自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件の捜査が進む中、自民党は10日に臨時総務会を開き、再発防止と国民の信頼回復に向けて政治改革を議論する「政治刷新本部」の設置を正式決定し、11日に初会合を開くことを確認した。

本部長に就く岸田首相はこの中で「国民の信頼回復に向けて努力をしなければならない。原因をしっかり踏まえた上で、再発防止に努めなければならないのは当然だが、あわせて政治資金の透明性の拡大とか、政策集団のあり方に関わるルール作りなどの議論を深めていきたい」と述べた。その上で、自身が総裁に就任する際の「多くの国民の皆さんの厳しい目が注がれているとき、自らが変わらなければ信頼を回復することができない」との発言に触れ、「今一度、その原点に立ち戻って、今のこの状況に対して党をあげて最大・最優先課題として取り組んでいきたい」と決意を示した。

本部のメンバーには、麻生・菅の両首相経験者が最高顧問に就き、執行部のほかに小泉進次郎元環境相や三原じゅん子氏ら青年局長や女性局長経験者らも名を連ねた。議論の行方が注目されるところだが、これまでに岸田首相をはじめ自民党が打ち出している論点を見ると、野党や公明党との改革への温度差が浮き彫りになっているのが現実だ。

岸田首相は「具体策はこれから議論」

岸田首相は、1月4日に行った年頭会見で政治刷新本部の設置を打ち出した際に、改革の具体案について問われ、「議論をこれから始めるところですので、確定的に今の時点で申し上げることは控えなければならない」と繰り返し、当日夜のBSフジのプライムニュース出演の際にも、議論はこれからだとして明言を避けた。

その中で、自民党としてまず取り組めることの例示としてあげたのが、パーティーの収支について「党として監査を行うこと」と「現金から原則振込へ移行すること」だった。いずれも派閥のパーティーの存続を前提にした対策と言える。

立憲民主党は改革の論点4本柱を提示

自民党が改革の方向性を慎重に模索する中で、立憲民主党は改革の論点を4つに整理して打ち出した。岡田幹事長が12月28日の会見で提示したのは次の4本柱だ。

1.企業団体からの献金やパーティー券購入の規制強化
2.政策活動費
3.インターネットによる収支報告
4.旧文通費の使途公開

岡田氏は、企業団体献金については、党としてすでに全面禁止する法案を国会に提出済みであることを強調し、廃止に向けた議論に意欲を示した。この改革には、企業団体によるパーティー券購入の禁止も含まれるので、政治資金パーティーのあり方そのものが大きく揺らぐ改革案となる。

会見する立憲民主・岡田幹事長(2023年12月28日)
会見する立憲民主・岡田幹事長(2023年12月28日)
この記事の画像(7枚)

政策活動費については党から幹部議員に支給されているものの使途の報告義務がなく、自民党の安倍派議員がパーティー券収入のキックバック分を報告書に記載しなかった理由として、「政策活動費と言われて受け取った」などと説明し、その存在が注目されてきた。岡田氏は「わが党も収支報告で明らかなように(政策活動費の)支出はあるが去年の秋以降は支出していない」と述べた上で、「政治資金の透明性を高めて国民のチェックを常に受けるという政治資金規正法の趣旨からいうと疑問なしとしない。新たな立法措置をしてこれを制限する議論を党の中でしっかりと行いたい」と述べた。

この企業団体献金の全面禁止と旧文通費の使途公開については、立憲だけでなく日本維新の会も主張していて、多くの野党に共通の方針と言えそうだ。岡田氏は今後の他の野党との連携については「意見を交わしてみないと同じ形でできるかどうかわからないが、なるべく揃えていった方がいい」と語っている。

自民党との議論に関しては「私達の案は、(企業団体による)献金・パーティー(券購入)の全面禁止ということだ。そこまで自民党が歩み寄れるのかどうかというと、かなり疑わしい」と述べ、政策活動費についても「毎年何十億も不透明な使い方をしている自民党だ。歩み寄れるのか、かなり疑問だ」と指摘した。

立憲の4項目は、自民党にとって“死活問題”

この4点についての自民党の現時点での姿勢を見ると、まず企業団体献金の全面禁止には総じて否定的だ。自民党本部は党の政治資金団体を通じて毎年20億円を超える企業団体献金を受けていて、各議員も政党支部を通じて多くの企業団体献金を受けている。これがなくなるのは党運営には致命的であり、ましてパーティーを開いても企業からパーティー券を買ってもらえないとなると自民党各議員の現在の活動を維持するには死活問題となる。

政策活動費についても、直ちに改革すべきだとの声が自民党の中枢から聞かれることはない。自民党の政策活動費の原資は多くが企業団体献金であるとみられ、野党各党の政策活動費より金額が10倍以上と桁違いだ。そのため、これを抜本的に見直すとなると大きな改革が必要になる上、今回のパーティー問題とは直接関係ないとの考えも慎重姿勢の裏にあるようだ。

インターネットによる収支報告と、旧文通費の使途公開については、前者2つに比べるとハードルは低い部分があるが、扱いは今後の議論次第とみられる。

公明党も改革4項目を提案

一方、今回の政治改革議論で、連立政権の一員ながら、自民党と一線を画して改革に前向きな姿勢を打ち出しているのが公明党だ。公明党は改革の項目として、「政治資金規正法への連座制適用」、「パーティー券購入者の収支報告書への記載基準を20万円超から5万円超に引き下げ」、「旧文通費の使途公開」、「公職選挙法違反の議員の歳費返納」の4つを掲げている。中でも、連座制適用は非常に厳しい罰則となるため、自民党との折衝は難航する可能性がある。

