年明けすぐに今年分の予約がほぼ埋まる、今もっとも予約が取りづらいといわれる寿司店が長崎市内にある。店を取材すると長崎が誇る海の幸の魅力を多くの人に知ってもらい「寿司」で盛り上げたいという代表の強い思いがあった。

予約のとれない寿司店 人気の理由

脂が乗ったトロや光り輝くウニ。素材本来の味が職人の技とあいまって最高の状態で客に提供される。

「握りのはやし」代表 林健一さん
「握りのはやし」代表 林健一さん
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握りのはやし 代表 林健一さん:おいしさ以上のものがそこにあると思われたくて頑張っている

長崎市葉山2丁目にあるすし店「握りのはやし」。カウンターにわずか10席だけの店は、完全予約制で、元々住宅だった建物をリノベーションしたものだ。コの字型のカウンターでは、お客が職人の仕事を見られるような作りになっている。そんな林さんの店はいま予約がなかなかとれない状況だ。

コの字型カウンターは客席から板場が見える造り
コの字型カウンターは客席から板場が見える造り

手帳には予約した人の名前がびっしり。

握りのはやし 代表 林健一さん:今年は12月まですべて(予約が)埋まっている。来年もよろしくお願いします。年明けて、1月で今年分はほぼ終わり。結婚記念日とか誕生日とか、記念日で決まっているところを先に入れてもらっている

人気の理由のひとつが主に使用している魚が、地元・長崎の希少な魚だということ。

林さんには長崎が誇る海の幸の魅力を多くの人に知ってほしいという強い思いがある。

握りのはやし 代表 林健一さん:長崎は魚がうまいと言われながら、なんで寿司がうまいと言われないんだろうと思っていたので長崎の寿司自体を盛り上げたいと

寿司の分野で生きていくと決めた転機

宮崎県で生まれた林さんは両親の転勤で小学2年生の時に長崎に移り住み、長崎市内の高校に進学したものの、将来の目標を見出せず1年生で中退。その後、友人の勧めで市内のすし店で働き始める。すると19歳のときに巻きずしの技術を競う全国的なコンクールで史上最年少で優勝を果たした。

長崎県知事に優勝報告をした林さん(当時19歳)2003年
長崎県知事に優勝報告をした林さん(当時19歳)2003年

19歳の時の林健一さん:一生懸命練習したから優勝できたんじゃないですかね

明確な目標がなかった林さんが「すし」の分野で生きていこうと決心した瞬間だった。

握りのはやし 代表 林健一さん:当時勤めていた寿司店の大将から、『お前は高校も出ていないのだから、ここで良い賞をとって父ちゃん母ちゃんに渡せ』と言われたのが頑張ろうと思ったきっかけ。(両親を)安心させたかったんでしょうね。

その後20代前半に、寿司を海外で普及させたいという思いから、わずか400ドルを手にオーストラリアへ。出資を募り、現地で回転寿司店を開業した。現在も現地の3店舗の経営に関わっている。

約9年間のオーストラリアでの実績を携えて2018年に帰国し、長崎の魚を全国にPRするため魚を卸す事業を始めた。しかし、思わぬ事態が林さんを襲った。 

握りのはやし 代表 林健一さん:コロナの時代になって東京、大阪の方からロックダウンのようになった。飲食店が軒並み閉まってしまった。お客さんがすべて飲食店だった私はご飯食べられないと

東京や大阪の飲食店をターゲットにしていたが、事業を軌道に乗せることはできなかった。

コロナ禍を乗り切るテイクアウト専門店は評判に

それでも、長崎の魚を知ってほしいという林さんの思いは変わらなかった。魚を食べたいという人はコロナ禍でも変わらないと考え、2020年に握りずしのテイクアウト専門店として握りのはやしを開業。4000部の折り込み広告と口コミだけで評判は瞬く間に広がっていった。 

そしていまの場所に2022年11月に移転し、弟子の杉本涼さんとともに店に立っている。

弟子 杉本 涼さん:(林さんからは)料理も当然学ぶことがあるが人への接し方とかコミュニケーションのとり方は勉強になる

子どもたちに寿司を通して伝えたいこと

店は、毎年2月に驚異的な忙しさをみせる。理由は節分に向けた恵方まき作りだ。

徹夜で1000本を作る恵方巻き
徹夜で1000本を作る恵方巻き

SNSで購入を呼び掛けた恵方巻き1000本はわずか6分で完売した。

握りのはやし 代表 林健一さん:今夜は徹夜でずっと作りっぱなし。僕らからすると恒例行事

午後11時に巻き始め翌日の昼まで作り続ける過酷な作業だ。

翌朝、続々と恵方巻きを受け取る客の中に、児童養護施設の関係者の姿もあった。

毎年作る1000本の恵方巻きのうち100本を、長崎市内の施設に寄贈している。

児童養護施設の担当者:子どもたちは普段食べているものと一味違うということで喜んでいる

握りのはやし 代表 林健一さん:子どもたちに幸せな気持ちになってほしいというのと、下心があって、将来寿司屋になる子が出てきてくれたらうれしい。僕のところに来るかは別として業界に興味を持ってくれたら

林さんは長崎県にとって誇るべき宝・長崎の魚を次の世代にも伝えたいとの思いから、定期的にマグロの解体ショーも行っていて子どもたちが魚に触れる機会を作っているという。

ゼロから始めたすし店が、“未来に種を撒く場所”へ。

林さんはこれからも長崎の魚と向き合いながら寿司の魅力を発信し続ける。

 (テレビ長崎)

テレビ長崎
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