風呂上がりの定番ともいえるどこか懐かしい瓶牛乳が、2024年3月いっぱいで姿を消すことになる。福岡の牛乳メーカーはどうしているのか取材した。

瓶での家庭宅配がニーズとマッチしない

瓶に入った牛乳は銭湯などで昔から親しまれている。大手乳製品メーカー「森永乳業」は、瓶の牛乳やコーヒーなど7品目について3月末に販売を終了し、95年の歴史に幕を下ろす。

この記事の画像(12枚)

森永乳業 市乳営業統括部・大山洋次マネージャー:
牛乳を家庭宅配でとるという食習慣の一環として長らく愛されてきた商品だが、ライフスタイルの変化に伴って、瓶でのお届けがお客様のニーズとマッチしなくなってきている。紙パックやペットボトルに詰めたものに変化して、新たな容器の形でお客様には引き続き牛乳の健康感やおいしさをお届けしていきたい。

農林水産省によると、ガラス瓶(500ml未満)に入った牛乳の生産量は2022年に4929klで、10年前(1万5425kl)と比べて約3分の1に減少している。

瓶牛乳について街で聞いてみると、「家に届いていた。新聞と牛乳セットでというイメージ」「思い出深いのはフタですかね。フルーツバージョンとかいろいろあって、集めていた記憶がある」など人それぞれに思い出があるようだ。

瓶牛乳は“コップより3倍濃い香り”

福岡・筑紫野市の二日市温泉「御前湯」は、1日約500人が訪れるという老舗銭湯だ。15年ほど前から森永乳業の瓶の牛乳とコーヒー牛乳を取り扱っている。1日に50本ほどが売れ、風呂上がりの飲み物では不動の人気がある。

御前湯・木村道子所長:
温泉施設といったら牛乳の瓶は欠かせないものなので。「あ~、残念だな~」という思い。在庫限りで終わり。

風呂上がりの女性客:
小さい時から温泉に来ていて、その時にいつも買ってもらっていた。牛乳がなくなると飲むものがなくなって…。

風呂上がりの男性客:
ここに10年以上来ているけど毎回飲んでる(笑)

なぜ、瓶で飲む方がおいしく感じるのか?金沢工業大学と企業の研究グループによると、まず瓶の場合はフタと液体の間に「ヘッドスペース」といわれる隙間があり、ここに香りが凝縮され、フタを開けるときに「コップよりも3倍」濃い香りがするという。
さらに関係があるのが「唇の表面温度」だ。瓶のひんやり感の影響で唇の冷たさが長続きすることも分かったという。

給食の牛乳“コロナ”で紙パックに

太宰府市にある地元メーカー「永利牛乳」は、1955年創業の老舗の牛乳メーカーだ。給食としても多くの学校に提供している。

永利牛乳・長谷川敏社長:
紙パック専用の製造ラインで200mlの給食に提供する牛乳の製造ライン。工場の中心部になるところ。いま、私どもの工場では瓶容器に入った牛乳のラインはない。もう中止している。

「永利牛乳」では、3年ほど前に瓶の牛乳を製造するラインを完全にストップしているという。個人宅に配達する瓶は、販売店側の高齢化が進み、事業を縮小する傾向が増え需要が低下。

また、紙パックが主流となった学校給食では、県内の約2割に瓶で提供していたが、意外な理由で紙パックに切り替わっていた。

永利牛乳・長谷川敏社長:
コロナです。瓶を洗浄して子どもたちが洗って返すときに、子どもたちが集まって“密”になるから、「コロナ対策上あまりよろしくない」といわれて、「紙パックに変えて下さい」という理由でやはり瓶の稼働がぐんと減った。

瓶の牛乳を製造するには、容器を洗浄し、瓶の割れなどを確認した上で牛乳を入れ、キャップをはめて紫色のフードをかぶせるなど装置の数が多く、さらにメンテナンスやスタッフの人数も必要なことから、製造行程だけでも紙パックの倍以上のコストがかかっていた。
さらに、輸送の「2024年問題」もあり、配達や回収のコストも増える傾向にあったという。

永利牛乳・長谷川敏社長:
正直ずいぶん悩んだし、こうやって令和の時代まで何とかやっていたけど、やはりこの社会の変化の動きには、なかなかやっぱり勝てない。本当ご愛用いただいた皆さん方には申し訳ないという気持ちを今でも持っているけど、苦渋の選択です。

メーカーにとっても歴史に幕を閉じるという難しい決断。時代の変化とともに慣れ親しんだ福岡の瓶牛乳も姿を消し始めている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。