米大統領選挙に向けた予備選挙が1月15日、幕を開ける。本命視される民主党の現職大統領のバイデン氏と共和党の前職・トランプ氏の戦いを巡り、予期せぬ事態を引き起こす、いくつもの“懸念”を危惧する声は、日増しに大きくなっている。

直近の世論調査(Harvard-Harris:2023年12月13日、14日調査)では、両者の直接対決となった場合、バイデン氏42%、トランプ氏47%とトランプ氏がリードしている。ギャラップ社の調査(2023年12月)では、バイデン氏の支持率は39%と2000年代で再選を目指したどの大統領よりもこの時期の支持率が低いという。

81歳、最高齢を更新する現職大統領が“超低空飛行”で目指す再選と、77歳“被告人”として選挙戦に臨み、再起を目指すトランプ氏の再対決に、国民からはうんざりする声もあがる。

“Watch me”は、論より証拠となるのか

バイデン氏が抱える最大の“懸念”は、今年82歳を迎えることになる年齢だ。本人は、健康不安説の火消しに躍起だが、国民の多くが職務遂行能力を不安視している。

再選を目指すバイデン大統領(81)
再選を目指すバイデン大統領(81)
この記事の画像(10枚)

演説や年齢を問う質問に対してバイデン氏が繰り返す言葉が「Watch me(私を見ていなさい)」だ。しかし、各種世論調査では、有権者の7割が2期目を務めるには高齢過ぎると回答し、82歳を迎えようとも力強い大統領になるという見方からはほど遠い評価を受けている。

同時に、米最高司令官の“年齢問題”は、選挙戦の最大の争点となっている。有権者からは、大統領職どころか選挙戦すら戦えないのではないかという厳しい見方もあがるほどだ。今年78歳を迎えるトランプ氏もまた、5割の有権者から“年齢問題”の指摘を受けている。

再選を断念した大統領は過去に5人

過去の大統領選を見ると再選を目指しながら出馬を取り下げたケースもある。

2期目を断念したトルーマン大統領(左)とジョンソン大統領(右)
2期目を断念したトルーマン大統領(左)とジョンソン大統領(右)

トルーマン大統領は、ニューハンプシャー州の民主党の予備選でライバル候補に逆転された後、1952年に再選を断念した。1968年、ジョンソン大統領はベトナム戦争の戦況悪化などを理由に出馬を見送っている。

古くはポーク大統領(1845年-1849年)やブキャナン大統領(1857年―1861年)、ヘイズ大統領(1877年-1881年)、クーリッジ大統領(1923年-29年)と過去に5人の大統領が再選を断念しているが、1789年初代のジョージ・ワシントン大統領から234年の歴史を振り返るとわずか6人ということから、大統領が2期目を断念するケースは珍しいと言える。

しかし、バイデン氏は、2023年12月5日、ボストンでの選挙資金集めのイベントで、「トランプ氏が出馬していなかったら私も出馬していないかもしれない」と再選を目指さない考えがあったことを伺わせた。直後に記者団に対し「今は辞退しない」と火消しを図ったが、大統領を一期しか務めない考えだったことをのぞかせる発言は、高齢問題に拍車をかける形となった。

民主支持層に根強いオバマ“復帰論”

仮にバイデン氏が大統領に再選されたとしても、高齢への不安はつきまとう。言い間違えや転倒、歩行中のつまずきが少なくなく、有権者は、大統領継承順位1位となる副大統領の存在も同時に見極めていくことになる。

しかし、ハリス副大統領の人気は決して芳しいものではなく、好意的かどうかを尋ねた世論調査(ウォールストリート・ジャーナル:2023年11月29-12月4日)では、33%が好意的と回答し、そうではないと回答した人は59%と、大統領同様“不人気”のレッテルは貼られたままで、大統領候補としての存在感を見いだせないでいる。

”副大統領”待望論もあるオバマ元大統領
”副大統領”待望論もあるオバマ元大統領

こうした中、今なおくすぶるのが、オバマ元大統領の副大統領としてのホワイトハウスへの返り咲きだ。アフリカ系アメリカ人初の大統領として人気を誇ったオバマ氏は、経済の低迷や国民保険制度(オバマケア)などが評価されず、就任時の熱気を維持することなく、ホワイトハウスを後にした。しかし、その後は、民主党支持層を中心に人気が再燃し、2022年の中間選挙でもバイデン氏をしのぐ人気ぶりをみせた。

こうしたことから政権内からも、オバマ“副大統領”となることで、バイデン政権を力強く後押しするとの声もあがる。しかし、憲法修正22条では「何人も、2回を超えて大統領に選出されてはならない」とあり、そもそも副大統領にはなれないと指摘されている。それでもなお根強い“オバマ復帰論“のほか、オバマ大統領時代、ファーストレディを務めたミシェル・オバマ氏を大統領候補に推す声すら挙がるほど、民主党の人材不足は深刻だ。

