12月30日(土)に行われる、“大学女子駅伝の日本一”を決める富士山女子駅伝。
”絶対女王”の名城大学が史上初の6連覇を狙う一方で、ここ5年で4回、2位に甘んじているのが大東文化大学だ。

”シルバーコレクター”と言われ、日本一の座をあと一歩で逃してきたチームに今年、”救世主”が現れた。
”最速留学生”初挑戦レースで大会新記録
その”救世主”とは、チーム初のケニア人留学生、1年のサラ・ワンジル選手(19)だ。

入学してわずか1カ月で迎えたデビュー戦が5月の関東インカレ。10000m種目に初挑戦ながら、大会新記録を33年ぶりに更新する32分17秒19のタイムを記録。
さらに9月。学生トップランナーが集う日本インカレの10000mでも見事優勝を果たした。

そんなスーパールーキーの”強み”を本人に聞いてみると。
「長距離も坂も得意なところです」
たどたどしくも、ハッキリした口調で答えてくれた。

10月に行われた全日本大学女子駅伝。坂のアップダウンが激しく、約30mの高低差がある最長区間9.2kmの5区を任されたワンジル選手は、自ら”ストロングポイント”を証明した。
トップ通過の名城大学と1分13秒差でタスキを受け取ると、長距離も高低差も物ともせず、その差を1人で1分近くも縮める走りを見せた。最終的に名城大学との差を15秒にまで縮めて最終6区のアンカーへタスキを渡した。

チームは惜しくも準優勝だったものの、ワンジル選手は5区の区間賞を獲得した。
自身の長所を生かして”富士山攻略”を
”打倒・名城”に燃える30日の富士山女子駅伝に向け、ワンジル選手の頭の中には、既にいくつかのレースプランができている。

「もし5区を走るなら、33分で走りたい」
全7区間、43.4kmで争われる富士山女子駅伝。最短が3.3kmの3区なのに対し、最長の10.5kmを走るのが5区。ワンジル選手の”長所”を生かす走りができるはずだ。

ちなみに、大東文化大学OGで、マラソン種目の2024パリ五輪・日本代表に内定している鈴木優花選手が2021年に出した記録は33分7秒。
そして同じ年に拓殖大学の不破聖衣来選手(当時1年)は32分23秒で、5区の区間新記録をマーク。

ワンジル選手のターゲットタイムである33分は、紛れもなく「日本トップクラス」のタイムなのだ。
そして、こんな目標も。
「もし7区を走るなら、区間賞獲りたいです」
最終7区の8.3km。タスキを受けた3km過ぎから上り坂が続き、その高低差は4.6kmで169m。

実に「ビル50階分」を駆け上ることに。女子駅伝最大の難関区間ともいわれており、この最終区間の”魔の坂”で、順位が大きく変動することも考えられる。
坂が得意なワンジル選手が最終区で区間賞の走りを見せる…つまりそれは大東文化大学の”悲願達成”に近づくということも意味する。

ワンジル選手がどの区間を走るかはレース前日の29日(金)に発表されるが、もし5区や7区を担当するのであれば、今大会の勝負の行方を左右する大きな見どころになりそうだ。
(※編集注:29日(金)の前日オーダーでワンジル選手は5区を走ると発表された)
「言葉の壁」を超えるワンジルの存在感
その采配を振るうのが、大東文化大学陸上競技部の外園隆監督だ。
チームに入ってきた「スーパールーキー」の存在感を高く評価している。

「もうね、このチームを変えている。練習への取り組み方からして、サラは違うんですよ。ウォーミングアップにしても、クールダウンにしても、やっている真剣さが違う」

「『自分でやるところはやらないと強くなれない』というのは、みんながサラから学ぶところだと思う」
マジ・無理も 好きな日本語は「歴史」
来日1年目のワンジル選手にとって、陸上の他に重要なのが授業での日本語の習得だ。ノートを見せてもらうと、勉強中の漢字がびっしり並んでいた。

「日本語の”文法クイズ”は難しいですね。毎日、勉強しています。(最近覚えた日本語は)60個ぐらい。好きな日本語は『歴史』。漢字が覚えやすいです。『マジ』とか『無理』も知っています(笑)」
マジとか無理は同世代のチームメートから教えてもらったに違いない。

ケニアから来た19歳にとって、この日本の環境はどうなのだろう。
「1年生のみんなは優しくて、いつも笑顔です。監督もコーチも、たくさんアドバイスをくれます。私はとてもうれしいです」

日本の食事もお気に入りのようだ。
「ラーメンと牛丼が好きです。結構、たくさん食べます(笑)」

言葉の壁は関係ない。走ることが好きで、笑うことも好きだ。ワンジル選手の加入がチームの空気を変え、アスリートとしての意識を向上させた。
チームワークも良好の彼女たち。目標に向かって、大東文化大学の「Dポーズ」を見せてくれた。
チームの総合力で“打倒・名城”へ
大東文化大学陸上競技部は、昨シーズン終わりで、3000m障害で世界選手権に出場した吉村玲美選手など主力メンバーが卒業した。

その一方で今シーズン、ワンジル選手と同じ1年生に野田真理耶選手が加入。
野田選手は高校3年生で5000mを15分台で走る記録を出すなど、鳴り物入りで入部した「学生トップクラス」の有望選手だ。9月に行われた日本インカレの5000mではワンジル選手に次ぐ3位という成績を残している。

大東文化大学の駅伝でのレース成績は、9月の関東大学女子駅伝で2位に2分以上の差をつけてぶっちぎりで優勝。出場した6人中4人が区間賞と、チームの総合力の高さを証明した。
そして10月の全日本大学女子駅伝では名城大学に次ぐ準優勝。
今年の駅伝を締めくくる”最終決戦”。
30日の富士山女子駅伝での”打倒・名城”に向けて、外園監督は選手たちにこう話している。

「やっぱり、みんな、頂点に行きたい、優勝したい気持ちはあると思うんですよ。そんな中で、自分の役割をしっかりやろうということを話しています」
チームスローガンは「紡ぐ」
『皆の想いを紡いで優勝をつかみとり、大東文化大学の歴史を紡ぐ』という願いが込められているという。
ワンジル選手にもその想いは伝わっている。

「富士山女子駅伝では、みんなで(ふだんの)練習を意識して、優勝したいと思います」
4年連続2位の”シルバーコレクター”脱却へ。
想いを紡いで優勝をつかみ、「歴史」に名を刻む。
ワンジル選手の大好きな日本語が、ゴールで待っている。
大学女子駅伝の頂点へ
2023富士山女子駅伝
12月30日(土)あさ9時55分~
フジテレビ系にて生中継