賭け事にのめり込み、抜け出せなくなる「ギャンブル依存症」。WHO(世界保健機関)が認める精神疾患の一つで、厚生労働省の推計で、生涯でギャンブル依存症が疑われる状態になった人は、約320万人とされている。身近な病気でありながら、回復が難しい「ギャンブル依存症」。回復のために必要なことは、「しっかりと向き合うこと」だ。

先輩に誘われて... ギャンブルの世界へ

 2月、仙台市青葉区で開かれたギャンブル依存症を知ってもらうためのセミナー。この場所で登壇したのは、埼玉県に住む辻翔太さん(39)。ギャンブル依存症の当事者で、高校生の時からギャンブルにのめり込んだ。

辻翔太さん
辻翔太さん
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きっかけは、アルバイト先の先輩から「バイトより稼げる」とパチンコ店に連れて行ってもらったこと。

「親からのお小遣いをもっと増やしたい」と、初めてのパチンコでいきなり5万円勝ったことで味を占めた。その後、パチンコやオンラインカジノなど、様々なギャンブルにはまった。ストレス解消やお金など、いろいろな要因があるが、その手段として必ずギャンブルが出てきていたという。

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辻さんは「とにかく欲する状態。ギャンブルを渇望してしまう。あの興奮をもう一度とか、『負けた分を取り返さないといけない』という強迫観念。渇望と強迫観念のループから抜け出せない状態」と当時の状況を話してくれた。

ギャンブルで作った借金は、20年間で7500万円まで膨れ上がった。誰も助けてくれないという状況になって、初めて自分は病気だと向き合うことができたという。

現在、同じ悩みを抱える人の相談にのっているという辻さん。それは自分のためでもある。

辻さんは「少なくとも自分がギャンブルをやめ続けている背中を見せないことには、これからやめたい人も信じられないと思うので、僕がちゃんと回復できるのを見せ続けることが自分の回復にもつながると思う」と、今の思いを口にした。

「借金を何とかするためにギャンブルを」

この会を開催した、ギャンブル依存症の支援団体の代表を務める田中紀子さん(59)。実はギャンブル依存症から回復した過去を持つ、当事者の一人。30歳からの10年間、競艇やカジノなどに、のめり込んだという。そうした経験から、自助グループがあったほうが良いと考え、支援団体を立ち上げた。

田中紀子さん
田中紀子さん

当時のことを田中さんは「苦しくて苦しくて、どんどん他のことがどうでも良くなっていき、『このままだとどうなるのだろう』という恐怖があった。毎日ギャンブルをやらないと気が済まないという感じ。借金を何とかするためにギャンブルをするしかないと思った」と振り返った。

誰にでも起こり得る 「病的賭博」

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自ら止められないほど賭け事にのめり込む、ギャンブル依存症。世界保健機関は、治療が必要な「病的賭博」という精神疾患に認定している。

年間140人ほどの「ギャンブル依存症」の治療にあたる、東北会病院の石川達理事長は「ギャンブル依存症は、個人の自己責任だとか意思の問題であると言われているが、立派な脳の病気だと今は認識されている。誰にでも起こり得るもので、治療のためには正しい理解が必要」と話す。

東北会病院・石川達理事長
東北会病院・石川達理事長

その治療は、患者同士や医師との対話や、自らを客観的に見てストレスへの対処法を見つけるトレーニングなどを通じて行われ、弱さを正直に言葉にできる場所を提供することもその一つだという。

「大切な家族を助けたい」 悩み共有し解決へ

2月10日には、仙台市泉区でギャンブル依存症に悩む家族の集まりが開かれた。大切な家族を助けるためには、ギャンブルでできた借金を簡単に肩代わりしてはならず、まず患者は自分の問題と向き合うこと、そして家族はあえて距離を置く忍耐が求められる

参加者は「(娘のギャンブルに対する)スイッチが入った時、どう対応すればいいか分からない」「親子の関係『共依存』といって私は子供に依存している。またこの会に来る、また目を覚ますみたいなことの繰り返しで。通わないと無理。泣いてしまう」などと話し、それぞれが悩みを共有することで、解決に近づこうとしていた。

回復へ大切な「向き合うこと」

患者と家族、それぞれが真摯に向き合うことで回復への道が開ける「ギャンブル依存症」。

田中紀子さん
田中紀子さん

依存症問題を考える会の代表を務める田中さんは「ギャンブル依存症は回復できるので、回復した先には今よりもっと良い人生が待っているから、勇気をもって回復してみようということ。本当の自由と責任を獲得することだということを当事者に伝えたい」と訴える。

本人の意志だけではどうにもならない状況を理解し、自ら一歩を踏み出すことが大切だ。

(仙台放送)

仙台放送
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