物流の停滞が懸念される「2024年問題」。多くの課題を抱えたまま4月を迎え、時間外労働の上限規制が適用された。このままでは輸送力が2030年度に34%不足するとの指摘も…。問題解決のため最前線で動く“トラックGメン”に密着した。

ドライバーの不満・不安を突撃調査

広島県内某所の路肩に止まるトラックに、中国運輸局のジャンパーを着た2人が近づいていく。

トラックGメン:
お休み中にすみません。お困りのことがあれば、こちらで働きかけや情報収集を行っていますので

彼らは2023年7月に国交省職員の中から選抜された「トラックGメン」。中国運輸局管内では13人が活動する専従班だ。

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トラックドライバー:
2024年問題?

トラックGメン:
はい、2024年問題で活動させてもらっています。今、荷待ち中ですか?

停車中のトラックをまわる中国運輸局のトラックGメン
停車中のトラックをまわる中国運輸局のトラックGメン

“荷待ち”とは荷物の積み下ろしのために待たされる時間のこと。荷主の都合で長時間に及ぶこともあり、トラックGメンは目を光らせている。

トラックGメン:
結構、待っていますか?

トラックドライバー:
しょうがないのわかっとるけぇ。ここらはまだええんよ。中心部は待つところないんじゃけぇ。どうせ活動するなら中心部でもやって。企業も駐車場をつくるとか、何時に来てというなら時間通りにしてほしい

手渡されたチラシを見ながら、荷待ちの実態を話すトラックドライバー
手渡されたチラシを見ながら、荷待ちの実態を話すトラックドライバー

トラックGメンが立ち向かう2024年問題。4月からトラックドライバーの残業時間が制限されたことで物流への影響が懸念されている。荷物が増える一方、ドライバーは若年を中心に減っていて、このままではトラックがあっても運べない状況に…。担い手の確保に必要なことは“働く環境の改善”だ。

トラックドライバー:
やっぱり時間が長い。朝6時~夜7時とか。荷待ち時間も仕事みたいなもんじゃけぇ

トラックGメン:
荷待ち時間が少しでも短縮されればいいなと?

トラックドライバー:
そうですね。あと運賃が全然上がらないので給料も上がらない。会社は運賃を改善していけば給料を出せると言うが、全く改善の動きがないので不安ですね

トラックGメンの問いかけに、多くのドライバーが不満や不安を口にした。

トラックGメン(中国運輸局貨物課)・山根修 主査:
荷待ちの間は体が休まらないので、少しでも荷待ちが短くなってドライバーの労働条件改善につながればいいなと思っています

運賃交渉に苦悩する業界の実態

トラックドライバーに時間外労働の上限規制が適用されたことで、働く時間が短くなり「手取りが減る」といった不安の声もある。賃金の引き上げなど待遇改善が解決の糸口となるが、現状は「配送=サービス」という認識が当たり前に…。
世間のそうしたとらえ方に運送業界の現場も困惑している。広島・廿日市市に本社を置く「今井運送」に話を聞いた。

今井運送・今井廣志 常務:
率直に“温度差”があります。2024年問題に対して真剣に取り組んでいただける企業、世間の様子を見ながら他社がやったのでうちもそういう方向性にしようかなという企業、2024年問題は運送会社が考えるテーマだという企業。大きくこの3つに分けられますね

今井運送の長距離トラックドライバーは、月曜日の朝に広島を出発して金曜日の夕方もしくは土曜日の朝に帰ってくる運行形態がメインだという。鉄鋼や建築資材など全国各地にあらゆる荷物を運んでいるが、関東方面を例にすると荷物が届くまでに「これまでの2倍以上時間がかかるケースが増える」と懸念している。

一方で、今井運送は2024年問題について独自にセミナーを開いて理解を求め、運賃交渉しやすい環境をつくる努力をしてきた。

今井運送・今井廣志 常務:
価格交渉は根気強くやっていくしかありません。国が定めている標準的な運賃は「これぐらいの運賃がないと雇用するにも流通するにも滞ってしまいますよ」という一つのアナウンスだと思っています。そこを皆さんにご理解いただいて展開していきたい。同時に、標準運賃を下回る企業を取り締まることもしていかないと、この問題はいつまでも解決しないと思います

荷主の視点「僕らは逆に弱い立場」

問題解決のカギを握るもう一方は「荷主」だ。トラックGメンは適正運賃収受などを実現するため、荷主が運賃・燃料サーチャージの価格交渉に応じない「不当な据え置き」や、契約にない手作業での積み込み・検品の強要など付帯業務の「違反原因行為」を行っている疑いがある場合、改善への働きかけや最悪の場合には勧告・公表を行うとしている。

