菅長官「東京問題」発言の真意は

政府は16日、「Go Toトラベルキャンペーン」から東京都を除外することを決定し、小池東京都知事は「国がよーくご判断されたことだろう」「説明は無かった」などと応じた。背景としては、都内の感染者急増という事実と共に、国と都の不信感が指摘されているが、それが表面化したきっかけは7月11日のことだ。

この日、北海道千歳市で講演を行った菅官房長官は、政府の新型コロナウイルス対策と現状分析について説明した。その中で菅長官は、4月の緊急事態宣言時と比べ病床数の確保をはじめとした医療提供体制に余裕があること、重症者数が減少していること、30代以下の感染者が8割を占めていることなど、当時とは環境が違うことを強調し、次のように語った。

「政府としては、全体を見ながら徹底してPCR検査をして、陽性の人を探すという攻めの姿勢で今対応しています。PCR検査も大幅に拡大をしていますから、現状は違ってきている。しかし、これ以上の拡大を防ぐために細心の注意を払いながら、また東京や東京のそれぞれの区と連携をしながら今、取り組んでいます。この問題は圧倒的に『東京問題』と言っても過言ではないほど、東京中心の問題に今なってきています。北海道は今日、知事、市長もお見えでありましたけど、その連携によって、大部分、封じ込めているんじゃないでしょうか。政府としてはまさにそうした拡大防止を防ぎながら、社会経済活動の段階を少しずつ上げていくという基本的な方針の中で取り組んでいきたい」

菅長官が発した「東京問題」という言葉。その直後に北海道知事や市長との連携に言及し「大部分封じ込めている」と述べていることからも見て取れるように、根底には東京都の対応や都と都内23区との連携への不満があり、その思いがにじんだものとみられている。

これだけあった!?政府内で噴出する東京都への不満

では、政府は東京都の対応の何を問題視しているのだろうか。実は政府内からはこれまでも東京都の様々な対応に関する数々の不満が噴出していた。

その1つが、東京都が当初「陽性率」の公表に応じていなかったことだ。感染状況の深刻さを把握するには、何件検査したうち何件陽性だったかで算出する「陽性率」が重要だと専門家はかねて指摘してきた。現在この陽性率は5-6%前後だが、4月中旬の感染ピーク時には約30%という異常な高さであり、当時検査数が不足していたことがうかがえる。

4月に緊急事態宣言を出すにあたり、安倍首相と菅長官は検査数を把握するよう厚労省の鈴木医務技監に再三指示した。ところが厚労省からの度重なる要請にもかかわらず、東京都は「今日何件検査したか」というデータの把握は、事務の繁雑さなどから無理だと拒否し続けたという。

こうして東京都の検査数が把握できない状況が続き、結局「約30%」という数字を含め、検査数と陽性率がさかのぼって公表されたのは感染がピークを過ぎた5月上旬だった。

2つめは、東京都の「新規感染者数」の正確性への疑義だった。東京都が毎日発表する「新規感染者数」は「都庁が把握した日」がベースになってきたが、本来は「陽性」という結果が出た日をベースにしないと、直近の感染動向を把握したことにはならない。ところが、東京都では、都庁や保健所の業務が目詰まりを起こしていて、厚労省からの要請にもかかわらず、「都庁が把握した日」のベースの公表が続いていた。

厚労省が疑問を呈したのは感染者数2桁が続いて下降ペースになっていた5月1日、2日に「165人」「154人」と突如大きな数字が出たことだ。政府が把握した都庁の内部情報では、「過去に報告できずに積み残しになっていた陽性者数を便宜上この2日間に『積んだ』」ということだった。

厚労省からの再三の要請を受けて都庁が「診断が確定した日」ベースの感染者数の推移を公表したのは5月13日だった。

そしてこの新たなベースの数字では、5月1日、2日の新規感染者数は「51人」「75人」だった。政府は5月7日に緊急事態宣言を延長したが、国は不正確な数字での判断を行わざるを得なかったことになる。

3つめの政府から東京都への不満は、7月に入ってからの感染者数増への都の対応がずさんに映ったということだ。

例えばメディアでも取り上げられた「連絡のとれない感染者」の件がある。東京都のホームページ上では陽性者の動向に関する内訳が公表されているが、このうち「入院・療養等調整中」という分類があり、15日時点で324人とされている。これは陽性が判明したが入院も自宅療養もせずに宙ぶらりんになっている人が324人いるということだ。厚労省によれば「中には収容された若いホストが軽症者用のホテルから逃げ出して行方不明となり、ホストクラブで働いていた例もある」とのだという。

厚労省は事態を深刻視して、東京都に実態把握を要請したが、東京都からの正式回答はなく、「連絡が取れない陽性者が多数いる」との報道が出た14日、夜になって突如小池知事が会見で「連絡がとれなかったのは1人だけ」と表明したが、政府内ではこの小池知事の発表内容を疑問視する向きも多い。

そして、宙ぶらりんの人が多数出た背景として政府内で問題視されたのが、東京都の軽症者を収容するためのホテルの確保数だ。政府は4月の感染拡大に伴う各地での病床ひっ迫に対応して、軽症者をホテルに収容すべく、和泉首相補佐官が主導してホテル確保に動き、各都道府県向けに全国約2万室が確保された。

しかし政府関係者によると、東京都は6月末から7月上旬にかけて、それまで確保していた5カ所2865室(6月30日時点)の軽症者用ホテルの大半を、契約期限切れに伴い解約してしまったという。そのため軽症者用のホテルが7月13日には1カ所196室(16日時点では2カ所371室)しかなくなり、急増した軽症の陽性者の収容先がなくなってしまったという経緯だ。

現在、東京都は急いでホテルを確保しようとしているが、政府内からは、作業が追い付いていないとされる東京都の見通しの甘さを嘆く声があがっている。

また、都の保健所をめぐって厚労省は、逼迫している業務を助けようと応援職員を数名確保して6月下旬から新宿保健所に派遣していた。しかし新宿保健所から「監視されているようで嫌だ」というクレームがあり、応援職員が追い出される形で派遣が終了したという。現在、厚労省は再度応援職員を派遣すべく調整中だというが、省内からは都の保健所の対応にあきれる声があがっている。

東京都への“やきもき“はいつまで続く

こうした数々の背景がある中で、菅長官の「東京問題」発言が飛び出した。それに対し小池知事は「政府のGo Toキャンペーンは国としての整合性をどう取っていくのか、冷房と暖房を両方かけるようなものだ」と反論したが、政権内から「小池知事は問題をすり替えている。ほかの自治体は市町村と連携しているのに都と区の連携だけがいまだに不十分だ」という声があがった。

そしてお互いが不信感を強める中で、政府は16日、「Go Toトラベルキャンペーン」から東京都を除外することを決めた。

小池知事は陽性者の急増に伴い「感染拡大警報」を出し、不要不急の外出自粛を呼びかけるなど、感染拡大防止に向けた取り組みを強化する方針を示している。しかし感染防止策を主導する国と、対策の中心となる東京都との間での「やきもき」や「もやもや」が解消される日が来ない限り、完全な封じ込めは見えてこないだろう。

(フジテレビ政治部 千田淳一)