元ファーストレディ ミシェル夫人
元ファーストレディ ミシェル夫人

米国立公文書館の資料によると選挙を経ずに大統領を継承したケースは、1841年のタイラー副大統領から、1974年のフォード副大統領まで9人の副大統領が大統領の死や辞任によって大統領に就任している。130年で12、3年に一度、副大統領が大統領職を継承することを考えれば決して珍しいとは言えないことかもしれない。それだけに有権者は、高齢の大統領候補とともに戦う副大統領候補も見定めることになる。

選挙戦の鍵を握る「副大統領候補」

大統領選挙を分析するジョージタウン大学のトッド・ベルト教授(54)は、副大統領候補の存在も選挙戦の行方を大きく左右すると語る。その上で、バイデン氏が選挙戦の中で、ハリス氏を切り離すことは政治的リスクが大きすぎると語る。

バイデン大統領とハリス副大統領(59)
バイデン大統領とハリス副大統領(59)

「ハリス副大統領には、多くの有権者がいる。彼女は女性、アフリカ系アメリカ人、インド系アメリカ人の間で多くのエネルギーを生み出し、彼らはバイデンのために本当に動いている。もし今、彼女を切り捨てるとしたら、バイデン氏が、忠実な副大統領に対して非常に不誠実であるように見えるだろう。さらに、バイデン氏への投票率が下がる可能性がある」

ジョージタウン大学トッド・ベルト教授(54)
ジョージタウン大学トッド・ベルト教授(54)

「インド系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人の票は、激戦州のペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ノースカロライナ、ジョージアなどの都市部では重要だ。これらの州では、ヒラリー・クリントン候補への投票率が低かった。バイデン氏には、アフリカ系アメリカ人の投票が必要だ。もしバイデンがハリス氏を切り離すことがあれば、彼にとっては難しい選挙戦になる。有権者の半数以上を占めて女性の投票率は、男性よりも高い。だから、その1人を奪いたくはないだろう。政治的リスクがあまりにも大きいので、実現するとは思えない」

トランプ氏は“親トランプ”の2人が副大統領候補か、それとも…

その上で、ベルト教授は、トランプ氏の副大統領候補に“親トランプ“の2人の名前を挙げた。
候補者指名争いで戦うラワスワミ候補(38)と、共和党で元テレビキャスターのカリ・レイク氏(54)だ。

カリ・レイク氏(54)とラワスワミ候補(38)
カリ・レイク氏(54)とラワスワミ候補(38)

ラマスワミ氏はインド人移民の両親もとで育ち、党の候補者指名争いでは、フロリダ州知事のデサンティス氏、元国連大使のニッキー・ヘイリー氏に次いで4位だが、「当選したらトランプ氏を恩赦する」と発言するなどトランプ氏の支持を前面に打ち出している。

もう一人のレイク氏は、トランプ派の代表格として知られ、現在も2020年の大統領選で「不正があった」とするトランプ氏の主張を支持している。2022年のアリゾナ州知事選で惜敗し、今年、大統領選と同時に行われる上院選での出馬を表明している。ベルト教授は、彼らの年齢や人種が、トランプ氏の助けになると話す。

ニッキー・ヘイリー候補(51)
ニッキー・ヘイリー候補(51)

これに関し、複数の米メディアは2023年12月、トランプ氏が、ともに共和党の候補者指名を争うニッキー・ヘイリー元国連大使の副大統領候補への起用を検討していると報じた。ヘイリー氏は、タカ派の外交通として“反トランプ”の保守層の支持を得ていて、今後は、様々な声が挙がる副大統領候補への視線も熱くなりそうだ。

裁判“追い風”にトランプ氏“復活”の勢いも

共和党の候補者指名争いで独走中のトランプ氏は、裁判が“着火剤”となり、勢いを強めるが、そもそも出馬資格はあるのかどうかの議論が続いている。

2023年12月、コロラド州の最高裁判所は、2021年の連邦議会襲撃事件を巡り、共和党候補を決める州の予備選へのトランプ氏の参加を認めない判決を下した。トランプ氏は判決を不服として連邦最高裁に上訴すると表明し、判決が覆される可能性があるが、これまでの起訴時同様、強固な支持者が反発し、献金がさらに集まるとの見方もある。

トランプ氏のマグショット
トランプ氏のマグショット

そのトランプ氏は、機密文書の持ち出しや2020年の大統領選挙への介入事件など91の罪に問われ、全ての罪で有罪となった場合は、最大で禁錮700年とも言われている。トランプ氏が有罪となった場合、共和党支持層の31%(ロイター/イプソス:2023年12月5日-11日)が、トランプ氏に投票しないとの調査結果もあり、裁判の行方次第では風向きが変わる可能性もある。

バイデン対トランプでアメリカの分断は一層深まったとの指摘もある。それだけにトランプ、バイデンの不人気同士の二者択一ではなく、第三の候補を求める声も根強い。実際に、ギャラップ(2023年9月1日-23日)の調査では、63%の有権者が「第三の主要政党が必要」という回答もある。

高齢者候補の再対決に“うんざり”の声もあがる2024年の大統領選は、有権者が政策だけではなく、年齢や人種、各候補が抱える様々なリスクなどを想定しながら厳しい目を注ぐ選挙戦となる。
(FNNワシントン支局 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。