イギリスで起きた「史上最大の冤罪事件」と呼ばれるスキャンダルがテレビドラマ化され、再注目されている。この事件は、富士通が納入した会計システムの欠陥で、郵便局長ら700人以上が横領罪などで訴追されたもの。FNNの取材に応じた元郵便局長の女性は、「全てを失った」とえん罪の苦しみを語った。

英“史上最大の冤罪事件”が再熱

イギリスでは、郵便局をめぐる「史上最大の冤罪事件」と呼ばれるスキャンダルが再び注目を集めており、事件の引き金となった会計システムを納入した、富士通幹部が日本時間16日夜、議会で証言する。

FNNは被害者の女性に話を聞いた。

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この事件は、富士通が納入した会計システムの欠陥で、郵便局窓口の現金とシステム上の残高が合わず、イギリスの郵便局長ら700人以上が横領の罪などで訴追されたものだ。

有罪判決を受け、刑務所で3カ月を過ごした元郵便局長の女性が、FNNの取材に応じた。

被害に遭った元郵便局長・ジャネットさんは「(普通の生活が)あっという間に壊された。なにもかもがなくなった。多くの人が既に亡くなっている。自殺した人も。(システムを導入した)『ポスト・オフィス』だけでなく、富士通にも多くの責任と説明責任がある」と指摘した。

富士通幹部は16日にイギリス議会で証言する予定で、富士通は「捜査に全面的に協力する」とコメントしている。

ここからは取材センター局長・立石修がお伝えする。イギリスでは、かなり大きなニュースになっている。富士通という世界的ブランドが関わった冤罪事件で、被害者も多い。

少なくとも4人の元郵便局長が自殺しているという痛ましい事件でもあり、イギリスでは連日トップニュースとなっている。

事件の舞台となったのはイギリスの郵便局と、それを束ねる親会社「ポスト・オフィス」だ。

1999年〜2015年にかけて、郵便局の窓口の現金と会計システム上の残高が合わなかったことを理由に、横領や窃盗を疑われた郵便局長らが次々と刑事訴追された。その数は700人以上に上る。

イギリスでは郵便局は民間事業主に委託され、独立採算制を取っている。このため事業主である郵便局長は、会計に差額が出た場合は補填しなければならず、何かあると刑事責任が問われることもある。

その後、原因は、富士通が提供した郵便事業者向け会計システムの欠陥だったことが判明したが、詳しい調査が行われず、このように多くの郵便局員が無実の罪に問われる冤罪事件となった。

再熱のきっかけはテレビドラマ

1999年〜2015年に起きた事件が、なぜ今注目されているのだろうか。

その理由は、2024年に入って放送されたテレビドラマ「ミスター・ベイツ対ポスト・オフィス(Mr Bates vs The Post Office)」だ。

今回の郵便局冤罪事件をモデルにしたイギリスの民放制作のドラマで、新聞各紙などから高い評価を得ている。

イギリスでは社会問題がドラマ化され、大きな議論を呼ぶことがあるが、今回もこのドラマがきっかけとなり、多くの冤罪被害者の悲痛な声に注目が集まっている。

FNNロンドン支局が取材した元郵便局長のジャネットさんもその1人で、1000万円以上をだまし取った疑いをかけられ、懲役9カ月の判決を受けた。

ジャネットさんは2人の子供がいるということで、絶対に刑務所に行きたくなかったことから、司法取引に応じたが、結果的に執行猶予がつかなかったという。

釈放後、自宅に戻っても、足首には位置情報を示すGPSタグがつけられるなど行動制限を受けた。社会的評判も落ち、体調を崩し働くこともままならなくなった。

1人の女性の人生がめちゃくちゃになったと言えるこの冤罪事件。ジャネットさん以外にも同じような思いをした人が多くいる。

事件を巡っては、2019年に元郵便局長ら555人が集団訴訟を起こし、会計システムの欠陥が裁判で認定され、イギリス政府から補償金が支払われた。

ただ、被害に見合った補償は進んでおらず、富士通側にも責任を求める声がイギリスで高まっている。富士通は捜査に全面的に協力するとしていて、16日には幹部がイギリス議会で証言する予定だ。

郵便局長が個人事業主扱いであるため、個別に捜査が行われていたが、最初にこのシステムをきちんと調べていれば、個人の責任ではないということが浮かび上がってきた可能性があり、当初の捜査が、非常にずさんだったという印象を強く受ける。

これに対し、スナク首相も「史上最大の冤罪事件」と発言している。
(「イット!」 1月16日放送より)

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