2月24日でロシアによるウクライナ侵攻からちょうど2年となる。 この2年間、ウクライナの首都・キーウから日本に向けて発信を続けてきたボグダン・パルホメンコさんが22日、関西テレビのスタジオに来てくれた。戦時下のウクライナの今を語った。

■【動画】『どこかで決断する時が来ている』 ウクライナ国民「領土を諦めてもよい」が増加

■侵攻から2年 終わりの見えない戦闘

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幼少期を大阪で過ごして日本語も堪能なボグダンさんは、ロシアによるウクライナ侵攻以降、何度もキーウから中継を結んで現地の状況を伝えてくれた。 戦時下であるウクライナから成人男性が出国するのが難しい中、ウクライナの現状や支援を日本に伝えるということで、ボグダンさんは国から許可をもらって、今回の来日が実現した。 ウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学教授の岡部芳彦さんにも加わっていただいた。

これまでスタジオから何度もボグダンさんと中継を結んで話をする機会はあったが、今回こうやって対面するのは初めてになる。

神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:何回も聞かれたと思いますが、5年ぶりの日本の地を踏んだ時、最初に何を思われましたか?

ボグダン・パルホメンコさん:残りたいなって。やっぱり本当に日本が故郷なんで。特に大阪に来たら心がぐっと。思い出がすべて詰まってますから。自分がここでずっと生活してたんだなって、今まで幻想だと思ってたのが、いま現実化したのですごく嬉しいです

キーウでずっと張りつめた思いを持った中で、日本に来て、少しホッとするような感覚はあったか?

ボグダン・パルホメンコさん:コンビニに行って、ツナマヨのおにぎりとカレーパンを食べて、それをアイスティーで飲んだ時の感触というか感覚が、本当に実家に戻ったなっていう感覚ですね

■ロシアとの戦いにおける象徴的な町の兵士から日本へメッセージ

ロシアによる攻撃でウクライナの民間人死傷者は3万人に迫り、終わりの見えない戦争のようにも思えるが、今のウクライナが置かれている状況を改めてみていく。 ボグダンさんが住んでいる場所は首都キーウだが、ウクライナ南東部4州は依然としてロシアが支配している状況だ。

そしてウクライナ軍は2月17日に、東部ドネツク州の町、アウディーイウカから撤退することになった。このアウディーイウカは、ウクライナ軍にとってどのような場所なのか?

神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:結構、忘れられている事ですが、この戦争2年ってよく言われるのですが、実はこの戦争って2014年から始まり10年目なんです。2014年にウクライナでマイダン革命があった時に、ロシアの侵略が始まって、最初ここは占領されるのですけど、すぐウクライナ軍が取り戻して、それからずっとウクライナが保持してきた町。その意味では確かにウクライナがロシアと戦ってきたという、象徴的な町ではあります

一部メディアは、2月17日だけでウクライナ兵数百人が犠牲となったと報じている。今回ボグダンさんはウクライナ国旗をもってきてくれた。国旗にメッセージが書かれていた。

ボグダン・パルホメンコさん:実はアウディーイウカの兵士に日本に僕は行くということを伝えたときに、ぜひ、日本にこの国旗を持って行ってほしいと。メッセージが書いてあって、例えば、『ウクライナに栄光』、『日本の国民の皆さまに感謝しております』、『英雄に栄光を』ということで、本当に兵士1人1人の熱い思い、エネルギーが詰まっているものです

 これを書いてくれた兵士たちは、今どのような状況なのか?

ボグダン・パルホメンコさん:本当に精神的に追い詰められていて、支援も必要なんですけど、どちらかというと、その支援で得られるエネルギーが、最後の光となって、彼らが向こうに残る意味があるというか、そこまで過酷な状況の中でずっと生活をされています

アウディーイウカの塹壕の兵士たちが、懸命にネズミと戦いながら生活している様子を撮影した映像を見ると、非常に過酷な状況の中で、まさに戦闘の最前線にいることを思い知らされる。

■学生は徴兵の"対象外" 新たに学生になった男性は侵攻前の20倍に

ウクライナにとって厳しい状況が続いているが、ウクライナ国内の実態について、気になる調査結果が発表された。 現地のジャーナリストなどでつくる団体の調査結果で、30歳から39歳で新たに学生になった男性の数は、侵攻前の2021年は2186人だったが、2023年は侵攻前の20倍になった。

ウクライナでは総動員令が出ていて兵士として徴兵されるが、学生は徴兵の対象外に。 ボクダンさんはどのように受け止めているのか?

ボグダン・パルホメンコさん:非常に現実的な数というか数字だと思っています。希望者は戦争が始まったタイミングで、全員志願して入って、それで約100万人ぐらいの兵士が加盟しましたので、戦争が長期化していて、なかなか先が見えない、何のために戦うのかというのがわからない中で、戦う意味があるのか、命をささげる意味があるのかという疑問の数字の表れだと感じています

ボクダンさん自身はこの後、徴兵される可能性はあるのか?

ボグダン・パルホメンコさん:可能性としてはあります。ただ僕は大学で軍事学科を卒業していて、少尉という階級をいただいています。少尉というのは、前線で戦わず、オフィスワーカー、指揮する方ですので、軍隊の方と相談して、今のところ(人は)足りているという部分と、そしてもう1つは2年間、一生懸命に支援をやってきたということで、できればボクダンには今の活動をそのまま続けてほしいという意向があります

兵士が足りていないという状況で、徴兵をできれば避けたいという方がいるという現状については、どのようにに感じているか?

