13年前の東北での経験を、能登半島地震の被災地につなごうと取り組んでいる男性がいる。
東日本大震災のあと、1次産業の後押しに取り組み続けてきた男性の今の思いと、能登での活動を取材した。

「“あの日”の恩返しをしたい」

能登半島地震の発生から2カ月がたとうとしていた2月25日。いまだ多くの人が暮らす石川・七尾市の避難所を1人の男性が訪れた。

「雨風太陽」の代表・高橋博之さん
「雨風太陽」の代表・高橋博之さん
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岩手・花巻市にある会社「雨風太陽」の代表・高橋博之さん(49)だ。能登半島地震発生の3日後から被災地に入り、炊き出しなどの活動を続けている。
衝き動かしているのは“あの日”の恩返しをしたいという思いだ。

雨風太陽代表・高橋博之さん:
13年前、岩手県も東日本大震災で同じような目に遭って、その時も各避難所に日本中からいろいろな人が炊き出しに来てくれて応援してもらったので、今度は僕らの出番じゃないけれども、少しでも力になりたいという一心で来た。

2006年から5年余り県議会議員を務めた経歴を持つ高橋さん。政治家をやめ、農家や漁師の支援に専念することを決めたのは、東日本大震災がきっかけだった。

高橋さんは「震災で漁師と出会って漁業の置かれた厳しい状況も知って、生産者が報われるような、岩手は基幹産業が1次産業でもあるし、それをやらないとダメだ」という強い思いを持ったと話す。

高橋さんは、2013年にNPO法人「東北開墾」を設立。取材した生産者の言葉を載せた情報誌と生産物を一緒に発送する「東北食べる通信」という事業を始めた。

さらに2015年には現在の会社「雨風太陽」を立ち上げ、全国の農家や漁師と直接やりとりしながら食材を購入できる産直アプリ「ポケットマルシェ」の事業をスタート。
現在、登録している生産者は8000人余り、利用者は73万人に達している。

魅力を自分の目で確かめ、伝える

高橋さんは時間を見つけては、全国の農家や漁師のもとを回り、いかに手間暇かけて生産しているのか自分の目で確かめている。そうすることで魅力をさらに広めたいと考えている。

リンゴの生産者「青林というリンゴ。この寒さに当たらないと蜜が入ってこない。甘いでしょ?」
雨風太陽代表・高橋博之さん「甘い!とんでもなく甘い」

高橋さんは「これを作るためにどれだけ日頃から手間をかけているのかが分かると、感謝していただくということになる。僕自身が現場に来てすごいなって思うので、それを代弁者じゃないが拡声器になって伝えるのが僕らの仕事」と、生産者のもとを訪ねる理由について語った。

雨風太陽は事業の拡大を図ろうと2023年12月、東京証券取引所グロース市場に上場。大災害が起きたのはその2週間後だった。

最大震度7を観測した能登半島地震。石川県内では住宅の被害が約8万棟に上り、240人以上が犠牲となった。(3月8日時点)

「ポケットマルシェ」で食材募る

発生直後から炊き出しの活動にあたってきた高橋さん。その運営にも産直アプリ「ポケットマルシェ」が生かされていた。登録している生産者に呼びかけ、無償で食材を募った。

この日は、三重県の漁師・橋本純さんが協力してくれた。

この日ふるまったのは、橋本さんが養殖した鯛を使った炊き込みご飯と温かいあら汁。
湯気の立つ食事に被災した人の心もひとときほぐれた。

高橋さん「どうぞ温まってください」
被災者「うわ~うれしいな。(炊き出し)始まったんでね」

2月末までにポケットマルシェに登録する生産者のうち78人が食材を提供。19回炊き出しを行い、3600人余りに食事を提供してきた。

雨風太陽代表・高橋博之さん:
「東北から来たよ、岩手から来たよ」と言うと「13年前の震災の時のか」って言われるのでやっぱり通じ合うものがあるっていうか、「われわれも時間かかったけどちゃんと復興したので皆さんも頑張りましょう」と言うと、「同じカレーでも全然違うカレーだ」と言ってくれるんですよね。

“3.11の東北から1.1の能登につなぐ”

高橋さんにはもう一つ取り組んでいるものがある。東日本大震災の教訓を能登の人たちと共有する座談会だ。

この日は岩手・釜石市の漁師と、石川・輪島市の漁師をオンラインでつなぎ、なりわいの再生について考えた。

輪島市の漁師「(被災した漁師が)共同操業しているとき、国から補助や支援があった?」
釜石市の漁師「できる範囲でやろうという状況だった。漁業施設にしてもロープだったり1日の日当だったり、全部国が補助してくれた」

釜石市の漁師は、「また次来るよっていう言葉で、それまで怠けていられないなとか、頑張ってまたやろうっていう気が湧いて、5年10年っていう感じで進んでいった。それが一番の励みかな」と、ボランティアなど支援に来てくれる人の存在が、震災後の心の支えになったと語りかけた。

雨風太陽代表・高橋博之さん:
震災前よりもいろいろな人がこの港に出入りするようになるし、そうすれば飲食店でご飯食べるし泊まるしお金を落としていく。むしろ人数は減ったけれど、港の活気は震災前よりも増している。

これから復興への道のりが始まる能登。
高橋さんは、この13年さまざまな経験を重ねてきた東北から、息の長い支援をすることが必要と考えている。

雨風太陽代表・高橋博之さん:
「復興が終わるまでずっと応援するよ」っていう声が非常に東北のときも力になって、多くの人たちに支えてもらったから、復興して良い町をつくって、みんなに恩返ししようということで、復興の力に東北でも非常になったので、能登でも必ずそれが力になると伝えることが、“3.11の東北から1.1の能登につなぐ”っていうことだと思っていて、そこをやっぱり伝えたい。

(岩手めんこいテレビ)

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