政策活動費の使途公開を法律で義務付けるべきとの認識を明らかにした公明・山口代表(2日)
政策活動費の使途公開を法律で義務付けるべきとの認識を明らかにした公明・山口代表(2日)

また、公明党のトップ山口代表は、政策活動費について「使い道を明らかにせずに配られている。不透明な政治資金の流れの温床になっている」として、使途公開を法律で義務付けるべきだと訴えている。公明党が政策活動費を支出していないこともあり、自民党とは大きく異なる主張だ。立憲の岡田幹事長が「政策活動費は山口さんが言及しておられて心強い」とエールを送るという構図の中、公明党が自民党などとの議論の中で、どう主張していくかが政策活動費の今後を左右するかもしれない。

自民党内の議論は何を中心に行うのか

いずれにせよ自民党と公明党や野党各党との間には大きな温度差があるが、それは自民党内で現状の何を問題と捉えて改革するのかに関して様々な考えが混在していることも関係している。

自民党の派閥幹部を中心に根強い意見は「今回の事件は、安倍派がパーティー券収入のキックバック分を記載しなかったことが問題で、安倍派に政治資金規正法を守る意識が欠けていただけだ。安倍派以外の派閥のシステムや、パーティーが悪いわけではない」という立場だ。この考え方に立てば、岸田首相が例示した、党による派閥パーティーの監査や、銀行振り込み制で、一定の対策ができるという話になる。

ただ、野党はもちろん、岸田首相や麻生副総裁も、これは安倍派の問題ではなく、自民党全体の問題だとの認識を示している。では、自民党の、あるいは今の政治制度の何が問題なのかというと論点は分かれる。問題の規模の小さい順にあげると

・派閥パーティーの問題
・政治資金パーティー自体の問題
・現在の派閥の力が強すぎる運用の問題
・派閥という仕組み自体の問題
・政治資金のあり方全体の問題

といった考え方がある。

このうち、自民党の派閥幹部は、最も小さい「派閥パーティーの問題」と捉え、立憲民主党などは最も大きい政治資金全体の問題と捉え、先の4本柱を打ち出していることがわかる。

例えば政治資金パーティーをめぐっては、パーティー券の購入限度額や購入者公開基準額の引き下げが現実的な対策として浮上しているが。それだけで国民の納得が得られる改革になるかどうかが議論を左右しそうだ。何を問題として議論することが求められているのか、今後の国民世論の動向にも注目が集まる。

派閥のあり方をめぐる深い溝

そして、自民党のガバナンスの上で重要な論点になっているのが派閥のあり方をめぐる問題だ。自民党がこれまで何度も派閥の解消を打ち出しながら、最終的に維持されてきたのは周知の通りで、派閥政治の弊害をこの機会に改めたいという思いは、これまで脱派閥を訴えてきた菅前首相ら無派閥議員を中心に強いものがある。

一方で、これまで苦労して派閥の人数を増やし、政治的な力を築いてきた現在の派閥幹部たちからすると、ここでその派閥を弱体化されるのは避けたいという思いを抱くのも自然な感情だろう。

派閥解消論には慎重な姿勢を示した自民・石破元幹事長(10日)
派閥解消論には慎重な姿勢を示した自民・石破元幹事長(10日)

また派閥をいくら解消しても、議員のグループ自体は否定されるものではないため、岸田首相らに加え、派閥の弊害を訴える石破元幹事長も10日、「党が果たし得ないことを派閥が補完してきた面はある。プラスの側面まで全部ダメということにはならない」と派閥解消論には慎重な姿勢を示している。

そこで派閥の解消までいかなくても、金と人事の配分に関する派閥の機能をどこまで弱めるかが焦点となるが、現時点で落としどころは見えていない。仮に派閥パーティーを禁止すれば、派閥の集金ルートがなくなり、所属議員に金を配分するスキームが壊れるが、そこまで踏み込むのかどうか、議論の行方が注目される。

立憲民主党の岡田幹事長は自民党内の議論について「今回は派閥をなくすということについて党の中で議論せずに残ることを前提に総理が話しているのは極めて遺憾だ。派閥をどうするかは大きな論点だと思うので、廃止も含めてまずフラットに議論すべきだ。それをあらかじめ総理が封じてしまっているのは極めておかしい」と批判している。

岸田首相の2つのジレンマ

こうした状況の中で、岸田首相は2つのジレンマを抱えることになる。1つは言うまでもなく、派閥の問題にしても政治資金全体の問題にしても、改革に及び腰と見られれば国民の信を失うが、改革に前のめりになりすぎれば党内の派閥トップからの支持を失うという板挟みの構図だ。

もう1つは、岸田首相が議論をリードしないと国民から改革の姿勢が見えないと捉えられてしまうが、議論をリードしすぎるとせっかくの政治刷新本部の議論が空虚になってしまうというジレンマだ。その苦しい立場が、冒頭で触れたプライムニュースでのやりとりにもにじんでいた。

看板の「聞く力」という言葉が色あせてきている中、岸田首相が、麻生氏菅氏という最高顧問2人、党内の中堅若手、公明党、野党、そして何より国民世論の声の中で、どんな解を見いだすのか、それは岸田政権の命運と、秋の自民党総裁選の構図にも直結する。
(フジテレビ政治部デスク 高田圭太)

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(7枚)
髙田圭太
髙田圭太

フジテレビ報道局  政治部デスク 元「イット!」プロデューサー