能登半島地震を受け地震防災対策の強化を迫られる各自治体。中でも東京都は、今後想定される首都直下型地震や南海トラフ巨大地震への防災対策は、万全なのだろうか?

都庁のデジタル化を推進する元ヤフー会長・宮坂学副知事に、都が進めている“デジタルの力による防災対策”の現状を聞いた。(聞き手:フジテレビ解説委員 鈴木款)

「つながる東京」を目指した通信手段強化

――能登半島地震を受けて防災に対する意識が高まっていますが、都の防災対策のデジタル化はどこまで進んでいますか?

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
今回あらためて「つながる通信」が大事だなと実感しました。東京都ではこれまでも、いつでも・だれでも・どこでも・なんでも・何があっても「つながる東京」をつくろうとしてきました。例えば、離島では海底ケーブルを強靭化してきたほか、「TOKYO FREE Wi-Fi」を国際規格の OpenRoaming Wi-Fiに切り替えています。また災害にも備えて、250箇所の都有施設では OpenRoaming 対応Wi-Fiの整備を進めています。

宮坂副知事「スターリンクの配備を予定」
宮坂副知事「スターリンクの配備を予定」
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――能登半島の被災地では通信手段の確保のためスターリンク(※)の活用が注目されました。(※アメリカの宇宙事業会社スペースXが開発している、人工衛星による通信サービス)

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
都では去年からスターリンクを導入し、すでに伊豆諸島運航の大型客船や奥多摩町のキャンプ場、東京マラソン2023で実証実験が行われました。新年度予算でも、全区市町村にスターリンクの配備を予定しています。

デジタルと宇宙の眼、民間データの利活用

――災害が起きた際には一刻も早く現場の状況を把握することが求められます。

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
現場で何が起きているかを把握するため、デジタルの眼を使うことが大切です。都内全地域を高精度にスキャンした点群データを持っています。これによって災害時に再スキャンをかけてこれまでのデータと比べることで、すぐにどの地域がどのぐらい崩れているか高精度で把握できます。また、東日本大震災時と比べて大きく違うのが衛星の活用です。衛星写真はより高解像度になっていますし、レーダーを使って地表を観測できるSAR衛星も現れました。

点群データで被災状況を確認する(写真提供:東京都)
点群データで被災状況を確認する(写真提供:東京都)

――行政による民間データの利活用も大きく変わりましたね。

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
去年セブンイレブン・ジャパンや日本郵便とデータ活用の実証実験を行いました。例えばコーヒーマシンの稼働データから水道の状況を把握したり、配送車の走行データを使うことでどの道路が寸断されているのかが分かるようになります。こうした宇宙の眼と民間データの利活用によって、災害時に何が起きているのかを立体的に把握できるのではないかと大きな可能性を感じています。

――能登では自主避難も含めて誰がどこに、何人ぐらいいるのか把握が難しかったことが大きな課題になっていました。

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
これは今後進めないといけないと思っています。1つの可能性として検討すべきだと思っているのはスマホの活用です。東日本大震災時はスマホの普及率はまだ15%程度でしたし、LINEもありませんでした。いまスマホの所持率は9割です。これを災害時に行政がどう使うのかはすごく重要だと思います。またマイナンバーをどう活用するかも課題です。デジタル庁の実証実験では、マイナンバーを使って避難所にチェックインすると受け入れ手続きの所要時間が9割以上減ったそうです。

子育て世代をデジタルの力でサポート

――次は、都が推進する「こどもDX」について教えてください。

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
「つながる子育て」がこどもDXのキーワードですが、これまでは国と都、区市町村のシステムがつながっておらず、 “切れ目ない政策”はできていてもシステムが切れ目だらけになっているから、お子さんの成長ステージに応じて親御さんは何度も窓口に行かなければなりませんでした。これを解消するために、国、都、区市町村が切れ目なく手続きできるように、デジタルの力でサポートしようとしています。

――多くの支援や給付の政策がある一方で、子育て世代にはその情報が届かないという不満もあります。

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
デジタルリテラシーが高い子育て世代でも、“もらいそびれ”というケースがあります。都の調査では、これまで行政からの給付金をもらいそびれた経験のある人は、18%だそうです。こうしたことがないように、都ではよりプッシュ型の情報発信をしていこうと思っています。

グルメサイトのような都のデジタルサービス

――以前宮坂さんは「行政サービスは永遠のβ版」とおっしゃっていました。サービスには質の向上が常に求められますね。

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
これからの都のデジタルサービスには、グルメサイトのように利用者からフィードバック、レビューや点数をもらう仕組みを取り入れます。職員が1個ずつレビューに目を通し、サービスを改善していきます。確かに利用者の声を聞くのは怖いですが、聞いて直していくサイクルをつくれば、必ずサービスの質が上がりますね。

宮坂氏「行政がすべてのサービスを自前で提供する時代ではない」
宮坂氏「行政がすべてのサービスを自前で提供する時代ではない」

――最後に GovTech(※)など官民連携を、今後どのように進めていこうと考えていますか。(※「Government (行政)」と「Technology (テクノロジー)」をかけ合わせた言葉)

元ヤフー会長・宮坂学副知事:
行政がすべて自前で、アプリやウェブを作って提供する時代ではないと思うんです。都でもプッシュ型で都民に情報を届けたい時は、LINEを使うことが増えました。民間企業の皆さんは、利用者をたくさん集めることが上手なので、その力を活用させてもらうという発想は、これからすごく大事だと思っていますね。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。