわっと体が沈みこんだ。
「これ、寝ちゃうやつですね」
「展望室は自由に座れるスペースなので長居されるお客様が多いと伺っています。なるべく譲り合って使ってもらいたい場所です」
「椅子がいいですね」
「そうですね。昔のSLは一番後ろにVIPな方が乗られる編成でした。それを行きだけではありますが、再現しています」

こだわりは、天井の空調吹き出し口がアールデコ調のデザインになっているところからも感じられる。
「マイテ49でイロハのイですから、正真正銘の一等車を再現されているわけですね」

ついに運行再開!沿線は歓迎の嵐

さらに、展望室からデッキに出ることができる。
「あらー。これは、まあ…すごい」

レトロ客車の展望室を出るとデッキが!
レトロ客車の展望室を出るとデッキが!

停車した状態だが、デッキに出ると爽やかな風が吹き抜けた。
「列車の一番後ろで風を受けながら、緑豊かな山間を津和野に向かうのですね」
「そうですね。新山口駅を出る際は、デッキに出て手を振るお客様が非常に多いです」
「特別な感じがありますね。出発する時にここから手を振れたら、なんとすばらしいことでしょう」

その翌日、SLやまぐち号は復活を遂げた。全245席は満席。多くの人に見送られ島根県の津和野駅へと走り始めた。

「いってらっしゃーい!」

沿線は、復活を待ちわびていたSLファンや住民による歓迎の嵐。晴れて2年ぶりの運行再開となった。

全国でも数少ない、SLが走る路線として知られる山口線。ファンや地域の人たちに支えられ、SLやまぐち号はまもなく運転開始から45年を迎える。

(テレビ新広島)

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