年が改まって米国ではいよいよ大統領選が本番を迎えるが、その主役的存在のドナルド・トランプ前大統領は、選挙戦を戦う前に投獄されることもあり得ると言われ始めている。

トランプ氏に2つのかん口令

トランプ氏は、次の3つの犯罪をめぐり78件の罪状で刑事訴追されており、全て有罪となると合計641年の拘置刑が課せられることになる。

2020年大統領選でジョージア州での敗北を覆そうとした罪で起訴された
2020年大統領選でジョージア州での敗北を覆そうとした罪で起訴された
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①ポルノ女優に対する口止め料に関わる証票類の偽造
②機密文書の持ち出しとその内容の漏えい
③2020年大統領選挙転覆の試み

これらの罪状については3月から個別に本格的審議がはじまるが、トランプ氏側の引き伸ばし作戦もあって、選挙の行方を左右するような展開になるかどうか見通しは不透明だ。

しかしここへ来て、トランプ氏がすぐにも投獄される可能性のある司法命令が2件発令された。いずれも判事によるトランプ氏への「gag order」と呼ばれる「かん口令」で、一つは、トランプ氏が資産価値を偽り不正な利益を得ていたと訴えられた裁判をめぐり「政治的裁判だ」と非難していることに対して、判事が裁判に関わる発言を禁止した命令だ。

アイオワ州での演説では、バイデン大統領や共和党のヘイリー氏を批判(2024年1月6日)
アイオワ州での演説では、バイデン大統領や共和党のヘイリー氏を批判(2024年1月6日)

しかしトランプ氏は、裁判所職員の女性がチャック・シューマー民主党院内総務と並んで写っている写真をSNSに投稿して「シューマーのガールフレンド」と書き込み、裁判が民主党支持者によって影響されていると主張、5000ドル(約72万円)の罰金を課せられた。続いて、記者団に「この裁判の判事は非常に党派性の強い人物だ」と語って、1万ドル(約144万円)を支払うよう命じられた。

その際、アーサー・エンゴロン判事は「もし命令違反が続けば、今度は拘置刑を課すことになる」と述べ、「当法廷の忍耐は既に警告の域を超えている」とも忠告した。

もう一つのかん口令は、トランプ氏の2020年の選挙干渉に関連して検事や証人を威圧するような発言することを禁じたもので、タニヤ・チュトカン判事は「被告人の表現の自由の権利も、司法の秩序ある運営に必要あるときは譲歩しなければならない」と断じた。

“かん口令違反”で投獄の可能性も

米国の判事が命ずるかん口令は、違反した場合の罰則の規定がなく、判事の判断で罰金なり拘置が命ぜられるが、これまでに拘置ならば90日間が課せられたこともある。このため、トランプ氏の法律顧問たちは、かん口令に違反するような発言がないよう諌めているようだが、不規則発言が大好きなトランプ氏のことなので側近の不安は尽きないようだ。

大好きな不規則発言が“命取り”になるか…
大好きな不規則発言が“命取り”になるか…

「トランプは、本人が恐れているよりも早く牢に繋がれることになるかもしれない」
ニュースサイト「ザ・デイリービースト」はこんな見出しの記事で、トランプ氏がこれらのかん口令に違反するような失言をして投獄されることもあり得ると伝えた。

それが例え90日間の拘置であっても、大統領選に及ぼす影響は計り知れない。トランプ氏の核心的な支持者は残るだろうが、得票の30%は占める中間層の離反を招いて、選挙戦が本格的に始まる9月2日のレイバーデー(勤労感謝の日)を前に勝敗が決しているようなことにもなりかねない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。