世界が、中東やウクライナでの対立に注目するその陰で、北朝鮮が今までとは違った動きを見せはじめている。北朝鮮は今年に入り、巡航ミサイルの発射実験をすでに4回実施、新しく開発したミサイルには、核弾頭も搭載できると主張している。

■これまでの「祖国統一」から一転、韓国は「第一の敵対国」

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また、これまで「祖国統一」を悲願としてきた北朝鮮だが…。

北朝鮮 金正恩総書記:大韓民国という最大の敵国が、われわれの最も近い隣国に併存している特殊な状況で…。

金正恩総書記は1月、韓国を「統一の対象」ではなく「第一の敵対国」と位置づける考えを表明した。

北朝鮮の首都・平壌にある、南北統一を象徴する記念碑を「見苦しい」として撤去するよう指示し、記念碑は1月23日までに破壊されたもようだ。

その一方で日本には突然、融和的な態度を示していて、1月、金正恩総書記からこんなメッセージが…。

北朝鮮 金正恩総書記:日本で不幸にも年初から地震で多くの人命被害と物的損失が発生したとの知らせに接した。一日も早く被害を解消し安定した生活を取り戻すことを願う。

能登半島地震を受けて岸田総理に見舞いの電報が送られた。
東日本大震災の時にはこうしたメッセージはなく、金正恩総書記の狙いは、不明だ。

そして、さらなる変化を象徴するのは、たびたび金正恩総書記が視察に伴っているジュエ氏とみられる娘の存在。

国営メディアはジュエ氏を「朝鮮の新星・女将軍」と呼んでいて1月、韓国の国家情報院は「現在のところ、有力な後継者とみられる」との見方を初めて示した。

果たして、北朝鮮と韓国の対立は激化するのだろうか?そして拉致問題を抱える日本との関係に変化はあるのだろうか?

■国内情勢の崩壊 「国民の幻想を打ち砕き、反体制の動きを封じる」が目的

異例の巡航ミサイル実験、そして韓国とは決別、一方で日本にはお見舞いなど、2024年の北朝鮮の変化について、龍谷大学教授の李相哲さんに聞く。

今年に入って、すでに4回も巡航ミサイル実験が行われているが、これは異例なのだろうか?

龍谷大学教授 李相哲さん:これは異例で、巡航ミサイルは障害物をよけながら飛行機のように飛んで、正確に目標物を打撃する兵器です。北朝鮮は巡航ミサイルに核弾頭をつけるつもりで、戦略巡航ミサイル実験をしたということですから、これはとても危ないです。

さらに平壌に南北統一を象徴する、「祖国統一 三大憲章記念塔」という高さ約30mの大きな建造物があったが、1月15日、金正恩総書記が演説で「見苦しく立っている」と述べたことを受けて、1月19日から23日頃、破壊された。北朝鮮にとって非常に意味のある建造物だったのではないだろうか?

龍谷大学教授 李相哲さん:お父さんが作った物で、それを破壊したということは、完全にお父さんが追求していた統一の路線、それを完璧に大転換するという意味です。これまで北朝鮮は民族が団結して平和裏に統一を実現すると一貫して、統一を追求してきましたが、先代が追求してきた、この統一路線を完全に否定して、韓国はもはや同族でもなく、われわれの第一の敵国だと言っています。

なぜ最近、北朝鮮は韓国を敵視しているのだろうか。 李相哲さんは「北朝鮮国民の韓国への幻想を打ち砕き、反体制の動きを封じるため」とみているそうだ。

龍谷大学教授 李相哲さん:北朝鮮経済は完全に破綻しています。内部がガタガタだけれども、これまでずっと我慢して、飢えに耐えてきましたが一向に生活は良くなっていません。そんな中で韓国の文化が入って『やっぱり韓国すごいな』と幻想を持っている人たちがいて、『いつかは一緒になりたい』と。それを完全に遮断するという意味合いがあったと思います。

 

■北朝鮮の若い世代は韓国に憧れも国は厳しく取り締まり、罰則は最悪死刑も

特に若い世代に心の変化が分かる映像がある。

北朝鮮の平壌で行われたという公開裁判の様子では、屋外の広場に大勢の若者が集まる中で、警察官とみられる人物が、16歳の少年2人に手錠をかけた。この2人は、韓国の映画やドラマを見たり、周りに広めた罪に問われた。判決は、12年の強制労働が科される懲役刑だった。

北朝鮮で公開されたこの映像には、「韓国の映像が学生たちにまで広がり、不健全な思想文化の犠牲になっている」という説明がつけられていたが、具体的にはどのような映像なのだろうか?

