石川県の輪島港で20年以上海女を続ける門木奈津希さん(43)は、能登半島地震から1ヶ月半がたった2月18日、避難先の金沢市から輪島港に戻った。

門木奈津希さん 海女歴は20年を超える
門木奈津希さん 海女歴は20年を超える
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門木さんの自宅は、となりの家が寄りかかった状態になり、玄関ドアが壊れ、住めなくなっている。玄関に飾られた正月飾りは、いまもそこに備え付けられたままだった。「1月1日のまま時間が止まっている。」門木さんはそうつぶやいた。

曾祖母の代から 海女歴20年以上

約1カ月半ぶりに住まいのある輪島港に戻った門木さん。自宅が壊れているため、港の漁協の前で待ち合わせをしてお話を聞いた。門木さんの呼びかけで、ほかにも5人ほどの海女仲間が集まった。

輪島港で再会した海女仲間と
輪島港で再会した海女仲間と

久しぶりに仲間と再会し、話をする門木さんの表情は明るかった。体一つで海に潜り、漁をする海女。輪島の海女漁は、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。目の前で楽しそうに話をする彼女たちが、普段どうやって広い大海原に飛び込んでいくのか気になった。

海女仲間の一人は、「経験。山を見て、灯台を見て、そうしたらこの場所だってわかる。海のなかにも場所の名前がある。」と答えた。皆、経験を積んで覚えていくという。門木さんも、曾祖母の代から続く海女の家系で、中学卒業後、20年以上この道を究めてきた。そして今は、「輪島の海女漁保存振興会」の会長を務めている。

海底の隆起で150隻の船が出港できず

そんな海女たちの職場であり、生活の基盤でもある輪島港は、能登半島地震で漁業に甚大な被害を受けた。県内最大の水揚げ高を誇る港は、地震で海底の地盤が2mほど隆起し、約150隻の船が港から出られない状態が続いている。

輪島港では海底にたまった土砂を取り除く工事が行われていた 2月16日
輪島港では海底にたまった土砂を取り除く工事が行われていた 2月16日

船が港から出られるのに必要な水深を確保するため、海底の土砂を1mから2m程掘り下げる工事が2月16日から始まったが、工事完了の見通しは立っていない。

この日、門木さんは地震の後はじめて、自分の船、「七津丸」に乗り込んだ。地震の前には、「七津丸」に乗り、アワビやサザエなどを捕っていた。

久しぶりに「七津丸」に乗り込む門木さん
久しぶりに「七津丸」に乗り込む門木さん

「すごい隆起している!」門木さんの驚いた声に、私たちは振り返った。海底の隆起によって、水深が浅くなり、普段見ることのなかった景色に驚きを隠せない様子だった。例年7月から漁が解禁になるが、今年の漁は厳しいのではないかと肩を落とした。

地形の変化への不安抱えつつも「この仕事しかない」海女漁への思い

海女さんたちが長年のノウハウで培ってきた海中の土地勘が、地震によって影響を受けるのではないか。彼女たちはいまどんな思いでいるのか。

門木さん:
「びっくりしすぎてショック。海女さんというか漁師も全部終わりなんかなと思うくらい」
ーー今一番気になっていることは
「地形がどうなっているのか、サザエやアワビがどうなっているか」

地震前に輪島の海でとれたアワビ
地震前に輪島の海でとれたアワビ

ーー港の工事もはじまったが、今後の海女漁についてどう感じるか?
「元に戻ってほしい。(海女漁やめることは)ないです。この仕事しかないんで」

ーー地震きっかけに引退する人など出てくるか?
「自分が(地震直後に)港を見たときは5~10年復興できないと思っていたので、高齢の人もいるので辞める人も出てくると思っていたが、1~2年で復興してくれるなら減らないのかな。みんな海女漁したくて待っているので。(海女漁を)守っていかないといかないと思っている」

「収入ゼロ」 生活再建への支援必要

門木さんは、海女漁の未来は、復興にかかる時間との戦いだと答えた。海女漁をする家では、旦那さんが漁師だというケースも多い。輪島港では1月から、船が出港できない状況が続き、夫が漁師だという門木さんも「収入がゼロ」になっているという。

門木さんの自宅 「危険」の貼り紙が
門木さんの自宅 「危険」の貼り紙が

県が開いた「漁業者支援施策説明会」にも参加したというが、今後の生活の見通しを示すことが急務となっている。

門木さんは、「海女漁を守っていかないといかないと思っている」とインタビューの最後に語った。

海女仲間と門木さん
海女仲間と門木さん

港が抱える問題について不安を持ちつつも、海女漁を続けたいという意志は強い。輪島港にはおよそ150人の海女さんがいるというが、その仲間たちと再び輪島の海に潜れる日が来ることを、門木さんは願っている。
(取材:社会部記者 中澤しーしー)

中澤しーしー
中澤しーしー

フジテレビ報道局社会部記者。記者歴2年。司法クラブに所属し、検察・国税を担当。脱税事件などを追う。早稲田大学法学部卒業後、2020年フジテレビ入社。趣味は映画鑑賞。