山形・庄内町に住む夫婦が、後継者不足に悩んでいた町内の老舗の糀(こうじ)屋を継ぐことを決めた。仕事の傍ら、引き継ぎに向け準備や修行に奮闘する日々。畑違いに見える仕事をなぜ継ぐ決意をしたのか、その思いを取材した。

「伝統を絶やしたくない」

現在、佐藤糀店で1年ほど修行している庄内町の國本美鈴さん(35)は、地域に愛され続け、90年の歴史がありながらも後継ぎ不足に悩んでいた町内の佐藤糀店を2024年1月から夫と一緒に継ぐことを決めた。

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國本美鈴さん:
糀自体はすごく人気もあるし、「やめるにはもったいないと思っている」という話を佐藤さんからいただいて。伝統を絶やしたくない

糀づくりは初めての経験。温度管理の仕方や糀菌を付着させるコツなど、作業の肝になる部分は承継元の佐藤さん夫妻が一から教えている。

「糀づくり」の初日の様子
「糀づくり」の初日の様子

準備を除けば丸3日かかる「糀づくり」の初日は、ふかした米の甘い香りから始まる。米はすぐに作業場に広げて、冷ます工程へ。糀づくりは「温度管理」が最も大切と言われている。

佐藤糀店・佐藤元さん:
ここは45度ぐらい、時間がたつと40度ぐらいに温度が落ちる。高すぎるとダメ、糀が死んじゃう

佐藤糀店・佐藤桂子さん:
一生懸命やっている、よく聞くし。わたしは嫁いでから義母に教えてもらい自然に身についたが、國本さんは外からふっと入ってきて覚えるから大変だと思う

畑違いの糀づくり 夫も後押し

國本さんの出身は埼玉県。結婚を機に庄内町に移住して4年余りになった。子育ての傍ら「本業」も持っている。

國本美鈴さん:
主にリモートワークで、クライアント企業のプロジェクトマネジメントとか、マーケティングの手伝い

全く畑違いの糀づくり。そのきっかけの一つを作ったのは、夫の琢也さん(37)だった。佐藤糀店が使っているコメは、琢也さんが働く町内の農業法人で生産されたもの。町の良質な米で作る伝統の糀を絶やしたくないと、琢也さんに相談した。

夫・琢也さん:
糀屋を継ぐのは「面白いなあ」と思った。「すごいじゃん!」って。事業承継の経験はないが、この町でそういう事業に携われるのは、自分自身コメ作りをしているので、面白いことになるんじゃないかと感じた

國本美鈴さん:
(糀を使うことは)増えました。自分自身が食べたり、使っておいしいと感じたうえで人に話したい

もともと糀は好きで料理に使っていたが、修行を初めてからは、より積極的に活用するようになった。

その味に、息子の壮将くん(3)も「おいしい!」と笑顔に。こうして、家族ぐるみでの挑戦が始まった。

冬場はともかく…夏場の作業は堪える

糀づくり2日目。室(むろ)で1日寝かせた米を手でこねるようにほぐし、温度を均一にしていく。

佐藤糀店・佐藤桂子さん:
端の方が冷たくなりやすい。毛布を掛けて保温しているが、真ん中の方が熱いから混ぜてあげる。温度が均一になるように崩しながら混ぜてあげる

ここでも、アドバイスはやはり「温度管理」。糀の香りが広がる室の中の温度は30度以上。冬場はともかく、夏場の作業は体にも堪える。

次に行うのが、仕上げに向けた「盛り」の作業。「ソネ」と呼ばれるこうじぶた1枚1枚に米を平たく盛って、指でなぞるように波型を付けていく。波の形が表面積を増やし、糀菌の活動を助けるのだ。

佐藤糀店・佐藤桂子さん:
もう少し多めに盛っても良い。夏の暑い時は薄い盛りで良いが、今は寒くなってきたので少し厚めに盛ってあげると良い

昔ながらの製法も魅力の一つ

長年、地域の人から愛されてきた糀店。設備は古く、製法も昔ながらのものだが、それも魅力だ。

國本美鈴さん:
ソネも昔ながらのものを使っていて、やり方ひとつとっても“先人たちの知恵”が。きっと効率化できることも今の時代にはあると思うが、全部を効率化してしまうと味も変わってしまうと思うので、極力、昔ながらのやり方・良い所は残して

その考え方を、佐藤さんも応援している。

佐藤糀店・佐藤元さん:
長年続いてきた仕事なので、誰か継いでくれる人を探していたので良いタイミング。一生懸命教えている。ましてこれで飯を食べるのは大変。“プラスアルファ”がないといけない。その辺は彼女に頑張ってもらいたい

今の仕事の前は、町の「地域おこし協力隊員」としてイベントなどを企画していて、糀店の佐藤さんともその時に出会った。培ってきた地域とのつながり、そして今の仕事のノウハウ、すべてを注いで糀づくりに挑戦したいと考えている。

國本美鈴さん:
現職のマーケティングで学んだ“どうやって物を売るか”、そういう知識プラス、庄内で培ってきた人とのつながりが、糀の事業は“総集編”のような感じで生かせるかなと。すごくワクワクしている

1日寝かされた米には真っ白な花が

糀づくりの最終日、3日目は「出糀」と呼ばれる完成の日。暖かい室の中で1日寝かされた米には真っ白な花が咲き、まるで繭のような美しさ。國本さんが最も感動する瞬間だ。

國本さんはまず、この生糀のブランディングを進めたうえで、「WEBの制作」や「SNSでの発信」など新たな取り組みも行って、販路拡大を目指していこうと考えている。

新しい屋号は「さくら糀屋」。ロゴマークの「ソネ」は、伝統を守っていくという決意の表れだ。

國本美鈴さん:
糀の菌が花のように、米の周りにまとって花が咲いたようになるので「糀」と書くと聞いている。屋号は、桜の「サク」に糀の花が“咲く”をかけている。また、日本の花として桜は認知度が高いと思うので、将来的に海外に出るような時に、日本のものだとわかるように「桜」とつけた。(夢の花ですね?)そうですね、咲かせたいですけどね

糀の花に夢膨らむ冬、事業承継はまもなくだ。
國本さん夫婦は当面、佐藤さんの協力を得ながら、本業との「二足のわらじ」で店を継ぐことにしている。

(さくらんぼテレビ)

さくらんぼテレビ
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