山形・庄内町にある、90年の歴史をもつ“糀屋”を継ぐために奮闘していた夫婦が、2024年1月、無事に事業承継を終えた。糀(こうじ)の世界に「新たな風」を吹かせようと、新しいチャレンジも考えているようだ。

初めての食品製造に試行錯誤

庄内町に住む國本美鈴さんは、マーケティング会社に勤務するかたわら、農業法人で働く夫の琢也さんとともに、町内の歴史ある糀屋を2024年1月に事業承継した。

國本美鈴さん:
辞めるにはもったいないと思っているという話をいただいて、伝統も絶やしたくない

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無事、店の引き継ぎが完了した2024年1月、國本さんは新たな取り組みに向けて動き出していた。それがパッケージの変更だ。

「現在の袋はクラシカルで、デザイン性には欠けるので…」と話す國本さん、若い人も注目するようになった“糀”に、もっと目を引かせたいと、新しいものにしようと考えていた。

しかし、袋の素材1つ変えるだけでも大変。袋を新しい素材にすると密閉作業がうまくいかず、不格好な仕上がりに…。

國本美鈴さん:
これでカッコよくやるの厳しいな…。これじゃちょっと微妙だしな。みんなどうやってあんなにきれいにできるんだろ。これでできるものなの?

承継元の佐藤元さんが、これまで使ってきた袋の素材や工夫を國本さんに伝えた。

袋に穴が開いているのは、温度差で発生する水分を抜くため。温かいと水蒸気によって中に水分が出てカビが生えてしまう。そのため、要冷蔵になっているのだという。

初めての食品製造。ノウハウを生かしながら、日持ちや見栄えに加え、使い勝手の面でも良いものを目指そうと模索していた。

そして、看板となるロゴマークにもこだわる。

糀づくりに使う“ソネ”と呼ばれる糀蓋を枠としてあしらい、鮮やかに目を引く桜のロゴ。
商品名も「“和風ピクルスの素”みたいな、そういう方がわかりやすいかな」などと、夫婦でいろいろと考えをめぐらせていた。

國本美鈴さん:
今この瞬間でパッとは出てこないんだけど、でも急いで作らなきゃいけない

春からの新パッケージでの販売開始に向けて、ロゴの発注に印刷など、本業と両立しながらの作業はあらためて大変だ。1~2週間以内にデザインを決めないと印刷に入れないため、焦っていると國本さんは話す。

強みは人とのつながり…販路拡大も

國本さんはここまで、承継元の佐藤さん夫妻に教えてもらいながら1年以上修行して、糀づくりを学んできた。

しかし、承継を終えた今、いつまでも佐藤さんの作業場を借り続けるわけにはいかないと、年内に自分たちの糀室を構えようと考えていた。町内の大工や建具屋・電気屋を呼んで、入念に打ち合わせをする。

國本さんは、結婚を機に埼玉から庄内町に移住したあと、町の地域おこし協力隊員として「しょうない氣龍祭」の立ち上げに携わった。
今回、協力してくれるのは、その時、一緒に祭りを盛り上げた面々。気心知れた仲間だ。

建具業・柿崎淳さん:
地元出身でない人が庄内に来て、後継として起業するのはわれわれもうれしく思う。できる限りバックアップしたいと思う

――人のつながりはありがたい?

國本美鈴さん:
本当にそう。そういう意味では氣龍祭やって良かった。5年前には想像できなかったつながりができてきて

鶴岡市内にある人気のレストラン「gira e gira」への販路も、國本さんが築いたつながりの一つ。この店のファンで、よく通っていたという。

レストランの料理に糀が使われていることを知り、自らの事業承継の話をしたところ、作った糀を使ってもらえることになったそうだ。

gira e gira・古門浩二さん:
優しいうま味があるのと、多様性というか、いろいろな料理にドレッシングとか料理に漬け込む時など、いろいろな場面で使える。國本さんと一緒に糀を広げていければなと思う

意外なきっかけが販路拡大に結びついた。

國本美鈴さん:
実際に、こうやって店で料理にしてもらって、糀を体に取り入れてもらうのはすごく良いなと。ゆくゆくは別なエリアでもチャンスとご縁があれば、販路拡大というか取り扱ってもらえるよう話をしていきたい

変わらぬ味を新パッケージで広めたい

新パッケージでの販売開始まで1カ月を切ったこの日、カメラマンを呼び、商品カットを撮影していた。

國本美鈴さん:
超ズームみたいなのもあるとうれしい、菌糸が伸びた感じ

國本さんは、店でこれまでやってこなかった「WEBを使った宣伝」にも力を入れようと考えた。

そして、新しいパッケージデザインも完成した。
屋号のロゴをモチーフに、店舗でもパッを目を引く桜を鮮やかにあしらい、若い人にも手に取ってもらえるよう心がけた。

國本美鈴さん:
デザインはもちろん大事だが、デザインばかりを優先してお客さんの使い勝手が悪くなったりとか、お客さんの使い勝手が良くてもわれわれの詰める作業が効率的でなかったら、結局その分、人件費や時間、コストがかかってしまう。結局いくつか断念したこともありつつ、まずは納得いくものができた

そんな國本さんの姿を、糀店の新たなかじ取りを託した桂子さんは頼もしく見ている。

佐藤糀店・佐藤桂子さん:
新しい形でいろんな方向に出ていくのはうれしくありがたい。自分にはなかったことをどんどんしてくれるから、新たな発見もあるし、すごく勉強になっている

初めて尽くしの試行錯誤の中、持ち前のアイデアと人とのつながりを大切に、なんとか販売までこぎつけた國本さん。尊敬の気持ちと継いだ決意をパッケージの裏側に込めた。

國本美鈴さん:
今まで買ってくれた人が『パッケージは変わったけど味は変わらない』と言ってもらえるところを目指して。今まで手に取ったことがない若い人や、美容・健康に興味がある人も目に付いて『何だろう』と思って、ちょっと買ってみようと思ってもらえたらうれしい

國本さん夫妻が継いで、屋号を「さくら糀屋」に変えた新パッケージの糀の販売は4月1日からの予定。庄内地方の一部スーパーなどで販売されるという。

(さくらんぼテレビ)

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