3月16日の北陸新幹線福井開業に伴い、経営分離で姿を消すJR北陸本線。その引退に合わせ、長年携わってきた鉄道の仕事から退く人がいる。国鉄一家で育ち、自身も30年以上勤務した後、県内唯一の名誉駅長として無人駅を守ってきた男性に、その思いを聞いた。

福井県内のJR駅で唯一の名誉駅長

午前6時半ごろ。福井・鯖江市にあるJR北鯖江駅に「おはよう。いってらっしゃい!」とあいさつの声が響く。

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福井県内のJR駅で唯一の名誉駅長を務める鯖江市の門田吉雄さん、御年89歳。駅の利用客に元気よく声を掛ける。(※門田吉雄さんの「吉」は「つちよし」)

門田吉雄さん(89):
やっぱり朝の声掛けが一番大事やね。声掛けられると元気出るやろ。

乗客の学生は「朝、元気がないときとか、眠い時に声を掛けてもらえると嬉しくなる」と笑顔を見せた。

鉄道マンとしての34年間

門田さんは、旧三方郡八村、今の若狭町に生まれ育った。

父親、そして2人の兄も国鉄に勤めていたため、自然な流れで門田さん自身も国鉄に入ったと振り返る。そして北陸、東海地方の駅で34年間、鉄道マンとして勤め上げた。

門田さんにとって、制帽は特別なもの。被るとプライドや責任感、使命感が出てくるという。

退職後、一度は違う職に就いたが、国鉄時代の活躍を買われ、2015年にJR西日本金沢支社から北鯖江駅の名誉駅長を委託された。以来、毎週月曜日は、ボランティアで午前6時半ごろから駅のトイレ掃除やゴミ拾いを済ませ、通勤通学客への声掛けをしてきた。

門田吉雄さん(89):
ただただ嬉しかったね。レールの近くにいられるってことがね。

地域と共に歩んだ門田さんへの感謝

北鯖江駅を含むJR北陸本線は、北陸新幹線の県内開業に伴い第三セクター「ハピラインふくい」に経営が引き継がれる。門田さんはその前日の15日に、名誉駅長を引退する。明治から約130年、福井県内をつないできた歴史がなることについて、やはり寂しさを感じている。

JR北陸本線とともに引退する門田さんを惜しむかのように、乗客が声を掛ける。「うちの大根食べて」と差し入れを持ってくる人や、「お元気でいてください」と言いながら手紙を手渡す人も…

長い間おつかれ様でした。門田さんの姿にたくさんの方々が心いやされてきました。ありがとうございました。いつまでもお元気でいてください。線路は続くよ、どこまでも

父と兄の背中を追って国鉄に入社した門田さん。鉄道一筋34年、線路が雪に覆われた「三八豪雪」や「五六豪雪」などの困難も経験した。3年前には大病を患うも、再び駅に戻った。

門田吉雄さん(89):
こういう場所を与えてくれたってことがありがたいねぇ。こんな幸せな男いないで。ただ感謝、感謝やね。

門田さんの新たな旅立ち

そんな門田さんも10月で90歳になる。娘は鉄道関係の職には就かなかったが、門田さんがさみしくないようにと双子の孫に「ひかり」と「こまち」という名前を付けた。引退後は、これまで支えてくれた家族との時間を増やしたいと話す。

門田吉雄さん(89):
家内と2人でのんびりいくことが幸せかな。自分の人生のレールをまた歩んでいきたい。

門田さんの「線路」はまだまだ続く。

(福井テレビ)

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