身振り、手振りで相手にメッセージを伝えるジェスチャー。実は鳥も行うようだ。
小型の野生の鳥「シジュウカラ」は、翼をパタパタとさせる動きで、「お先にどうぞ!」という特定のメッセージを伝え、つがい相手に巣箱(巣穴)に先に入るよう促している。
こんなコミュニケーションをしていることが、東京大学先端科学技術研究センターの鈴木俊貴准教授と杉田典正特任研究員の研究グループによって明らかになった。

これまでジェスチャーを使ったコミュニケーションは人間や類人猿などごく限られた動物でしか見つかっておらず、鳥が翼でジェスチャーすることは世界初の発見になるという。
翼をふるわせるのはほとんどがメス
そもそもシジュウカラは、頭は黒く頬は白く、胸は黒のネクタイ模様の小型の野鳥。北海道から沖縄まで日本全国に分布する。研究グループは、2023年の5月~6月に、長野県北佐久郡の森に巣箱を仕掛け、この巣箱を利用して繁殖したシジュウカラのつがい8組を対象に観察した。

オス・メス2羽が同時に巣箱の近くに餌をくわえてやって来た際、そのうち1羽が翼を小刻みに前後にふるわせると、もう1羽が先に巣箱に入ることがわかった。
単独で巣箱の近くにやってきた時は、オスもメスも翼をふるわせなかったという。つがいの2羽が同時に巣箱に戻る際、メスは57回中24回、オスは33回中2回翼をふるわせ、翼をふるわせるのはほとんどがメスだった。

また、メスが翼をふるわせた場合、どちらが先に巣箱に入るか調べたところ、24回中23回はオスが先に巣箱に入った。一方、メスが翼をふるわせない場合は、33回中32回はメスが先に巣箱に入ったという。

鳥もジェスチャーを行うとは驚きだ。では、なぜシジュウカラのジェスチャーに気付いたのか?研究グループの一人である東京大学先端科学技術研究センターの鈴木准教授に詳しく話を聞いてみた。
2005年から野鳥のコミュニケーションを研究
――この研究を始めたきっかけは?
2005年からシジュウカラを中心に野鳥のコミュニケーションについて研究をしてきました。その中で、シジュウカラは鳴き声を用いて天敵の種類を示したり、異なる鳴き声を組み合わせて文を作ったりすることができることなど、明らかにしてきました。その研究の中で、シジュウカラも翼の動きを使ってジェスチャーをしていることに気がつきました。そして2023年の春、「そろそろこの研究も本腰入れてやろうかな」と思い立ったわけです。
――鳥のジェスチャーに関する研究というのは、これまであった?
鳥が翼でジェスチャーをすることがわかったのは、今回が世界で初めてです。ちなみに、ワタリガラスというカラスの仲間が、木の枝を咥えると、周りのカラスがその木の枝を見るという現象は知られていて、それを指差しジェスチャーの起源と解釈している論文はあります。
しかし、シジュウカラのようにある翼の動きがあるメッセージ(お先にどうぞ、など)を伝えていることがわかったのは今回がはじめてです。
――なぜジェスチャーに気づいた?
長いこと観察していたら、シジュウカラの思考がわかるようになって、当たり前のように気がつきました。この領域に達するまでには15年くらいかかったと思います。
春から夏に一夫一妻でつがいに
――今回の研究の結果をどう思う?
かなりクリアに結果が出たと思っています。シジュウカラが翼をパタパタ(お先にどうぞ)した場合、96%の確率でそれをみたシジュウカラが先に巣箱に入ることがわかりました。
――シジュウカラはつがいで行動するのが多い鳥なの?
春から夏の繁殖シーズンは、一夫一妻でつがいになります。秋から冬にかけては数羽〜10羽ほどの群れをつくって生活します。

――ジェスチャーをするのはつがいの相手だけ?
今の所、翼をパタパタさせて「お先にどうぞ」と伝えるのはつがい相手に対してのみ確認されています。
鳴き声で天敵の種類を示すこともできる
――鳴き声でもコミュニケーションはとる?
とっています。僕のこれまでの研究で、シジュウカラは鳴き声を用いて天敵の種類を示したり、異なる鳴き声を組み合わせて文を作ったりすることができることなどが明らかになっています。
――「お先にどうぞ」以外のジェスチャーをしている可能性もある?
あると思います。今後調べていきたいと考えています。
――この先、どんな研究をしていく予定なの?
人間の場合、ジェスチャーと音声言語を組み合わせて意思疎通をすることもあります。シジュウカラの場合も、ジェスチャーと鳴き声を組み合わせて意味を伝えることがあるのかなど、調べていきたいと思います。
研究者のシジュウカラの思考がわかるようになったというコメントには、シジュウカラへの愛を感じる。これからも研究を進めてさらに解明していただきたい。