ボグダン・パルホメンコさん:非常にそれが正しいと思います。僕自身も先日、前線から戻ってきた兵士から連絡があって、病院に入院しているから遊びにおいでよと、気楽に言われたんですけど、着いて見た彼の姿というのは、片足・片腕がない。で、彼自身はよろこんでいました。なぜかというと、男性の機能というのがまだあるから、子供が作れると。それを見た時に僕は、もう本当に何を言ったらいいのか分からなかったし、その1カ月後ぐらいに、ゼレンスキー大統領のインスタグラムアカウントで、その兵士が勲章を受け取っていたんですけれども、その勲章を受け取ったとしても、その得られたデメリットを、抱えたときに、うん…。前線に行くのは…っていう気持ちにどうしてもなってしまう

■長期化する戦争 ウクライナ人の心境にも変化「領土を諦めてもよい」

岡部さんは、この兵士のなり手がいないという状況をどのように受け止めているのか?

神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:昨年ウクライナに行った時に、大学3つぐらい行きました。9月だったので新学期で、確かに学生数が多いと大学担当者も言われていて、こういう背景もあるんだと思ったんですけど、全面戦争というのは、戦う兵士たちの為だけのものではなく、後方で支える人たちももちろん必要で、それぞれの役割によって、やれることは違うのかなと思います

さらに、ウクライナ国民には、こんな心境の変化が起きている。 ウクライナ国民の中で「領土を諦めてもよい」という意見が増加している。 2022年5月は10%だったが、2023年10月は14%、2023年12月は19%にまで増えている。とはいえ、ゼレンスキー大統領は戦う姿勢を崩していないし、まだ7割以上が「領土を諦めない」という結果がある。

ボグダン・パルホメンコさん:どこかのタイミングでやっぱり決断する時が来ていると思います。領土はもちろん完全勝利でウクライナのものに戻したいんですけど、その対価がどれくらいあるのか。そしてこのデータは全国民のデータです。この中から徴兵の対象になってない女性の意見を抜いた場合は、結果は大きく変わると思います。自分の命をささげてまで、すべての領土を戻すという国民の数は、非常に限られるんじゃないかなと思います

 岡部さんはこのデータをどうみますか?

神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:実は質問がもう1つ付け加えられてまして、ドンバス・クリミアを含む全領土となっているんです。戦争が始まった2024年の時のラインまでか、それとも全部取り戻すかというと、ちょっとそこまでじゃなくていいんじゃないかっていう。戦争前から占領されたところまで取り戻すかって言われると、そうじゃなくてもいいんじゃないかという意見が増えてきています

■停戦交渉の行方、そしてウクライナ人に求められるもの

ボグダン・パルホメンコさん:戦争が始まったタイミングでどちらも負けなんです。戦争を起こさないことが勝ちだと僕は思っていて、起きてしまったので、完全勝利パーフェクト勝ちっていうのはもう起きない。なので、今まで国民が団結するために、完全勝利だって政府はうたってきて、国民もそういう心境になってるんですけれども、ただ、もう2年のタイミングで気持ちを切り替えて、現実的な着地点というのを探して、そしてその代償がやっぱり1人1人の命、本当に多くの仲間が亡くなってますので、それを理解した上で、判断して行くことが重要なのかなと思っております

となると、選択肢として停戦という可能性もあると思われるが、停戦のあり方についてはどう考えるか?

神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:すごく難しいところで、この戦争が2014年に始まったとすると、2年前にそれがさらに激化したような形です。なので、もう一度ロシアが侵攻してくるというのを、なんとか防ぐ形が非常に重要なのではないかと。ラインではなくて、ロシアが二度とウクライナに侵略しないという事が、一番重要だと思います

 神崎デスクは、停戦交渉の行方をどう見ているのか?

関西テレビ 神崎報道デスク:去年から始まった、ウクライナ側の反転攻勢というのが、実は当初期待されていたほどの成果が出ていません。いま一部ですがロシアの優勢が伝えられる戦線もある中で、海外メディアの報道ですが、プーチン大統領がいまロシアが占領してるところでラインを引いて、そこで戦闘を休止して、停戦するという条件をアメリカ側に提示したと言われています。これをアメリカ側が拒否したというような報道が出ています。水面下では停戦に向けた交渉が行われているという事実はあるようです

 今後、どのようになっていくと考えているのか?

ボグダン・パルホメンコさん:もう一度、全てを改めて見つめ直して、具体的な現実的な終戦の仕方、停戦を含めて考え直すタイミングと、改めて自分たちが望む国はどういう国なのか、その国のシステムはどういうシステムなのか、国民の生活はどうなのか、やはりそこを考え直すタイミングが、今ウクライナの人に一番求められてるものではないかなと感じています

■今後、日本にはウクライナの復興を一緒に考えてほしい

今回、ボグダンさんはどうしても「日本の支援に感謝」を伝えたいと言う。

ボグダン・パルホメンコさん:僕自身も2年間、日本の方から多くのサポートを、応援をいただいて頑張ってこれました。日本がなかったら僕はとっくに多分諦めていて、何もしていなかったと思います。ですので、本当に今回は現状発信するとともに、どちらかというと、今までの2年間に感謝を伝えるということが、僕の目的です。そして本当に今を大切に生きてください。今ある普通というのは、普通じゃなくて本当に貴重なものですので、今を大切になさってください

 日本にできる支援にどのようなことを求めるか?

ボグダン・パルホメンコさん:復興に関しては、日本の政府が58兆円という、本当に大きなお金を用意してくださっています。それをどういうふうに使って、ウクライナを今後サポートできればいいのかというのは、日本国民とウクライナ国民、一緒になって考えるべきだと思います。ぜひそのお力添えというのを、日本の国民1人1人にいただければと思っております

日本にしかできない支援もあるはずだ。災害大国日本ならではのやり方、地雷の撤去、がれきの除去、インフラの整備などの支援を私たちも考えていかなくてはいけない。

(関西テレビ「newsランナー」2024年2月22日放送)

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