劣勢挽回なるか、再選のカギ握る中国叩き

大統領選まで100日を切った。

アメリカでは11月の大統領選まで残りちょうど100日となった7月26日に、大手メディア各社が特別番組を組んで選挙分析を行った。その多くが明日選挙があるなら、野党民主党の候補・バイデン前副大統領が勝利すると予測する一方で、最終的な勝敗の行方には慎重な見方を示した。なぜなら9月から10月にかけて3回にわたり、候補者同士の直接対決となるテレビ討論が予定されていて、ここで情勢ががらりと変わる可能性もあるからだ。

ABCテレビより
ABCテレビより
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在ヒューストン中国総領事館の閉鎖など中国との対決姿勢を先鋭化させるトランプ大統領だが、今後100日の選挙戦の間に、中国カードをどう使おうとしているのか。

トランプ大統領の再選戦略で重要なカギを握る、中国との関係に焦点を当てたい。

トランプ大統領(左)とバイデン前副大統領(右)
トランプ大統領(左)とバイデン前副大統領(右)

まず、トランプ大統領と対抗馬の民主党のバイデン氏の支持率を見てみよう。トランプ大統領は全国支持率の平均で9ポイント差とバイデン氏に大きくリードされている。トランプ大統領の支持率が下がっている最大の原因は、新型コロナウイルスへの対応に対する国民の不満だ。一方のバイデン氏は発言を最小限に控え、敵失を伺う「ステルス作戦」が功を奏し支持を伸ばしている。新型コロナウイルス対応での失策や、経済低迷が続き、支持率挽回の決め手が見えない中、トランプ政権が鮮明にしたのが対中強硬姿勢だ。

トランプ政権は7月21日、テキサス州ヒューストンにある中国総領事館がアメリカ企業から知的財産などを盗み出す、スパイ拠点になっていたとして中国側に閉鎖を求めた。さらに、2日後の23日には、ポンペオ国務長官がカリフォルニア州で中国の習近平国家主席を名指しで批判した。「習近平国家主席は破綻した全体主義の信奉者だ。中国共産主義に基づく世界覇権を取ろうとしている」「もう中国を普通の国として扱うべきではない」

これまで中国共産党を批判することはあったが、国のトップを名指しで批判しただけで無く「破綻した全体主義の信奉者」とまで言い切ったのは極めて異例だ。いわば、アメリカが中国と決別し、「新冷戦」に突入したことを内外に示すものだった。

ニクソン大統領の名前を冠した図書館でスピーチするポンペオ国務長官
ニクソン大統領の名前を冠した図書館でスピーチするポンペオ国務長官

ポンペオ氏がスピーチを行った場所はアメリカ大統領として初めて中国を訪問し、米中国交正常化の道筋をつけたニクソン大統領の名前を冠した図書館の敷地だった。つまり、アメリカの対中外交の原点ともいえる場所で、対中政策の根本的な見直しを宣言したのだ。まさに米中関係のターニングポイントとなるスピーチだったと言える。

さらに、トランプ政権の重要閣僚たちが大統領選でカギを握る重要州を巡り、相次いで中国に強硬メッセージを発信している。

7月16日ペンシルベニア州 ポンペオ国務長官
「中国の新疆ウイグル自治区で“世紀の汚点”ともいうべき少数民族の弾圧に関与した中国の高官を制裁対象にした」

7月17日ミシガン州 バー司法長官
「アメリカの大学や研究所が新型コロナウイルスのワクチンに関連情報を盗み出そうとする中国当局のハッキング対象となった」

7月17日ウィスコンシン州 ペンス副大統領
「トランプ大統領はアメリカの雇用を守るために中国に立ち向かったのだ!」

トランプ政権の重要閣僚は茶色で示された激戦州「スイングステート」で中国批判の演説を行った
トランプ政権の重要閣僚は茶色で示された激戦州「スイングステート」で中国批判の演説を行った

これらの演説の場所は、いずれもトランプ大統領の再選の鍵を握る重要州ばかりだということに注目して欲しい。このことからもトランプ政権の中国批判が、大統領選挙を多分に意識し、トランプ再選戦略の中核に位置付けられていることがわかる。

トランプ大統領にとって起死回生につながるのか?

トランプ政権の中国批判はトランプ再選戦略の中核に位置付けられている
トランプ政権の中国批判はトランプ再選戦略の中核に位置付けられている

対中強硬姿勢は、トランプ大統領の支持層に受けが良い。トランプ大統領の岩盤支持層の一つである福音派などの宗教保守派勢力は、宗教の自由を弾圧する中国共産党に対してもともと強い反感を持っている。しかし、人種差別反対デモへのトランプ大統領の対応により、福音派の有権者にトランプ離れが生じた。

トランプ大統領がデモ隊を強制排除して教会の前で聖書をもって写真撮影し、宗教を政治利用しているとの批判を浴びたのが原因だ。福音派の支持者をつなぎ止めるため、対中強硬姿勢に一層、拍車がかかっている可能性がある。

また、中国批判はバイデン氏攻撃としても有効だ。トランプ大統領は、しばしばオバマ政権時代に中国に厳しく対処せず、増長させた人間こそ「バイデン氏」と主張している。

トランプ陣営は選挙キャンペーンで、「新型コロナウイルスの感染拡大の責任は中国にある」とした上で、「バイデン氏は中国に追随している。トランプ大統領のように中国に立ち向かうことは今後もできない。」と中国とバイデンしをセットで批判している。

トランプ陣営のHPより
トランプ陣営のHPより

トランプ陣営は中国との対立構図を際立たせることで「支持層のつなぎ止め」と、「対抗馬、バイデン氏のイメージダウン」の一挙両得を達成しようと考えている。今後は11月の大統領選に向け、一段と対中強硬姿勢を強めていくと予想される。

一方で、エスパー国防長官が「危機下での意思疎通の仕組みを確立するために年内の訪中を望んでいる」と発言するなど、中国との大規模な軍事衝突は避けたいのが本音だアクセルとブレーキを使い分けギリギリの線でバランスをとりながら再選をめざすトランプ大統領の再選戦略は、一色触発の事態を招きかねない危険な賭けとなりそうだ。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。