参議院の政治倫理審査会は14日、自民党派閥の政治資金パーティー問題に関して、世耕弘成前参院幹事長、西田昌司参院議員、橋本聖子元五輪相(いずれも安倍派)の3人の審査を行う。参院政倫審で具体的な審査が行われるのは史上初めてのことだ。

政治資金パーティー問題をめぐっては衆院の政倫審で安倍派幹部4人と二階派幹部の武田元総務相、そして自民党総裁であり岸田派の会長だった岸田首相といった実質的な派閥幹部6人の審査が行われたが、今回の参院の3人はそれぞれ異なった立場であることも注目だ。個別に質疑のポイントを挙げてみる。

世耕氏…キックバック復活と全額還付に関与は?

世耕氏は、いわゆる安倍派幹部5人衆の1人で、安倍派の参院議員だけで作る組織「清風会」のトップを務めてきた。派閥の実務を取り仕切る事務総長経験者ではないが、参院安倍派を代表して派閥の重要事項を知ることが可能な立場にあったと言える。

そこで2つのポイントが浮かび上がる。1つが、安倍派のパーティー券収入のキックバック復活の経緯だ。安倍派=清和政策研究会では、2021年に安倍元首相が会長に就任し、2022年4月に幹部が集まった場で、安倍氏から派閥のパーティー券収入のうち各議員のノルマ超過分を議員側にキックバックする制度をやめようという提案があり、いったん廃止が決まったことがわかっている。

しかし、安倍氏が7月に銃撃され亡くなった後に、すでにキックバックを前提にパーティー券を売っていた議員側からキックバックの再開を求める声があがり、8月に幹部が集まり協議が行われ、その後キックバックが復活したという。

この会議の場にいたとされるのが、4月の安倍氏を除けば、会長代理だった下村元文科相と塩谷元文科相、事務総長だった西村前経産相、会計責任者であり事務局長の松本氏、そして参院側トップの世耕氏だった。

この8月の協議について衆院側の政倫審では、西村氏がキックバック復活についての結論は出なかったと説明したのに対し、塩谷氏は「継続でしょうがないかなという、そのくらいの話し合いの中で継続になったと理解をしている」と述べ、この協議でキックバック復活が事実上決まったとも取れる言及をした。この微妙な食い違いがある中で、世耕氏が協議の内容をどのように証言するかは最大の注目点だと言える。

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そして世耕氏の説明が注目されるもう一点が、“参院選イヤー全額キックバック制度”の経緯だ。安倍派では、少なくとも細田派だった時代から、3年に1度の参院選が行われる年には、議員にパーティー券販売のノルマを設けず、販売した全額がキックバックされる形で議員側の収入になり、政治資金収支報告書に記載されない事実上の裏金になっていたという。

この制度がどのようにして運用され、議員側にどう説明されてきたのか、そして野党側が疑っているように選挙運動に使うためではなかったのかという点が焦点になる。選挙運動と通常の政治活動の一線は微妙なため、そこを明確にすることは難しいかもしれないが、なぜ参院選の年のみ“裏金”が多くなるようにしたのかをどう説明するのか注目される。

これ以外にも、安倍氏がキックバックの廃止を指示した理由について、衆院で野党側はキックバック分を収支報告書に記載せず裏金化していたことを把握していたからだと追及したが、西村氏らは現金でのやりとりが不透明なためだったと説明した。この点を世耕氏がどう語るのかも注目される。また、世耕氏の不記載額は5年間で約1500万円で、その使途も尋ねられるだろう。

さらに世耕氏をめぐっては、政治資金問題と違うことで追及を受けるのではとの懸念が自民党内から出ている。それは自民党青年局が和歌山県で行ったいわゆる過激ダンスショー懇親会問題だ。このダンスショーを企画したのが世耕氏の元秘書で、世耕氏の秘書も参加していたことがわかっているため、野党側が質問してくるのではないかとの見方がある。世耕氏に対して立憲民主党は蓮舫氏を質問者に立てるが、限られた時間の中だけに、何をどのように質問するのか、戦略も問われそうだ。

西田氏は当事者であり、幹部からの被害者の立場も?

午後の審査で弁明に立つ1人目が、西田昌司参院議員だ。西田氏は京都選出の論客で、鋭い舌鋒で知られる。野党側が不記載のあった議員32人全員の政倫審出席を求めたのに対し、派閥幹部だった世耕氏を除けば、唯一真っ先に政倫審出席を表明したのが西田氏だった。

そして安倍派の幹部ではない西田氏は、問題の発覚以来、キックバック不記載に関する派閥幹部の責任を厳しく指摘してきた。記者団にも「我々も知らなかったんだというような話をしているが普通の組織ではありえない。幹部が責任を取らないと話にならない」などと語っている。西田氏だけでなく、安倍派の中堅若手の中には、派閥側から不記載を指示されたにも関わらず捜査対象となったのは不本意だとして、安倍派幹部が真実を語り、率先して責任を取るべきだとの意見がある。

西田氏が、こうした意見を代表する形で、派閥幹部への厳しい意見を表明するのか、派閥幹部からどんなことを言われてきたかを証言するかも注目される。同時に、西田氏も結果的に5年で約400万円の不記載に関わった身として、自身に関することを、不記載額の使途なども含めてどのように説明するのかも焦点と言えそうだ。

橋本聖子氏は2000万円の使途が焦点に

3人のラストバッターとして弁明に立つ橋本聖子氏は、政倫審出席の意向確認の期限ぎりぎりで出席を表明した。出席を決めた理由については、自身がこれまで自民党の参院議員会長や、参院安倍派の座長などの要職を経験してきた責任を挙げた。

橋本氏に関する最大の注目点は不記載額が5年で約2000万円と多いことで、その使途がポイントになりそうだ。

橋本氏は使途について記者団に「事務所としては、すべて使途を公開して記載しているので、つまびらかに見ていただけるようになっている。そういったことも含めて、政倫審に出席させていただくことになれば話したい」と述べている。

そこで、政倫審の場で「政治活動に使った」という以上の詳しい使途を説明できるかどうか、特に不記載額が1500万円超と突出して多い2019年は自身の参院選の年だけに、参院選の関連に不記載分の金を充てたのかどうかなどが問われそうだ。

一方、野党側に関しては、衆院では、各党が順に質問する中で、前の質問者と同じ質問をしてしまうケースも多くみられた。重ねて質問することで新たな答弁を引き出した例もあるので一概に言えないが、貴重な時間をどのように使って、新たな事実や発言を引き出せるかも焦点となる。参院で初となる政倫審の審査だけに、国民の方を向いての、実りのある審査になることを望みたい。
【執筆:フジテレビ政治部デスク・髙田圭太】

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髙田圭太
髙田圭太

フジテレビ報道局  政治部デスク 元「イット!」プロデューサー