龍谷大学教授 李相哲さん:この2人は、韓国のドラマと映画を自分たちが見ただけではなくて友達にも見せた。一部、流布したということです。(Q.韓国のドラマや映画が入ってきている?)いろいろなルートからUSBに入れて、商売をしている人たちがそれを持っていて、売っています。とても高いらしいけれども。ただ、北朝鮮が気にしているのは、この若い世代が今までの世代と違って、国から恩恵を受けたことがないんです。これまでは配給とかで、いろんなものをもらっていたけれども、彼らは生まれつきそんなことはなく、だから国に対する忠誠心が非常に低い。そんな中で、韓国がすごいっていうので、韓国に憧れてますので、このままほっておくと、もう大変なことになります。国が緩んで、忠誠心が低下して、どうなるか分からない。そこで最近は、厳しく取り締まるために、『反動思想文化排撃法』つまり韓国文化を排撃する法律を作って、深刻な場合は今回のように12年だけではなく、死刑もあり得るという法律を作っています。2020年に作って、改定を1回して、今実施されているんですけれども、その法律に基づいて、12年刑が言い渡されています。

どうしてこれだけ若者への締め付けを強くしているのだろうか?

龍谷大学教授 李相哲さん:やっぱり若い人たちがかつての世代と違って、国の言うことを聞きません。聞かなければ国の秩序が乱れて、今までわが国が一番だと国が情報を全部遮断していたのが、若い人の中に韓国に対する憧れが広がると、反発する可能性があります。だからそれを今のところ、完全に押さえつけたいと。(Q.情報が入ってくるのを止められない状況?)中国がひそかにUSBを持ち持ち込んで、それを高く売って、それをコピーして売って、それで広がっているという状況です。だからこそ見せしめのような形で、制裁する法律まで作って厳しく取り締まっているという状況です。

■韓国は「第一の敵国」、核兵器の使用も視野に

さらに、北朝鮮では、他にも韓国への敵視に関する異変があった。

異変が見られたのは、天気予報で使われる地図だ。北朝鮮ではこれまで、テレビの天気予報で韓国を含む朝鮮半島全体に色を付けた地図を使用していたが、1月16日からは、北朝鮮の部分だけに色を付けた地図となった。15日に金正恩総書記が韓国を「第一の敵国」と発言した後に、こうした変化が見られた。

龍谷大学教授 李相哲さん:今までは北朝鮮の人々も韓国もいつかは一緒に豊かになるという幻想をもっていましたが、その幻想を遮断するのと、北朝鮮は核兵器を持っていて、今までは『わが民族には使わない、アメリカに対して作った』と言ってきましたが、敵国だと言った以上は、韓国にも核兵器を使う可能性があると、そのような意味も含まれていると見るべきですね。

巡行ミサイルの実験を行ったりすることは、自分たちの兵器の力を見せつけている事になると思うのだが、それは自分たちが兵器を使用する目的なのか、それとも兵器を輸出するための宣伝なのか、どちらだろうか?

龍谷大学教授 李相哲さん:巡航ミサイルに限って言えば、ロシアとかの方がもっと進んでいますし、巡行ミサイルは非常に高額です。だから量産して売ることはおそらく難しい。なので自分たちの軍事力を誇示して、韓国を落とすという目的があると思います。

■能登半島地震に電報…「対話のチャンス」となるのか

そのように韓国を敵対視する一方で、最近、日本に対しては、どのような動きがあったのだろうか。

1月1日に起きた能登半島の地震を受け、金総書記が岸田総理に電報を送った。その内容は「被災者が一日早く被害を解消し、安定した生活を取り戻すことを願う」といったものだが、北朝鮮の最高指導者から日本の首相に公にメッセージが送られたケースはなく、極めて珍しい事だ。 日本政府は、この電報をどう受け止めているのだろうか?

