自分にそっくりなクローンが代わりに働いてくれる。遠い先の未来のようにも思えるが、すでに社員全員が自分の“デジタルクローン”に一部の仕事を任せている会社がある。それがベンチャー企業の株式会社オルツだ。
オルツが開発したのは、人間の外見や性格、声などをデジタルデータとして再現し、仮想空間やデジタルデバイス上で活動させることができる、P.A.I(R)と呼ばれるパーソナル人工知能のデジタルクローンだ。なお、同社ではデジタルクローンをつくり出すことで、人の非生産的労働からの解放することを目指している。
これによって、自分の代わりに一部の業務をAIに任せることができ、時間の節約や仕事の効率化を図ることができるとのこと。他にも、特定の専門知識を持つ人物のデジタルクローンを作成すれば、教育やトレーニングのために活用することもできるという。
現在、約100人が勤務するオルツでは、社員一人ひとりのクローンを生成・活用し、日々の業務や情報共有をAIに代替させる取り組みを行っている。個々のクローンには、商談や社内会議の内容、日々のコミュニケーション情報をはじめ、業務で使用しているメールなど各種データと連携し、さらに趣味や嗜好も学習させて、本人の思考を再現できるレベルに到達するよう日々学習を行わせている。
このデジタルクローンを使うことで、社員本人が休暇を取得した場合でも、他の社員からの質問に受け答えをしたり、社員本人に代わって業務を行うことができる。また、このデジタルクローンの活動量に応じて、社員本人に給与を追加支給する給与システムまで導入されているという。
では、これからデジタルクローンでどんなことができるようになるのか? オルツ広報の西澤美紗子さんに詳しく話を聞いてみた。
故人との会話の再現も可能に
――例えば、西澤さんはどのようにデジタルクローンを利用している?
一番役立っている使い方の例ですが、私は広報をメインで担当しておりまして、当社のプレスリリースの原稿も私が作成しています。一から自分で文章を考えて書くのは大変なので、当社のプレスリリースの原稿を、まず私のクローンに書かせています。最初の頃はあまり上手ではなかったですが、最近では、かなり良い原稿を書けるようになってきており、私のクローンですので、私らしい表現をしてきたり、当社の情報を元々学習しているので、かなり役立っています。ただ、伝えたいポイントや表現、構成はまだまだなので、クローンがドラフトした文章を私(本人)が校正しています。
――西澤さんのデジタルクローンはどれくらいの情報を覚えさせているの?
私のクローンは、だいたい100くらいです。もっと学習させたいのですが、日々忙しく、なかなか時間が割けないのですが、メール、カレンダー、Slack、SNS、動画、など、常に私の情報は自動で学習されているので、日々賢くなってきてはいます。
――オルツの社員は、全員デジタルクローンを使っている?
はい、当社メンバー全員がデジタルクローンを持っています。本人の顔や声、表情を映像で表現できるCLONEdevのようなクローンは、現在、当社代表の米倉のみが持っている状況ですが、テキストベースのAIクローンは、社員全員が持っており、社内コミュニケーションの中でAIクローンも活躍しています。
※CLONEdev…人工意識を生成する「CLONE MODERING ENGINE」を通して、利用者の人格をデジタル上に再現する世界初のシステム
――他にデジタルクローンでどんなことができる?
以下のようなことが可能になります。
エンターテインメント
著名人やキャラクターのデジタルクローンを作成し、映画やゲーム、バーチャルイベントなどで活用することができます。これにより、新たなエンターテインメントの形が生まれます。
故人との会話の再現
故人のデジタルクローンを作成し、遺族が故人との会話を楽しめるサービスを提供することで、人々の心の支えとなることを目指しています。
個人の記録としての活用
自分自身のデジタルクローンを作成し、自己理解を深めたり、将来の家族に自分の記録を残したりすることができます。
プライバシーや依存性などのデメリットも
――オルツのデジタルクローンを利用している企業はどのくらいある?
実証実験と開発段階の企業様が数社おりますが、まだ発表をしていないので、明確な数字はお答えできません。
――デジタルクローンのデメリットは?
