仙台市に建設された世界最先端の次世代放射光施設「ナノテラス」は、2024年4月1日に稼働を開始。4月9日から、企業などによる施設の利用が始まった。日本への10年間の経済効果は、およそ1兆9000億円とも言われているナノテラスを利用する企業に注目した。

太陽光の10億倍!ナノレベルの最新施設

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ナノテラスは、東北大学青葉山新キャンパスに建設された世界最先端の次世代放射光施設。
小さな「もの」を見るときは明るい光が必要だが、ナノテラスは、光の速さ近くまで電子を加速させることで、太陽光の10億倍明るい「放射光」を生み出し、原子や分子の大きさナノレベルの観察を行うことができる。
ナノテラスは、一般的なX線よりも波長が長い「軟X線」と呼ばれる光を発生させることを得意とし、その性能は世界トップクラスである。
この軟X線は、物質を構成する元素の種類や、物質の表面を詳細に調べたり、物質の性質が変化する様子を可視化したりするなどの用途に適している。その技術にとって、これまで見られなかった物質の構造などを解明することで、食品や材料の開発、病気の原因解明などの分野への活用が期待されている
なお、兵庫県にある放射光施設SPring-8は「硬X線」と呼ばれる波長が短い光を発生させるのが得意で、物質の内部を調べるのに適している。

産業界と学術界が融合する世界初の取り組み

ナノテラスで研究を行うには、「共用利用」と「コアリション利用」の2つの方法がある。
「共用利用」は、課題に対する審査を経て利用できる形で、実費以外の利用料金は不要だが、研究成果を原則として公開することが求められる。
これに対して、4月9日から利用が始まった「コアリション利用」は、1口5000万円の加入金と利用料金が必要だが、課題審査はなく、施設を年200時間まで使うことができ、
研究成果をすべて独占することができる。
調べたい研究材料に合った光の波長などを調整できたり、原則1か月前から予約可能なことから、確度の高い研究を短期間で行うことができ、迅速に成果を生み出すことに繋がるという。
現在は、この「コアリション」のみの利用が可能で、大企業や中小企業などおよそ150社をはじめ、大学などの10を超える研究機関も使用を申請しており、産業界と学術界が融合した新たな研究開発のスタイルは、世界初の取り組みとなる。

「専門知識なくても」最新技術へのアクセス容易に

利用開始となった9日、4つの企業が、東北大学の教授などからサポートを受けながら実験を開始したことや、研究内容について報道陣に説明を行った。そのうちの1社、金属やセラミックなどの材質の研磨を手がける企業は、早速、9日午前中に利用をスタート。実験によって、製造改良に繋がるヒントが得られたと言う。

株式会社ティ・ディ・シー 赤羽優子代表取締役社長
株式会社ティ・ディ・シー 赤羽優子代表取締役社長

「ナノレベルで金属の表面が酸化している様子を確認することができた。今後、錆びやすさや研磨のしやすさに関係してくるので、新しい加工手法であるとか、逆に表面を保護する方法などにつながっていくのではと期待している。仙台市や宮城県、東北経済連合会などが色々なサポートをしてくださるので、自分たちに専門知識が無くてもこういう所にアクセスするハードルが下がっているなと感じている。」(株式会社ティ・ディ・シー赤羽優子代表取締役社長)

後編では、ナノテラスの利用を予定している県内の企業に、その期待感を聞く。担当者は、ナノテラスで、おいしさの「可視化」、つまり見えるようにすることで「あるもの」をよりおいしく進化させようと考えている。
(仙台放送)
 

仙台放送
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