末期がんで余命2年を宣告されたものの、闘病生活はすでに7年目。3人の子どもを持つ女性は、体が動く限りキッチンカーに立ち続ける決心をした。“記憶に残る”母親になりたい...。その気持ちが病と闘う女性を支えている。

病と闘うキッチンカーの女主人

「この体が動く限り、最後までやり遂げたい」
佐賀・みやき町に住む秋吉由紀さん(45)がそう覚悟を決めたのは、2022年の夏、44歳の時だった。秋吉さんはステージ4のがんと闘いながらキッチンカーでの移動販売を続ける、3人の子どもを持つ母だ。

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秋吉由紀さん:
この瞬間が“やりがい”。また来てもらって、そこからまた話ができていって、新しい友達ができて、ずっと広がっていくところが最高に面白い。「もっと生きたい」と思いますね、本当に

鮮やかなピンクが目を引くキッチンカー「ユキチャンキッチン」。土日を中心に、県内のイベントやJR中原駅の前で出店している。

買いに来た人(女の子):
ん~~おいしい!イチゴがどーんと乗っていてびっくりした

買いに来た人(男の子):
大体家族で、友達と来る時もある! 好きなクレープはマンゴーです!

人気メニューはホイップたっぷりのクレープ。子どもたちが小遣いで気軽に買えるよう、ワンコインで販売するのが秋吉さんのこだわりだ。

すでに末期「余命2年」の宣告

元々、調理師として働いていた秋吉さんは30歳で夫の敬介さんと結婚し、3人の息子を授かった。しかし、2015年、胃の痛みで病院に行くと、胃がんと乳がんが発覚。すでに末期のステージ4まで進行していて「余命2年」の宣告を受けた。

秋吉由紀さん:
がんという意味が全然最初は分からなかったですよね。「何で私ががんになるんだろう。そんなの嘘。こんなに元気なのに、嘘だ。ちょっと胃が痛いくらいだから嘘だ」というのが現実だったんですよね

秋吉由紀さん:
死ぬまでにしたい100のことを書くノート。これを見つけて、がんセンターで

「死ぬときはそばにいてほしい」、「いつまでもカワイイママでいたい」など、秋吉さんが夢をつづったノート。84のリストの中で一番初めに書かれていたのは「飲食店を営む夢」だった。

秋吉由紀さん:
やっぱり私はここで死ぬわけにはいかない。やりたいことをやって、どうせなら死にたい。あと何カ月どれだけ生きられるか分からないけれども、夢が膨らんでいった。そこからどんどんキッチンカーに行く道に...

退院した後、体調を見ながら2022年7月にキッチンカーでの販売を決意。ついに9月、その夢が実現した。
闘病生活が始まって7年目。余命宣告を5年以上超え生きているのは珍しいという。月1回の定期健診には夫の敬介さんも同行する。

――キッチンカーの販売はどう思う?

夫・秋吉敬介さん:
常に一生懸命なのが本人らしい。病気のことを忘れて、気がまぎれるならそっちの方が...

秋吉由紀さん:
主人もやりたいようにやるので、次は私の番かな。最後の1回だけのお願い

定期健診の結果を受けて、秋吉さんは今後の治療についてある決心をする。

がん転移の疑い…治療法でも葛藤

定期健診の翌日、結果が出た。

医師:
ちょっと良くなかったかな。文面でいうと変わっているのはここだけで、盲腸のあたりが腹膜播種(がんの転移)の疑いがあります。今の治療をもうちょっと続けてみるか、抗がん剤に変えるかというところ

秋吉由紀さん:
実際は、抗がん剤に変わった方が体は楽?

医師:
すごく悩ましい。難しいというところは“変え時”。いずれは必ずホルモン療法が使えなくなって抗がん剤に変わらないといけないけど、抗がん剤も飲み薬の楽な抗がん剤から、だんだん髪の抜ける抗がん剤に変わっていく

2022年、大腸へも転移が見つかり、体重が激減した秋吉さん。しかし、体調に大きな変化がないこと、5月に大きなイベントを控えていることを考え、今のホルモン療法を続けることにした。

診察結果はあえて息子たちには伝えない。「男の子はすぐ心配するから」と秋吉さんは話す。

夫・秋吉敬介さん:
(今は)とにかくとことん自分がやりたいことをやって、いつ来るか分からんけど、その時は「自分は悔いなく亡くなれた」と思ってもらえればいいかなと思って、今もずっと見ているような感じ

秋吉由紀さん:
検査はいい時もあるけど波があるので、数値が悪くても後で良くなったりもする。それを信じて

診察結果が悪かった中、なぜキッチンカーを走らせるのか。そこには母として、生きている間に実現したい最後の夢がある。

秋吉由紀さん:
子どもたちとずっと一緒にいてあげることはできないと思うので、子どもたちの友達とか、そこにまつわる人たちが私のことを思い出して、笑って、ひと時を過ごしてくれたらいいな。「記憶に残る」...。私はいてあげられないけど、その分友達がいてくれる。(私の)思い出が残ってほしいなと

地域の人たち、そしてわが子の“記憶に残る”。それが母としてできる最後の贈り物だと考えている。

秋吉由紀さん:
闘病生活が続くので、こういう元気な姿が見られないかもしれないけれども…できるだけキッチンカーに立ってみんなに笑顔を届けていけたらと思います

(サガテレビ)

サガテレビ
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