この日、トラックGメンが向かった先は県内の工業団地や物流センターが集積しているエリア。商品の配送をトラックに頼る「荷主」の企業へアポなしで訪問する。

(Q:訪問先は決めている?)
トラックGメン(中国運輸局貨物課)・山根修 主査:
いいえ、見ながらですね

労働時間が長いわりに賃金が伸び悩むトラック業界は、これまで荷主側のコスト削減の“しわ寄せ”を受けてきた。賃金引き上げのための適正運賃に向けた議論が急務となっている。そのためトラックGメンは荷主の事務所などをパトロールし、制度の説明とともに社内の様子を確認。価格交渉にきちんと対応するよう呼びかけている。

トラックGメン(中国運輸局貨物課)・山根修 主査:
最近、燃料費の高騰や物価上昇などで、運賃表自体を平均8%値上げします

高村興行所(荷主)・高村隆晴 社長:
これは運送会社が私どもに提示される場合のたたき台と思っていいですか?そこから先は話し合いでいい?

トラックGメン(中国運輸局貨物課)・山根修 主査:
トラック業界は多重下請け構造になっていて、荷主が預けたトラック事業者の下に別のトラック事業者が…。下にいくほど運賃が少なくなっていく構造があります。実際に運ぶ運送事業者に適正な運賃がまわるように、下請け手数料を元の荷主が負担してください

荷主へ運賃表を見せるトラックGメンの山根さん(左)
荷主へ運賃表を見せるトラックGメンの山根さん(左)

荷主が軽い気持ちで言った一言でも違反行為につながるケースもあるため、周知を徹底する。
しかし、荷主からはこんな声も…

高村興行所(荷主)・高村隆晴 社長:
2024年問題について報道でも見ますが、僕らは逆に弱い立場でお願いするしかないんですよ。荷主が強いとは全く感じたことがなくて、お願いする立場です。世の中のニュアンスとはちょっと違うのではないかなと。外注するから強いということはなくて、むしろ「運送していただく」みたいな話でないと、このレベルの町工場では無理なんですよね

最も重要なのは配達を依頼する荷主側、実際にモノを運ぶ運送側、そして消費者が協力すること。物流を滞らせないための環境整備が社会全体に求められている。

トラックGメン(中国運輸局貨物課)・山根修 主査:
一般消費者の消費行動は物流に深く関わっているので、再配達の軽減にご協力いただきたい。インターネットなどで「送料無料」の表記がありますが、実際は配送コストがかかっているということを認識してほしいと思います

物流を支える自動車整備士も不足

一方、裏で物流を支える人材の不足も深刻だ。物流の「もう一つの問題」を取材した。

自動車整備士:
人の命を預かっていると感じています。車両火災のニュースも目にしますし、そういうことがないように気を張り詰めながら日々整備しています

こう話すのは民間の自動車整備会社に勤務する自動車整備士。トラックの整備は物流を支え、ドライバーや歩行者の安全を守る大切な仕事である。その役割を担う自動車整備士が、年々減少している。

自動車整備士:
もう新卒が入ってくるイメージはないです。高校生や専門学校生は入ってきません

国土交通省と厚生労働省の調べでは、自動車整備士の数は2021年度、全国で約33万4,000人。2012年度の約34万6,000人と比べると10年間で1万2,000人ほど減少している。一方で、国内の二輪車などを含む自動車の保有台数は10年間で約300万台増えている。

また、自動車整備職種の有効求人倍率は全国平均で2017年度に2.9倍だったが、2021年度には4.55倍に急増。特に広島県は7.43倍と全国4番目に高い倍率を記録している。

自動車整備士:
人が入るのは2年か3年に1回。毎年新しい人が入ってくることはない

高齢化と低賃金…負のスパイラル

車の増加に対し、減少する自動車整備士。この現状は“物流の安全”にも影響を与えかねない。

自動車整備士:
運送会社に相談して、整備の日にちをもらったりしながら何とかやっている状況ですね。50代や60代の整備士が多くて作業のスピードも遅くなるので、日数がないと難しい

運送業界と整備業界。それぞれの慢性的な人材不足は、互いに負担を大きくしている。

自動車整備士:
危ないなと感じます。エンジン異常のチェックランプがついている車に対しても1日で終わらせてくれとか、時間をかけないといけないところにかけられていない。時間に追われることが増えてきています

物流を支える運送業界と整備業界は、長い慣習の中で賃金や環境整備の問題が置き去りにされてきた。

自動車整備士:
整備士は国家資格なので、もう少し給料が上がったら若い子も増えてくると思います。そうなれば人手不足もなくなって安全な物流を支えていけるのではないかと思います

配送はサービスなのか…。「送料無料」の表記にあふれ、指定日時に届くのが当たり前というイメージが根付いてしまっている現代。物流改革の一環でまず取り組まないといけないのは「配送料がかかる」ことへの理解であろう。

(テレビ新広島)

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