能登半島地震の被災地・石川県七尾市の医療機関で、熊本市の慈恵病院が行った支援活動にテレビ熊本の中原理菜アナウンサーが同行取材した。
慈恵病院は熊本地震の経験から、今、必要とされる支援を模索し、助産師の派遣や炊き出しを行った。

後方支援の後方支援 味付けにもこだわり

1月10日、熊本市の慈恵病院では職員が炊き出しに使う食材などの準備に追われていた。

熊本地震を経験し被災地の医療を思う蓮田理事長
熊本地震を経験し被災地の医療を思う蓮田理事長
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慈恵病院・蓮田健理事長:震災後、私は悶々(もんもん)としていました。どうやったらお役に立てるかと思いました。限界だと思う、あちらの病院のスタッフは

慈恵病院は現地の医療関係者に支援を申し出、石川県七尾市の医療機関が受け入れを希望した。

炊き出しの準備をする様子
炊き出しの準備をする様子

慈恵病院・蓮田健理事長:石川県に迷惑をかけるのではとじっとしてるのではなくて、(七尾市は)比較的道路が通れてあそこ(七尾市)を起点として(被害の大きい)能登半島の奥の方に行かれますから。後方支援の後方支援ができないかということで、しかも断られない支援はなんだろうと考えたときにお肉だろうと。調理する必要のないかたちの提供を考えた

被災地に負担をかけない、今、必要とされている支援を模索した。

慈恵病院・上田留美栄養管理室長:これは牛丼の具です。電気が通っているということでしたので、真空の袋ごとオーブンで蒸してもらえれば、そのまま使える

牛丼の具は石川で好まれるという少し甘めの味付けに、そして味にはこんな工夫も…

避難生活を思った味付けにこだわった
避難生活を思った味付けにこだわった

調理師・中村直生さん:避難中の人はあまり濃い味はのどが渇くので、それは控えて優しい味にしようと思っている

九州産の牛肉がたっぷり入ったビーフシチューも準備した。支援を申し出た企業からの物資も積み込まれた4トントラックを職員が出発を見送った。

慈恵病院・竹部智子看護部長:一つ一つ目の前のことを安全に大切にしながら、待っている皆さんに届けばいいと思う

被災地で不眠不休の医療従事者を支援

そして翌日、職員10人は被災地に向け出発した。能登半島の中央部にある石川県七尾市は元日に震度6強を観測し、能登北部より被害は少なかったものの、今も断水が続いている。

「危険」と書かれた応急危険度判定の張り紙
「危険」と書かれた応急危険度判定の張り紙

12日の早朝、職員は支援活動を行う恵寿総合病院に到着した。借りるのは 炊き出しの場所だけだ。

感謝を述べる鎌田院長
感謝を述べる鎌田院長

恵寿総合病院・鎌田徹院長:ありがとうございます。職員は大変で不眠不休で、メーンは職員の慰労ということで助かります

恵寿総合病院では、断水のため手術や治療には井戸水を使用。透析が必要な患者には自衛隊からの給水を頼りに治療を進めている。

疲弊した職員が求めるものを分かった支援

医療従事者や地域の人のために用意されたのは、あか牛や黒毛和牛など計300キロ。それにあたたかい豚汁だ。

こだわった味付けも好評のようだった
こだわった味付けも好評のようだった

炊き出しに来た人たちからは「濃くない、ちょうどいい。グー、グー!」と、こだわった味付けも好評のようだ。また、炊き出しのバーベキューに子どもたちからは「めっちゃうまそう」と、喜んでいた様子だった。

恵寿総合病院の看護師:
カップラーメンばかりでたんぱく質とれなくて、とてもうれしいです

感謝を述べる被災者
感謝を述べる被災者

炊き出しに並んだ女性:
うれしい。熊本の人たちも(熊本地震で)ひどい目にあったから、よくこんな遠いところまで来てくれて。感謝、感謝やわ、うれしいわ

医療従事者への支援に感謝する神野理事長
医療従事者への支援に感謝する神野理事長

恵寿総合病院・神野正博理事長:
1日から普段の2倍も3倍も頑張っている職員や、地域の方々に支援していただくことはうれしいことだと感謝している。(熊本地震を)経験したからこそ、特に疲弊している職員たちが何を求めているか分かっていただいた

「元気が出ました、頑張ろうと思う」

たくさんのお肉を抱えた子どもたちが向かった先は…地震後に開設された学童保育。
保育園や学校が再開するまで、医療従事者であり親である職員が安心して働けるように開設。熊本のお肉は子どもたちの昼食になった。

肉をほおばる男の子
肉をほおばる男の子

男の子:
やわらかくておいしい
――ちょっとは元気が出ました?
恵寿総合病院の職員:
だいぶん元気が出ました。頑張ろうと思う

助産師も被災地で活動 新たな命の誕生も

そしてこの日、恵寿総合病院から要請を受け、慈恵病院の助産師2人は医療現場でも活動した。
ボイラーの故障で暖房が効かないため、産婦人科の患者や赤ちゃんは被災を免れた病棟に移動。普段は内視鏡検査の患者のために使っている部屋に入院している。

現状について話す助産師の仙波さん
現状について話す助産師の仙波さん

恵寿総合病院助産師・仙波果歩さん:
近くのクリニックから「断水で分娩(ぶんべん)受け入れできない」ということで当院に運ばれてくる方も何人かいるし、金沢に避難している妊婦もいる

そんな中でも新しい命は誕生している。

寺田真友里さんと羽樂(うた)ちゃん
寺田真友里さんと羽樂(うた)ちゃん

1月7日に長男・羽樂(うた)ちゃんを出産した寺田真友里さん:
予定日が1日だったので、いつ生まれてもという感じで、こわかった。次の日も車中泊して寝られなかったので、いつもと違うことはあったけど、無事に生まれてくれたのでそれだけで何より

この日、新たに2人の命が誕生し、慈恵病院の助産師もお産の介助を行い、近くの産婦人科医院にも支援物資を届けた。

慈恵病院・竹部智子看護部長:
熊本から元気を届けたいという思いでまいりましたので、ひたすらそれだけ活動の目標に、目の前のことを大切にしようということが実ってよかった

たくさんの肉の支援に「ありがとう」のお返しも
たくさんの肉の支援に「ありがとう」のお返しも

同じ経験をしているからこそできる熊本からのエールが、被災地・石川に届いた。

中原アナウンサーが見た被災地と支援活動

中原理菜アナウンサー:
私たちも熊本地震の経験がありますが発災から2週間近くになると疲れがたまってきます。肉の炊き出しは被災を経験した熊本だからこそできる支援だったと思います

中原理菜アナウンサー:
慈恵病院が最も大事にしていたのは「被災地の負担にならない、喜んでもらえる支援」です。準備から片付けまで全て自己完結で終了後は、トラックでゴミをすべて持ち帰りました。石川県では、個人からの物資の提供は受け付けておらず、今回は被災地の病院が受け入れを希望したことで実現しました

――七尾市にはスムーズに入れたんですか?
中原理菜アナウンサー:炊き出しの前日に出発し、被害が少なかった金沢に宿泊、翌日の早朝に金沢を出て七尾まで高速道路で行けました。ただ、途中からは50キロ規制で通常より30分ほど時間がかかり、2時間ほどで七尾市に入りました。七尾市より北の、被害が大きかった奥能登には恵寿総合病院の系列の医療施設があり、大変な中、運営を続けているそうです。慈恵病院からの牛丼の具などの支援物資も届けられるということです

(テレビ熊本)

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