首位を独走し、優勝マジックを22とした阪神。
藤川監督がチームの心臓と話すリリーフ陣の大黒柱・石井大智投手は17日、『40試合連続無失点』のプロ野球新記録を樹立しました!
『ナンバーワン』の記録を打ちたてた裏にはプロ野球では珍しい、技術者養成を目的とした、5年生の高等専門学校=「高専」を卒業したという、『オンリーワン』の野球人生がありました。
■秋田出身・東日本大震災で「地震に強い住宅づくり」建築士志し高専進学も…
【石井投手】「中学校1年生の時、東日本大震災がありまして、秋田出身なのでもろに被害を受けたんですけど、地震に強い住宅づくりをしたいなと思って」
建築家を志して進んだ道でしたが、心の中にあったのはもう一つの夢、「プロ野球選手」になりたいということ。
18歳の時に中学時代のチームメートがプロ入りし、『自分も同じ舞台に立ちたい』と、小さなころから抱いていた夢を追いかけることを決めました。
ゼミの担当教員だった寺本教授は、高専生としては異例の決断に最初は驚いたといいますが、その貪欲な姿勢を見て応援することを決めたと話します。
【秋田高専 寺本尚史教授】「驚きました。高専からプロ野球に行きたいという学生が出ることもなかったし、彼は成績も良かったので、就職すればいい会社にいけました。そこを捨てて厳しいプロの道に行きたいという話をしたので、かなり覚悟を決めたんだろうと思います」
■独立リーグ・高知に入団 努力重ねドラフトでは12球団の支配下で最後に呼ばれる
当時のことを石井投手は、「野球を仕事にしたいと決めてからは、1日1日を大事にしました。日々成長の時間に充てられたことが大きかったです」と話します。
高専での卒業研究も全うし、夢を追いかけて独立リーグの高知ファイティングドッグスに入団。
給料は技術者として就職した同級生の半分にも届きませんでした。
それでも努力を続け、独立リーグ挑戦から3年後の2020年、阪神からドラフト8位で指名を受けます。
支配下選手では12球団で最後に名前を呼ばれました。
【石井投手(2020年ドラフト指名後の会見)】「僕のピッチングスタイルはまっすぐで空振りを獲る投手。今年引退される藤川球児投手もそういう投手だったので、藤川球児投手を目指して頑張っていきます」
■投球術に生かされている!「物理学や構造力学」
憧れの藤川監督が持っていたセ・リーグの連続無失点記録を超えた石井投手。
ストレートは抜群の強さを誇り、バッターを圧倒!
そのボールの力強さの秘密は高専時代の学びでした。
【石井投手】「物理学や構造力学は、すごく野球と繋がる部分があるのかなと。『ボールに対してどうエネルギーを伝えていくか』で、行き着いたのが『力積』を大きく使っていくと。
『力積』は『力×時間』でエネルギー量になるんですけど、『F(力)』を『T(時間)』で積分するんです。『T(時間)』の長さをどれだけ長くできるか…」
難しい内容になってきたので、わかりやすくかみ砕いて話してもらいました。
【石井投手】「僕の場合、リリースポイントを作らないようにする。ゼロから100%で投げる人いると思うんですけど、自分の場合は『ずっと80%の力を長い時間ボールに伝えていく』みたいなイメージです」
まさに、マウンド上の物理学者!?そんな理論派である石井投手は、「チームで一番野球が下手と思って練習に取り組んでいる」と自身を分析。そのことが活躍につながっていると話します。
【石井投手】「チームの中で一番野球が下手だと思っているので、負けないように頭を使って、トレーニングも相手の分析もしっかりやっていかないと、他には勝てないなと」
体格にも恵まれず、エリートとは程遠い野球人生だったからこそ、誰よりも考え、コツコツと努力を重ね、トップまで上り詰めてきました。
キャンプでは自分で購入した機械を持参。とことん自分のボールを分析する姿がありました。
■バッターとの駆け引きは「研究? それに近いかもしれない」
今シーズン、最も考えているのがバッターとの駆け引き。自分の分析だけではなく、相手バッターを徹底的に研究しています。
【石井投手】「ゼロに抑える確率をどれだけ上げられるかだと思うので、『今日はこういう考えでいったけど失敗した。じゃあこうじゃないのかな』(と考える)。『こういう考えでいって成功した。もう一回やってみよう』(そうしたら)『成功した。その確率は高いのかな』と(考える)」
(Q.野球をしながら実験をしている?)
【石井投手】「それは近いかもしれないですね」
地道な努力の積み重ねで、プロ野球選手として前人未踏の領域にたどり着いた石井投手には、高専の後輩に伝えたいことがありました。
【石井投手】「自分が『頑張っている、努力している』と思うのは、すごく意味のないことだと僕は思っていて。日々の積み重ねをしている中で、努力は周りが評価してくれるもの。自分で感じるものではない。今の時間を大事に頑張ってほしいです」
■『40試合連続無失点』新記録も「なんにも思っていない」「監督を優勝監督に」
プロ野球新記録の『40試合連続無失点』。その数字こそ、どんな言葉よりも努力を証明しています。
大記録にも石井投手はいつものように冷静でした。
(Q記録達成の思いは?)
【石井投手】「なんにも思っていないです。 本当に自分だけの力ではないので、タイガースで良かったなと思います。
このまま勝ち続けて、藤川球児監督を優勝監督にしたいなと、ブルペン陣全員がそう思っているので、これからの試合も頑張りたいと思います」
(関西テレビ「newsランナー」2025年8月18日放送)