選挙の際、投票所までの移動手段がなく、移動が困難な人たちでも投票できるようにと、茨城県つくば市で新たな取り組みが行われる。

それが、有権者が事前予約した日時に投票箱を搭載した車両が自宅前まで来る「オンデマンド型移動期日前投票所」を使ったものだ。1月23日から27日まで、KDDI、東京海上日動、スパイラルが模擬投票の実証を行う。

移動投票所イメージ 外観・車内(画像提供:KDDI)
移動投票所イメージ 外観・車内(画像提供:KDDI)
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選挙において必須となる立会人の役割の一部を“遠隔立会ロボット”が担うことで省人化・省スペース化などを図り、移動投票所の円滑な運行やインターネット投票への活用などを目指すという。

また、駐車スペースの問題で自宅前に車両を駐車できない場合は、移動投票所を駐車した最寄りの公共施設などへの移動を支援する送迎サービスを提供する。

※オンデマンド型移動期日前投票所による模擬投票のイメージ(画像提供:KDDI)
※オンデマンド型移動期日前投票所による模擬投票のイメージ(画像提供:KDDI)

模擬投票のやり方はこのようなものになる。

(1)予約
・スマートフォンアプリのほか電話でも事前予約が可能なため、高齢者などスマートフォンを使い慣れていない方も事前予約が可能。

(2)車両の運用
・各予約者の予約日時と自宅の位置情報をもとに設定された効率的なルートを巡回することで、予約者数の最大化を図る。
・予約者は車両の位置情報をリアルタイムに確認できる。

(3)移動投票所
・投票箱を搭載した車両の車中で、従来の投票方式と同様に投票用紙に必要事項を記入し、投票することができる。
・車いすをご利用の方もそのまま乗車できるほか、単独で車中への移動が困難な場合は介助者も乗車可能。

(4)遠隔立会ロボット
・立会人として遠隔立会ロボットを設置し、市役所にいる職員が遠隔から立ち会う。遠隔立会ロボットにより、同時に複数個所の立会を可能とすることで、選挙時の市役所職員の業務負担軽減を図る。

今回の実証では、市役所職員が現場にも立ち会い、「不正防止に対する効果」や「有権者の心理負担」などの比較検証を行うという。

遠隔立ち会いに使われる「分身ロボットOriHime(株式会社オリィ研究所)」(画像提供:KDDI)
遠隔立ち会いに使われる「分身ロボットOriHime(株式会社オリィ研究所)」(画像提供:KDDI)

この実証を通じて、移動投票所とロボットを活用した自宅前投票の有用性を検証し、2024年秋に予定されているつくば市の市長選挙と市議会議員選での自宅前投票の一部実用化を目指しているとのことだ。

移動が難しく投票所に行けないという人にはありがたい取り組みといえそうだ。では今回、どんな検証を行うのだろうか?また、ロボットが立ち会うということだが不正対策はどうなっているのか?

実証を行うKDDIの経営戦略本部地域共創推進部の担当者に詳しく話を聞いてみた。

つくば市選挙管理委員会と投票運用を検討

――なぜ実証を行うことになった?

つくば市では、移動困難な高齢者や障害者等の投票しやすい環境整備による投票機会拡大を目指しており、その環境向上を目的にオンデマンド型移動期日前投票所の試験運行を行い、2024年秋のつくば市長選挙と市議会議員選挙での自宅前投票の実用化を見据え、投票に活用する車両のレイアウトや車両の事前予約システム、運行計画、運行方法の検証を行うこととなりました。


――遠隔立ち会いロボットは、具体的にどんなことをする?

ロボットの中にカメラが付いており、つくば市役所の会議室から遠隔立会を行います。投票立会人の役割は、投票執行に立ち会い投票及び投票事務が公正に行われているかを監視することです。決められた立会人が遠隔からロボットを操作し、車内の有人立会人とともに、投票する方が投票所に入場してから投票用紙を間違いなく投票箱に入れ退場するまでを立会います。
(※投票者が誰に投票したかはわからないよう配慮します)


――有権者の心理負担の検証とは?

今回の実証では、選挙において必須となる立会人の役割を有人の立会人に加え、遠隔立会ロボットを設置し市役所にいる職員が遠隔から立ち会います。有権者が人の立会とロボの立会について心的負担に差異があったかを検証します。


――不正が行われないために気を付けている点は?

公職選挙法に定められた投票における運用を徹底することが重要です。例えば、投票時における「投票管理者」「投票立会人」の正しい配置、受付や投票機材の仕様等についてもつくば市選挙管理委員会と綿密に打合せの上、投票運用を検討しています。

人口減少・高齢化で一層の活用が期待

――これまでの移動投票所にはどんな課題があった?

従来の移動投票所は予め定められた場所に、投票車両が到着し、投票を行うという流れを採用しているケースが多く、事前予約や投票日当日における予約への対応、有権者自宅前における投票には対応できていませんでした。指定された投票所まで足を運ぶことが困難な有権者にとって、投票ができる環境を実現できると考えます。


――実際に選挙を行う場合、法整備も必要になる?

実際の選挙においては、遠隔での投票立会や投票所の告示など様々な整備が必要です。以下は関連条項(公職選挙法)です。

公職選挙におけるインターネット投票や障害者等が投票しやすい環境整備
「37条(投票管理者)」「38条(立会人)」「41条(投票所の告示)」「44条(投票所における投票)」「46条(投票の記載事項及び投函)」「48条2(期日前投票)」など


――今後、遠隔立会ロボットの選挙はスタンダードになっていきそう?

遠隔立会ロボット立ち会いにて、公職選挙法の改正が必要なため、将来的なインターネット投票の実現に向けての試験的な運行です。ただし、投票の際に必要な「投票立会人」の確保が難しくなっており、人口減少や高齢化に直面している日本においては今後もこの流れが続くと考えられることから「投票立会人」の代替となるロボットについては今後、一層の活用が期待されると想定しています。



1月23日から実証がスタートするわけだが、移動困難な人が選挙に参加しやすくなるよう、実現に向けて進めていってほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。