「人生100年」時代に向け、セカンドライフを支える資産形成の必要性が一層高まるなか、加入者数が徐々に伸びているのが「イデコ(iDeCo)」と呼ばれる年金制度です。
個人が、老後に備えて決まった金額を積み立て、投資信託や預金など金融商品を選んで運用するしくみですが、より身近な制度にするため、政府が規制緩和に乗り出します。
銀行などでの商品説明は、専任職員でなくてもOKに

現在、銀行などの金融機関では、営業職員が、通常業務とイデコの運用関連業務を兼務することが禁じられ、商品の情報提供を行う場合は専任の職員を配置することが求められています。
加入者の利益に反し、販売手数料の高い商品に誘導するおそれがあることを踏まえたものですが、ほとんどの金融機関では専任職員を店舗に置く余裕がないのが実情だと指摘され、多くのところでコールセンターでの対応がメインになっています。
今月20日に開かれた厚生労働省の審議会では、この「兼務規制」の緩和が議題に上り、金融機関の窓口などで、専任でない営業職員でも個別商品の具体的な情報を提供できるよう、制度見直しを進めていくことになりました。
イデコ普及に向け、金融業界での環境整備を推進するのがねらいで、厚労省は、2018年度中の関連省令などの改正を目指します。
ただ、加入者の利益を守るため、個別の商品を選ぶよう推奨したり、助言したりすることは引き続き禁じる方針です。
余裕ある老後を送るなら自助努力がより必要

『イデコ(iDeCo)』は、「個人型確定拠出年金制度」を意味する「Individual-type Defined Contribution pension plan」の略称です。
「確定拠出年金」には、企業が主に掛け金を拠出する「企業型」と、個人が加入する「個人型」がありますが、イデコは、このうち、「個人型」を指し、個人が老後に備えて設定した額を積み立て、投資信託や定期預金・保険といった運用商品を自分で選びます。
運用成績によって将来の受取額が決まるしくみですが、積み立てたお金は原則として60歳までは引き出せません。
総務省が発表した「2016年家計調査年報」によると、老後の夫婦2人(夫65歳以上妻60歳以上、無職世帯)の毎月の平均的な生活費は月26.8万円なのに対し、受け取る公的年金は19.2万円。
そのほかの項目をあわせても収入額は21.3万円で、5.5万円が不足する計算です。
生命保険文化センターの「2016年度生活保障に関する調査」では、夫婦2人のゆとりある老後生活費は月額34.9万円とされ、余裕のある生活を営もうとする場合、不足額はさらに拡大します。
公的年金に頼ってのやりくりが難しく、老後準備への自助努力が必要な状況が改めて見て取れます。
「拠出」「運用」「受取」3場面で節税メリット

イデコの最大の特徴は、税制上の優遇措置です。
まず、掛け金は、全額所得控除され、所得税や住民税の対象から差し引かれて、その結果、納める税金が軽減されます。
たとえば、年収600万円の会社員が月2万円を拠出した場合、所得税と住民税の合計税率が20%だとすると、年間4.8万円分が節税になります。
さらに、運用期間中も、運用益に課税されず、もうかった分がまるまる元本として再投資に回せるので、複利効果が期待でき、期間が長いほどその効果は大きくなります。
そして、運用したお金を受取る時も、控除のしくみがあります。
一時金で受け取る場合は「退職所得」の扱いとなるほか、年金で受け取るケースでは「公的年金等控除」の適用対象となり、税金が軽減されたり、かからなくなったりします。
つまり、「拠出」「運用」「受取」の3つの段階で節税のメリットを受けられるわけです。
長期積立投資では「つみたてNISA」も税制優遇
イデコは、これまでいくつかの制度改正を経て進化してきました。
従来は、自営業者や、会社員のうち勤め先に企業年金のない人が加入対象でしたが、2017年から、会社員の妻である専業主婦や公務員も対象となり、勤め先に企業年金のある会社員も、一定の条件で利用できるようになりました。
また、今年1月からは、毎月だけでなく、ボーナス時などに、まとめて掛け金を払うことも可能になったほか、来月以降は、従業員100人以下で企業年金を持たない中小企業の場合、イデコに加入した従業員向けに、事業主が上乗せで掛け金を拠出することができるようになります。

このところ毎月3万人ずつ新規加入が増え、累計加入者は今年2月末時点で約82万人に達したイデコ。
金融機関選びでは、運用商品の品ぞろえのほか、コスト面から口座管理手数料などを比べることも大切です。
一方、長期の積み立て投資による資産形成を助ける税制優遇のしくみとしては、『つみたてNISA』も今年から始まっていて、こちらは、運用益の非課税期間が20年となっています。
高齢化の一層の進展に備え、公的年金では、受給開始を70歳以降に遅らせることを選べるようにすることも検討されています。
老後の安定した暮らしの確保にむけ、節税メリットを踏まえて、複数の選択肢を比較し、『人生100年』時代への自発的なロードマップづくりに取り組むことの重要性は、一段と増しています。