小泉元首相と山崎氏が一致した「来年は岸田か石破」の真意は

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「小泉さんは『来年は、岸田か石破。この2人のどちらかになるのは間違いないと思う』という言い方をした。私も『そうだな』と申しました」

山崎拓自民党元副総裁は7月29日、盟友である小泉純一郎元首相と共に都内で講演し、2021年9月に任期満了を迎える自民党の総裁選挙についてこのように占った。ポスト安倍レースが本格化する中で、首相経験者である小泉氏と、石原派の最高顧問を務める山崎氏という重鎮2人の発言は注目を浴び、今後の展開にも影響を及ぼしそうだ。

講演の中で山崎氏は、先鋭化する米中関係を“米中新冷戦”と表現した上で「日本外交がこれを防ぐリーダーシップを発揮する時が来ている。だからこそ自民党のリーダーが誰になるかということは、極めて大事だ」と強調した。

では山崎氏は、岸田・石破両氏を比較してどう見ているのか、そしてどちらを本命だと思っているのか。本人を直撃取材し真意を質すと、突っ込んだ本音を聞くことができた。

激動する国際情勢下で求められる「ポスト安倍」の資質

――自民党の岸田政調会長と石破元幹事長は、それぞれタイプが違う

山崎氏:講演で、国際情勢に鑑みて、米中新冷戦を阻止する役割を日本のリーダーが担うべきだと、外交はトップリーダーがやるべきだと話して、首脳外交の重要性について話したつもりですよ。だから、日本の首脳は国際情勢に鑑みて、安全保障の分野に精通した人がいいという意味合いで言ったんです。石破さんは、防衛大臣を2回くらいやっている。岸田さんは外務大臣をやっていますよね。岸田さんは安倍外交の踏襲になるので、その観点を変える意味では石破の方がいいでしょう。

――外交・安全保障に精通した日本のリーダーに必要な資質は

山崎氏:これからの時代は、自主外交を展開できるかが大事なんですよ。日米でも日中でも日本がリードできる立場にあることが大事なんです。米中が新冷戦に突入する直前にあるので、日本が自主的に動かないといけない。

山崎氏のこの発言は、自らが師として仰ぐ中曽根康弘元首相の外交を側近として体感した経験に基づくものだ。山崎氏は当時、官房副長官として「ロン・ヤス」関係ともいわれた中曽根元首相と米国のレーガン元大統領の首脳会談に陪席し、首脳外交の重要性を感じたという。

山崎氏は、岸田氏と石破氏を比べた場合、岸田氏の外相時代の外交は「対米追随でもあったし、安倍追随でもあり、岸田外交という独自のものではなかった」と指摘した。岸田氏は外務大臣を長く務め、防衛大臣も稲田氏の辞任後のピンチヒッターとして1週間だけ経験しているが、山崎氏はその岸田氏よりも石破氏の安全保障観と外交手腕を買っていることを示した形だ。

ちなみに、ポスト安倍候補のなかで唯一、外相・防衛相の両方を一定期間以上経験している河野防衛大臣については、「経歴は遜色ないが、政治家としての熟成が足りない」と述べた。

再浮上の菅氏については「官房長官続ければ次のチャンスはない」

一方で気になるのが、「令和おじさん」としてポスト安倍候補に躍り出て、一時逆風にさらされたものの、ここにきて再浮上しつつあるのが菅官房長官への評価だ。山崎氏に菅長官について聞いてみた。

――月刊誌のインタビューで、安倍首相は菅長官のことを「ポスト安倍の有力な候補者の1人」だと言及したが、菅官房長官が「ポスト安倍」になる可能性は

山崎氏:(菅長官は)安倍さんの女房役でしょう、一蓮托生でしょう。安倍さんと運命共同体ですよ。安倍さんがやめるときは一緒に辞めないといけないですよ。でも菅さんは、ちょっと(当選回数が)若いから、まだ将来の可能性はあるけど、すぐっていうわけにはいかないでしょうし、本人もすぐというのは考えていないでしょう。次の人事で、安倍さんが菅さんを切れば、彼もチャンスが出てきますけどね。官房長官を続ければ、次のチャンスはない、次は。女房役は、夫婦なんですからそういうもんですよ。

このように菅氏は安倍首相と一蓮托生だとして、官房長官を続ければ安倍首相と共に身を引くべきであり次のチャンスはないと指摘する一方、安倍首相と袂を分かった場合や、「次の次」を目指す場合には、総理候補となる可能性に含みをもたせた。

さらに、山崎氏が日本のリーダーになる上で重要視しているのが、総裁選への立候補の回数だ。

山崎氏:総裁選に出ることは好ましいと思いますよ。訓練になりますから。志のない者は総理になれませんからね。小泉さん(小泉元首相)は、3度目の正直で(首相に)なりましたからね。僕も、加藤(紘一元自民党幹事長)も1回ずつしか(総裁)選挙に立っていないんですよ。石破さんは、何回もチャレンジしているんですよ。あれが大事なんですよ。岸田さんは一回も立っていないですよ。そういう意味では岸田さん自身も熟成されていないですよ。総裁選という舞台からするとね。

このように、石破氏を評価し、岸田氏に厳しい見方をとっている山崎氏。自身がこれまで安倍首相の政権運営や政策に批判的な立場をとってきただけに、外交安保や総裁選の経験に関する評価も含め、安倍首相に近い岸田氏や菅氏には厳しく、安倍政権を批判してきた石破氏に高評価を与えているという面も否めない。

「来年の政局は、日本・世界の運命を左右する」

山崎氏は、29日の講演を「来年にくる政局というものは、日本の運命、世界の運命を左右するものであるので、賢明な選択をしないといけない」と結んだ。この言葉について聞いてみた。

―――「賢明な選択」という言葉が意味するものは

山崎氏:未来に生きるものが若者ですから。国の未来を考えて、国の未来によって運命が左右されるのが若い世代ですから。どういう指導者をもてば自分たちはいいかと。今がいいからと、遊んで暮らせればいいというのではだめなんです。未来のことを考えないといけないんです。今回のコロナウイルスで、ある程度未来のことを考えるようになったと思いますよ。それまでは若者は恵まれていましたよ、でも今は、遊びもできない、遊んだらコロナになっちゃうから(笑)。今の若者は、コロナで何も出来ない。だから初めて未来というものを考えるんですよ

そして山崎氏は、自身の考える懸命な選択について「僕は指名権はないけど、最終的に指名するとしたら、石破さんを指名するでしょう。 中曽根さんが(自身の後継として)竹下さんか安倍(晋太郎)さんかを指名するときに、皆は安倍さんになるだろうと思っていたが、私は竹下さんになると思っていたよ」と、思い出まじりに語った。

ただ、石破氏については、自民党内で支持する勢力が少なく、総裁選では議員票で苦戦を強いられるとの見方が大勢だ。石破氏が外交・安全保障に詳しいことは多くが認めるものの、首脳外交の手腕には疑問を抱く声も党内にあり、山崎氏の思い通りには簡単にはいかない情勢だ。

全国的に再拡大している新型コロナウイルス感染症への対応や緊迫化する国際情勢、そして開催判断が迫られている東京五輪と課題が山積している中、安倍首相はどのように政権運営し、解散総選挙についてどう判断するか。そしてその先の時代に日本を牽引するリーダーは「岸田」か「石破」か、それとも違う第三、第四の人物なのか。ポスト安倍を選出する自民党にとっても、世論という形で政局に影響を与える国民にとっても、真に賢明な選択が求められている。

【フジテレビ政治部】

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