オルツでは、以下のデメリットや懸念点に対して、適切な対策を講じることで、デジタルクローン技術の安全性と倫理性を確保し、人々の生活や仕事を豊かにすることを目指しています。
プライバシーや倫理的な問題
デジタルクローンを作成するためには、個人の詳細な情報やデータが必要になります。これらの情報が適切に管理されない場合、プライバシーの侵害につながる可能性があります。故人のデジタルクローンを作成する場合、故人の遺志の感情を尊重する必要があります。また、デジタルクローンが本人に代わって行動することにより、本人の意志と異なる行動を取る可能性もあり、倫理的な問題が生じることがあります。
人間関係の希薄化
デジタルクローンとの対話や交流が増えることで、実際の人間関係が希薄化する可能性があります。特に、対人スキルの発達に影響を与える可能性が懸念されます。
依存性
デジタルクローンとの交流に過度に依存することで、現実世界での活動や人間関係がおろそかになる可能性があります。
セキュリティの問題
デジタルクローンのデータが不正アクセスやハッキングの対象となる可能性があります。これにより、個人情報の漏洩や不正利用のリスクが生じます。オルツでは、これらのデメリットや懸念点に対して、適切な対策を講じることで、デジタルクローン技術の安全性と倫理性を確保し、人々の生活や仕事を豊かにすることを目指しています。
――デジタルクローンがさらに進化すると、将来的にはどんなことができる?
教育やトレーニングの革新
デジタルクローンを活用して、特定のスキルや知識を持つ人物のクローンを作成し、それを教育やトレーニングに利用することができるようになります。これにより、より実践的で効果的な学習が可能になるでしょう。
医療分野での応用
患者のデジタルクローンを作成し、病気の診断や治療法のシミュレーションに利用することができるようになるかもしれません。これにより、より個別化された医療サービスの提供が可能になります。
社会システムへの統合
デジタルクローン技術が社会システムに統合されることで、政府や企業が提供するサービスがよりパーソナライズされ、利用者に合わせた形で提供されるようになるかもしれません。
人間とAIが補完しあう関係を築く
――AIが人の仕事を奪うとよく言われるが、この点についてどう思う?
AIが人の仕事を奪うという話題については、さまざまな意見がありますが、私はこの変化をチャンスと捉えるべきだと思います。確かに、AIや自動化技術の進化により、従来の人間が行っていた作業がAIに置き換わっていくでしょう。しかし、それは同時に新たな仕事や役割を生み出す機会でもあります。AIで繰り返しやルーチンワークを自動化することで、人間がより創造的で価値の高い仕事に集中できるようにします。
例えば、データ分析や予測、顧客サービスの向上など、AIを活用することで、より高度なサービスや製品の開発が可能になります。また、AIの導入により、新たな技術や知識を学ぶ必要が生じるため、教育や研修の分野でも新しい職業が生まれるでしょう。さらに、AIは人間にはできない作業や、危険な環境での作業を代行することができます。これにより、人間の安全を守りながら、より効率的に作業を進めることができるようになります。
――人はAIとどう付き合っていくのがいいの?
重要なのは、AIや自動化技術の進化に伴い、社会や経済の構造が変化することを受け入れ、その変化に適応するためのスキルや知識を身につけることです。政府や企業、教育機関が連携して、人々が新しい技術に対応できるような教育プログラムや研修を提供することが重要です。最終的には、AIの進化は人間とAIが共存し、互いに補完しあう関係を築くことで、より豊かで効率的な社会を実現する機会を提供してくれると考えています。
当社もまさに同じ目的のためにデジタルクローンや、P.A.I.(R)(パーソナル人工知能)の研究開発を続けておりデジタルクローンと人間の共存により、人々がより豊かな生活を送ることができる世界の実現を目指しています。
デジタルクローンにはメリット、デメリットがあるわけだが、担当者が話すように、将来的には人間とAIが共存して補完し合う関係を築くこと大事なのかもしれない。