農家の高齢化や後継者不足で「耕作放棄地」の増加が全国で課題となっている。広島・尾道市では、耕作放棄地の持ち主と使いたい人の新たなマッチングサービスが始まった。耕作放棄地の現状と解決に向けた取り組みを取材した。

耕作放棄地の増加は鳥獣被害など環境にも影響

尾道市農業委員会 松森智委員:
このあたりと向こう側が耕作放棄地ですね
野川諭生アナウンサー:
青々としている、いま使っているところと、使っていない、その向こう側…あまりに対照的ですよね

奥が耕作放棄地 広島県尾道市
奥が耕作放棄地 広島県尾道市
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尾道市内のある農地は、かつては田んぼとして使われていたが、いまは雑草が生え、荒れ果てた状態だ。

Q.耕作放棄地になってどのくらい?

尾道市農業委員会 松森智委員:
10年以上ですよ…

この地域ではIターンで移住し、古民家と農地を引き継いで新たに就農した家も数軒あるが、それ以上のスピードで高齢化による担い手不足が深刻だという。

そして、過去1年以上栽培せず、数年先までの間に再び作付けする意思がない「耕作放棄地」が増え、周辺の畑や田んぼにも鳥獣害などの影響が及ぶと懸念されている。

Q.地域での支え合いでも、さすがに面積が広すぎる?

尾道市農業委員会 松森智委員:
この地区もだんだん高齢者が増えてきているので、よそまで応援しようというのは、なかなか難しい。自分のところが精いっぱいな状態。特に島の方にいくと、ミカンの山とか畑がものすごく放棄地になっている

耕作放棄地の持ち主と使いたい人をデジタルでマッチング

こうした地域の実情に、尾道市ではデジタル技術を活用したマッチングサービスを導入することを決めた。使うのは社会実装に向けて広島県が支援する「サキガケプロジェクト」で開発が行われてきた「ニナタバ」というシステム。

農地の所有者と作り手や担い手を繋ぐサービスで、事前に登録した土地の状況や持ち主の意向が一目でわかるだけでなく、衛星写真で農地の場所や周辺状況もわかるのが特徴。

尾道市ではこれまで、HP上で農地のマッチングをしてきたが、農地の場所や周辺状況の把握などが難しく、円滑なやりとりができていなかったという。

尾道市・平谷祐宏市長:
農業をやりたいという人も都会から地方に目を向けている方もおられるので、そのニーズに対して即応できるこの「ニナタバ」に大きな期待を寄せている

この新たなマッチングサービスは、衛星写真などデジタル技術の活用で、耕作放棄地の状況を“見える化”し、農地を売りたい人、貸したい人と使いたい人とのスムーズなマッチングが期待され、耕作放棄地対策の一手となるかが注目される。

野川諭生アナウンサー:
2000~2015年のデータを見ると、尾道市の耕作放棄地の面積は増えている。相談に乗っている地域の農業委員、民生委員のような立場の方に話を聞くと、所有者も決して何もせず放置をしているわけではないようだ。

耕作放棄地の有効利用には制度改革も必要

野川諭生アナウンサー:
太陽光発電のパネルを設置できないかと動いてみたものの、農作物をつくることにしか使えないという壁にぶつかるケースもあったという。農地は農地として活用していく。そのためには耕作放棄地になる前に、次の担い手にうまく出会えるかが非常に重要になる。

野川諭生アナウンサー
野川諭生アナウンサー

野川諭生アナウンサー:
農家の方の「米はもう高く売れないし、管理も大変なんだ。田んぼがあるだけで、自分たちの子供には申し訳ないんだ」という言葉が非常に印象に残った。

全国の農地面積は1961年のピーク時から2021年で28%近く減っており、農地のうち耕作放棄地の割合は全国平均で約1割となっている。

農業に新しい人材を呼び込むためにも、耕作放棄地を含めた農地の有効活用が重要で、全国レベルで制度改革も含めた農地の取引の活性化が求められている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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