白衣ではなくジャージ姿で山間部を駆け回る医師。過疎地の医療に貢献している医師を表彰する「やぶ医者大賞」を受賞した佐賀・唐津市の43歳の男性は、「空気くらいでいいですよ」と“まち医者”の生き方を語る。

過疎化進む山間部の診療所

「七山診療所」佐賀・唐津市
「七山診療所」佐賀・唐津市
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佐賀・唐津市七山の山間部にある「七山診療所」。過疎化が進むこの地区では唯一の診療所だ。

診療所の受付に置かれている賞状。そこには“やぶ医者の証”と書かれている。

“やぶ医者”大賞を受賞した医師とはどのような人物なのだろうか。

ジャージ姿の“まち医者”

中を覗いてみると、白衣を来た医師はどこにもいない。治療にあたっているのはジャージ姿の男性。

この男性が“やぶ医者”大賞を受賞した七山診療所の所長、阿部智介さん(43)だ。父親が開業した診療所を12年前に引き継ぎ、住民に寄り添う“まち医者”として医療活動を続けている。

七山診療所 阿部智介所長:
育ててくれたこの地域を、七山を守っていくというのは僕自身の役目というか、恩返しというか。父が一生懸命守ってきたものを僕も守っていかないといけないと思っている

「やぶ医者大賞」とは

「やぶ医者」はいつごろからか「下手な医者」を意味するようになったが、もともとは兵庫・養父市の名医を指す言葉だった。
語源となった養父市では10年前から過疎地の医療に貢献する50歳以下の医師を「やぶ医者大賞」として表彰していて、阿部さんは去年(2023年)、佐賀県で初めて”やぶ医者”に選ばれた。

診療所には張り詰めた空気はなく、患者の表情もリラックスしている。治療に訪れた地元の患者は、「小さい頃から来ているから、友達と話しているみたい」と阿部さんの人柄を笑顔で語った。

通院できない患者の「訪問診療」

阿部さんは外来診療だけでなく、移動手段がない患者の「訪問診療」も行っている。
この日、最初に訪れたのは診療所から車で約15分の高齢夫婦の家。

阿部さんの「訪問診療」
阿部さんの「訪問診療」

耳元で丁寧に言葉を交わしながら診察していく。それはまさに患者に“寄り添う”医者の姿だった。
通院が難しくなった患者にとって訪問診療は欠かせない。阿部さんの訪問に高齢の患者は感謝の表情を見せた。

阿部さん:
良い年を過ごして。よき96年目を迎えましょう
高齢の患者:
先生からそう言っていただいてありがとうございます。サンキューベリマッチ

原動力になっているのは自身の性格だと阿部さんは言う。

阿部さん:
人間なので病気だったり老化だったり、いろいろなことで病院に来られなくなることが絶対あるわけで。医療が途切れてしまって状態が悪くなってしまう、そっちの方が僕にとっては我慢できない。だったら、来られないならこっちから行くだけですよね

元気なうちに“生き方”計画を

阿部さんの活動はそれだけではない。
将来自分が受ける医療や介護を元気なうちに計画しておく「アドバンス・ケア・プランニング」の普及にも取り組んでいる。

この日は、唐津市で約20人を対象に人生の最終段階をどこで迎えるのか、家族に何を残せるのかなど、自分らしく生きることについて講演し、“いきかたノート”作成の意義を説明した。

阿部さん:
死に方を考えようというのではなく、あくまで自分が自分らしく最期までどうやって生きていくのか。意識がないような状況、意思疎通が難しいような状況でも自分自身が最期までどうやって生きていきたいのかという自分の生き方を伝えるノートと思ってもらえれば

参加者:
元気で生きていくために(ノート)を書こうと思います。家族も迷わないかなと思います

“まち医者”としての生き方

阿部さんが定期的に回る訪問診療の患者は約140人。診療所へ戻ると休む間もなく外来患者を診察する。

阿部さんが考える地域の医師、いわゆる“まち医者”のあるべき姿とは何かをきいた。

阿部さん:
空気くらいでいいですよ。あんまり目立つことではないと思いますし、別に普通にいるなという。逆に空気というのはなくなると大変ですから。自然にそこにいるのが当たり前という、かかりつけ医として、そういった立ち位置にいられればいいのかなと思います

(サガテレビ)

サガテレビ
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