リニア中央新幹線をめぐり、静岡県の川勝平太 知事が部分開業などを主張していることを受け、JR東海が1月24日に会見を開いた。川勝知事の持論に対してこれまで静観を貫いていただけに極めて異例のことだ。

我慢ならず?異例の“反論会見”

「年末年始にかけて当社が進めるリニア中央新幹線について、静岡県知事から様々な発言があった。ただ、リニア中央新幹線の計画内容や事実関係と異なると思える点が多くある。非常に大きなプロジェクトであり、影響もあるということで、誤解がある、誤解を与える状況になっており困惑している」

「困惑している」と述べた木村専務執行役員(1月24日)
「困惑している」と述べた木村専務執行役員(1月24日)
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1月24日にJR東海・静岡支社で行われた会見。木村中 専務執行役員は冒頭このように述べた。

品川・大阪間の全線一括開業を完全否定

木村専務執行役員がまず指摘したのは1月4日に行われた年頭会見での川勝知事の発言だ。

リニア中央新幹線について、JR東海が品川・名古屋間の開業目標を「2027年」から「2027年以降」へと変更したことを受け、川勝知事は「2027年という数字が実質消えたので、2037年までに東京から大阪までの全線開通というのが残された最後の期限」と主張。

川勝知事の年頭会見(1月4日)
川勝知事の年頭会見(1月4日)

これに対し、木村専務執行役員は「品川・大阪間を全線一括で開業するという趣旨だと思うが、品川・大阪間を一括して工事を進めることは経営的にも、工事をやっていく能力からしても出来ないと思っている。なので、まずは品川・名古屋間をきちっと進めていく。その上で完成したら大阪までの工事に入っていく。あくまでもそういう計画になっている」と釘をさした。

知事の持論“部分開業案”…重ねて否定

一方、川勝知事は2023年12月の県議会・本会議で「現行ルートを前提にした上で、出来るところから、つまり開通できる状況になった部分から開通させることが営業実績となり、解決策となると考えている」と述べるなど、ここのところ度々、“部分開通”を持論として口にしている。

川勝知事は県議会・本会議で”部分開業”を主張(2023年12月)
川勝知事は県議会・本会議で”部分開業”を主張(2023年12月)

この点については、すでに丹羽俊介 社長などが否定しているものの、木村専務執行役員も改めて「限定的に開業する場合でも車両基地、指令設備の整備が必要になるし、試運転や運営体制などの確認もあり現実的ではない。仮に一部区間を部分開業することになると、それに合わせた設備整備や確認作業も必要になり、最終的に名古屋まで開業していくということであれば、それに向けてまた作業を改修する必要がある。そうすると時間的にも、労力的にも非常に多く費やすことになり、そもそもの目標である品川・名古屋間の開業が遅れることになりかねない」との認識を示した。

定例会見で”部分開業”を否定した丹羽社長(1月18日)
定例会見で”部分開業”を否定した丹羽社長(1月18日)

JR東海はリニア中央新幹線を整備する目的や意義について「東海道新幹線の経年劣化や大規模災害への備えとして日本の大動脈を二重系化すること」としており、このため木村専務執行役員は「大動脈の機能を発揮するためにも新幹線と交差している品川・名古屋が第一局面で行う最小単位。東海道新幹線と交わらない部分で部分開業をするというのはリニア中央新幹線を進めている目的からしてもない」と強調し、「まずは品川・名古屋(の建設)を進め、それから名古屋・大阪を作っていくということがあくまでも計画で、それ以外の短い区間での部分開業をする考えは当社としてはない」と知事の持論を重ねて否定。

実験線は「すでに完成済み」との認識

また、会見では山梨県を走るリニア中央新幹線の実験線についても話が及んだ。

この実験線をめぐっては、川勝知事が2023年12月の会見で「実験線が完成するというのはどういうことなのか?実験線が実験線でなくなること。つまり実用線になること」と独自の見解を披露し、「今の実験線に一番近いところが甲府駅(山梨県駅)と神奈川県駅になる。ですから、実験線が完成するというのは甲府から神奈川県駅まで結ばれること。そうすると営業できる」と発言している。

リニア中央新幹線の実験線
リニア中央新幹線の実験線

川勝知事がこの発言をするにあたって念頭に置いているのが、2010年にJR東海が国の交通政策審議会中央新幹線小委員会で説明した資料にある「工事は、完成までに10年を超える期間を要し、早期実現のために早期着工が必要。さらに、最新技術維持のため、実験線の延伸完成から間断なく着手することが重要」との記載だ。

JR東海が2010年に説明した際の資料
JR東海が2010年に説明した際の資料

ただ、ここで示されている“延伸”とは、当時は総延長が18.4キロしかなかった実験線を42.8キロに“延ばす”ことであり、木村専務執行役員は「県知事が発言されているような神奈川県駅や山梨県駅といった、中央新幹線で計画している駅まで延ばすことが実験線の完成であるという趣旨ではない。ここで言っている実験線はすでに平成25年(2013年)に完成している。その後、“間断なく”品川・名古屋間の工事に入っていった」と強調した。

県道トンネルなくてもヤード整備は可能

さらに、木村専務執行役員は静岡工区の工事ヤードに関わる認識についても反論。

この工事ヤードをめぐっては、川勝知事が「工事をしながら(生態系の生息状況を)モニタリングすることになっているが、工事をするためには工事ヤードがなくてはならない。そういう物がなければモニタリングも砂上の楼閣の話になる。工事ヤードがそもそも出来なければ、船が出来ていないのに寄港地の研究をしているようなもので、まずそこをどうするかというところに戻らなければいけない」と述べている。

だが、実のところはJR東海が2018年から工事関係者の宿舎の整備などを始めたものの、土砂ピットの設置や樹木の伐採などを行うため、2020年6月に金子慎 社長(当時)が県庁を訪れ着工許可を求めた際、川勝知事が一度は容認するかのような素振りを見せながら、その後一転して「本体工事と一体で認められない」と話したことで工事が中断されている。

当時の金子社長と川勝知事によるトップ会談(2020年6月)
当時の金子社長と川勝知事によるトップ会談(2020年6月)

加えて、川勝知事はJR東海が整備することになっている県道三ツ峰落合線のトンネル工事が遅れていることを理由に「工事をするため、工事ヤードに行くため、準備するべきことがある」とも話しているが、木村専務執行役員は「工事ヤードの整備が私どもの意向でストップしているかのような話があったが、そうではなくて知事から了解が得られなかったので行えていない。(既存の)林道や県道を使って工事ヤードの整備は可能で、県道トンネルがあるかないかに関わらず工事ヤードの整備はできる」と明らかにした。

県当局はJRの指摘に理解示すも?

会見に同席した澤田尚夫 常務執行役員によれば、こうした事実は県の事務方にも伝えていて、「理解を得られている」という。

会見に同席した澤田常務執行役員
会見に同席した澤田常務執行役員

では、“事実誤認”に基づく川勝知事の“独自の見解”や“持論”が散見されるのはなぜなのか。

事務方がJR東海からの指摘を川勝知事に伝えていないのだろうか?それとも、事務方の説明を聞いてもなお知事が考えを曲げないということなのだろうか?

いずれにしても、事実に基づく主張をしなければJR東海との議論がかみ合うはずもない。

(テレビ静岡)

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