目の前に現れた大勢のたくましい肉体。コロナ禍で中止になっていた広島・三原市の「久井はだか祭」が2024年、4年ぶりに開催された。「幸運に恵まれる」といわれる御福木を求めて、男たちの熱気が戻ってきた。
「御福木」を手にすれば幸運が…
三原市久井町で古くから地域の人に親しまれてきた久井稲生神社。
この記事の画像(18枚)1000年以上の歴史を誇るこの場所で行われるのが、広島県内で唯一の「はだか祭」。さらし姿の男たちが福を求め、意地と意地をぶつける。無病息災と五穀豊穣の願いが込められた、陰・陽2本の「御福木」を奪い合う姿は壮観である。
久井稲生神社 宮司・前田益弘さん:
御福木をとった人はその1年恵まれる、幸せな年になるといわれています。4年ぶりの開催ですから地元の人も期待しているのでは
4年ぶりの会場準備に戸惑いと期待
祭り開催まであと1週間となった2月11日。久井町の地域住民が中心となって境内にやぐらを組み立てていた。コロナ禍もあって4年ぶり。思い出しながらの準備である。
やぐらを組み立てる住民:
ここでええかの?大丈夫?
悪戦苦闘の末、なんとか形になった。
一方、神社のふもとでは、神社までの道をちょうちんで飾りつけ。なじみの顔がそろうのも地域の祭りならでは。大変な準備にも自然と笑い声が響く。
地域住民:
待ちに待ったという感じですかね。コロナ禍で何もできなかったので、はだか祭で一気にうっぷんを晴らすというか。これで町が盛り上がってくれたらいい
極寒の行水、参加者の思いさまざま
そして迎えた17日、祭り当日。
「わっしょい!わっしょい!」
さらし姿の男たちがまず向かった先は、川から水を引き込んだ桶。気温は1度。身を清め、気持ちを引きしめるために真冬の水をかぶった。
「うおー!」
悲鳴のような雄叫びが上がる。祭りへの気合十分だ。
境内に裸の男たちが続々と集まってきた。この日は総勢160人が参加。
「福木がとれますように」と手を合わせる人。それぞれが、さまざまな思いを抱いてここにやってくる。
広島市内から初参加:
三原にこんな面白い祭りがあると知り、広島市内に住んでいて参加しない手はない
格闘技ジムのオープンに向けた“景気づけ”だという筋肉隆々の男性は…
総合格闘技の経験者:
裸一貫でこれまでも戦ってきたので負けない気がします
岡山から団体で参加:
チーム内に大病を患っている仲間がいまして、元気をつけてもらいたいという思いで参加しました
熱気の渦! 福男になるのは誰だ
午後9時、ついに「はだか祭」がスタート。
福をもたらす「御福木」は2本。陰と陽の2回に分けて投げ込まれる。それを手にし、祭りのスタッフに渡した者だけが福男になることができるのだ。今か今かと待ち構える男たちの群れに、赤い布に巻かれた福木がやぐらの上から舞い降りた。
裸とはいえ、肉体と肉体のぶつかり合い。時折、バケツの水をかけることによって肌の摩擦を抑える。
「バシャーン」
冷たい水も男たちの体温と熱意で白い蒸気となり、辺りに立ちこめた。
参加者:
逃げた!持って逃げたぞ~!
一瞬のすきをつき、1人の男が集団を抜け出したがすぐに見つかってしまった。
そして、福木の投入から約20分。男の手には、棒状の赤い包みが…。受け取ったスタッフによって、福木が本物かどうかすぐさま確認された。
「間違いないです」
福男「4年ぶりで気合が入っていた」
4年ぶりの「はだか祭」で福男となったのは、岡山から参加した男性。
陰の福木をとった福男・難波信雄さん:
4年ぶりで気合が入っていました。絶対とるぞという気持ちで
福木に巻かれていた布は、ひっぱりあう中でちぎれるため、その切れ端をみんなで分け合う。これぞ「幸せのおすそ分け」である。
参加者:
御福木の布切れだけをもらいました。今年はいいことがありそうです
参加者:
すごかったですね。来年は尻に筋肉をつけて出たいです
参加者から伝わる爽快感。福男を逃した人も笑っていた。「久井はだか祭」の伝統は、男たちの熱気とともに受け継がれていく。
(テレビ新広島)