関西テレビ 加藤報道デスク:その翌日に、林官房長官が記者会見で感謝の意を表したいということは言いましたが、まだその時点では返答していないですし、返答するかどうかも、ここでは答えは差し控えるということだったので、いま日本政府としては何もアクションを起こしていないのではないかと思います。ただ、北朝鮮の最高指導者が送るのは今回が初めてですけど、過去にも実は阪神淡路大震災の時にNo.2とされる人物から、当時の村山首相宛てにメッセージが届いたことはありました。しかし金正恩総書記から送られてくるというのは、初めてなので、日本政府の対応は苦慮しているのではないかなと。

その意図を慎重に分析しているという段階だということだ。金正恩総書記の思惑は何だろうか?

龍谷大学教授 李相哲さん:1つは自分は普通の国の、普通の指導者だということを世界にPRする。それから、いま日米韓が緊密に連携して北朝鮮対応しています。そんな中でやっぱり足並みを乱す必要がある。その時に一番、北朝鮮の話に耳を傾けそうな国が日本です。だから日本をターゲットにして、足並みを乱すという本音が見え隠れしています。(Q.日本への姿勢を変えつつある?)ただ、全体の構図からすると、金正恩は今まで日本に全く関心を示さなかった、それが日本のことを気にしてるということですから、話し合いができるチャンスが来たと見てもいいかもしれません。

日本は大きく姿勢を変えつつある北朝鮮に対し、どう対応すればよいのだろうか。 李相哲さんは「今こそ対話の糸口をつかむチャンス!」と言う。

龍谷大学教授 李相哲さん:あまり時間がないです。拉致被害者の家族が、存命中に解決しなければならないので、本当にほんの少しの可能性があれば、日本はそれを利用するというか、それをキッカケに対話の糸口をつかむ必要があります。水面下でしたたかに交渉しながら、表向きでやっぱり毅然と対応していれば、北朝鮮が寄ってくる可能性があります。(Q.大きな一歩と考える?)金正恩総書記が日本に関心を示して、電報まで打ったということは、対話のチャンスがやってきて、日本も検討するということですから一歩前進と見ていいのかもしれない。

日本にとっては逆にチャンスということだが、困難を極める拉致問題の解決が、一歩前進することを願いたい。

■クーデターは難しいが、人民蜂起の可能性はある

視聴者からLINE質問が来ている。

‐Q:ジュエ氏は後継者となるの?
龍谷大学教授 李相哲さん:候補者の一人ではありますけれども、後継者に指名されたということは、正しくないですね。ただ、今のところは次世代に権力を委譲するというメッセージが強いのは確かです。

‐Q:金総書記は病気ではなかったのか?健康問題は解決したのか?
龍谷大学教授 李相哲さん:解決していません。169センチの身長に146キロもあります。ですから、普通に考えても病気だらけです。心臓病に糖尿病もあると言われていますし、足首も故障して杖を付いていた時もあります。ただ、それでも若いし、北朝鮮は彼のための長寿研究所があり、お医者さんは数千人いると言われている。ただ彼はお医者さんの話を聞きません。スイスのチーズが大好物で、一晩にワインを10本も飲んでると言われています。それは健康的ではないですよね。だから専門家の中でも、寿命は長くないだろう…と言う人もいる。

‐Q:クーデターが起こったりしないのでしょうか?
龍谷大学教授 李相哲さん:クーデターは軍が起こさなければなりませんが、北朝鮮の軍編成を見ると、数10人を動かすにも、170人ぐらいのサインがいるといわれているぐらい厳しいです。だから軍がクーデターを起こすことはできませんが、人民蜂起が起こる可能性は、少し出てきたのかなと思います。1月に、北朝鮮から中国に出稼ぎに行ってる労働者3000人が暴動を起こして、北朝鮮幹部を1人殺して3名がけがしたというニュース、情報があります。それが国内にどのように影響するのか。国内では外部とは接続できませんが、国内でお互いにメッセージをやり取りできるスマホがあります。なので、一定程度の人びとを集めて蜂起することも可能で、すでに北朝鮮内部で反体制組織、いわゆる党を旗揚げしたという事件が起きています。これは、かつてなかった動きですので、少しそのような兆しもあります。

今までと違う動きを見せる北朝鮮に、今後もこれまで以上に注意が必要だ。

(関西テレビ「newsランナー」2024年2月6日放送)

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